第一話 新たな厄災(前編)



エオニアのクーデターが治まってから約数ヶ月がたった。反乱によってつけられた皇国の傷は人々の努力の甲斐あって序々に癒えてきている。全ての元凶である「黒き月」を葬った光の天使、エンジェル隊は現在白き月の警護にあたっている
そしてその天使達を指揮していた男、タクト・マイヤーズはエオニア軍の残党及び新たなロストテクノロジーの発見のため皇国を離れ今も銀河を旅しているのだが・・・・

「ふぁ〜あ、暇だなぁ〜」
 タクトの大アクビがブリッジ中に響いた
「だらしないぞタクト、しっかりしろ!」
 司令官専用シートの隣にいたレスターが声を荒げる
「でもさぁ、皇国をでてからもう結構経つけどロストテクノロジーどころか
 艦一隻見当たらないじゃないか」 
「当たり前だ。「黒き月」みたいなのがそこら辺にゴロゴロしててたまるか」
 レスターの言うことももっともなのだが皇国への定時連絡でも毎回「異常ありません」と同じコトの繰り返しではさすがに気がぬけてくる。
 実際クルーの様子も皇国を出発してからと比べるとカナリだらけてきている
「あ〜あエルシオールにいたころが懐かしいなぁ・・」
「何言ってるんだ またあの時に戻りたいのか?」
「そうじゃないよ、ただエンジェル隊のみんなのコトを思い出してね・・・」
 少し寂しげに呟いた
 タクトにとってエンジェル隊と過ごした日々はとてもかけがえの無いものだった
 エオニアの反乱が終わったあと、すぐにエンジェル隊は白き月警護に戻され
 タクトとエルシオールのクルーほとんどがそのまま別艦隊に移動され、任務のために皇国を離れなければならなかった
 そのためエンジェル隊と会う機会がかなり減ってしまったのだ
 メールなどでやり取りしているものの何ヶ月も顔を会わせていないのでタクトのテンションもだんだんと下がってきている
「ピーピーピー」
 と、いきなり通信席から発信音が鳴った
「どうしたココ?」タクトが尋ねる
「これは・・・救難信号を受信しました!」
「何だって!?」
 ココが真剣な表情で告げた。久しぶりの事態にブリッジ全体が緊迫感に包まれる
「わかった、つないでくれ」
「了解しました」
 モニターに映ったのは10代ぐらいの若い少年だった、モニターに映る分では詳しい容姿は確認できない
「こちらロストテクノロジー先行調査部隊のロゼル・クライアム少尉
 現在、正体不明の敵に襲われている。援護を求む」
 クラッドと名乗った少年は淡々と言った
「わかった、現在位置は?」
「レーダーに反応!こちらに接近する機体があります!」
 タクトの質問を遮りアルモがサブモニターに映す
「おいタクト・・・」
「ああ」
 二人はそれを見て表情をしかめた
 元エルシオールのメンバーにとってはあまりに奇妙な光景だった
 サブモニターの画面には前回の戦いで苦戦を強いられたヘルハウンズ隊のシルス高速戦闘機がこちらの艦隊に向かってきている
 その後ろには3隻の小型戦艦が前方のシルス高速戦闘機に攻撃をしかけているのが確認できる
「何故皇国軍の調査隊が反乱軍の機体に乗ってるんだ?」
 レスターは厳しい口調でたずねた 
「詳しいことはあとで話す。信用できないのならば撃墜してくれてもかまわない。なおこちらの武装は全て破損している。煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
 少年はあくまで淡々としている。この状況で投げやりな態度に少々面食らったがタクトの答えは最初から決まっている
「・・・わかった援護する」
「おいタクト!?」
 タクトの判断にレスターは驚きの様子を隠せない。まあ当然である
 この状況と情報量ならば「援護」という言葉は戦術マニュアルには絶対に記されていない
 ただタクトの頭の中のマニュアルには記されてある。いや、マニュアル自体存在しないのだ
「ここで俺たちがあの戦闘機を撃墜してもなんのメリットも無いし、無抵抗の人間を攻撃するのは趣味じゃない」
「罠かもしれないぞ?」
「大丈夫さ。俺には天使の加護があるんでね」
 タクトの表情は自信にあふれている
「それに何かあったら優秀な副指令官レスター・クールダラスがなんとかしてくれるよ」
「全く、こいつは・・・」レスターは額を押さえながらぼやいた
「・・・どうやら決まったようだな。レーダーで確認したと思うが敵はその3隻だけだ。
 重ねて言うがこちらの武装は全て破損していて攻撃ができない。着艦許可を要請する」
「わかった、許可する。あとは任せてくれ」
「感謝する」
 無愛想っぽく言うと戦闘機はスピードを上げてタクトの艦に着艦した
 あいかわらす小型戦艦は進路を変えずそのまま直線に、こちらに向かってきている
 それを確認したタクトは顔を引き締めた
「全艦攻撃開始!」


 戦闘はすぐに終わった
 こちらは若干旧式の艦3隻であったが前大戦時エンジェル隊を指揮したタクトの見事な指示のおかげで
 敵艦隊はあっけなく片付いた
 レスターも「クリオム星系にいたころとは大違いだなぁ」と憎まれ口をたたいている
「いやぁ〜久しぶりの実戦だったけどなんとかなったなぁ」
「何のんきなこと言ってんだ。まだ戦闘機に乗ってたヤツの問題があるぞ」
「疑い深いなぁ エンジェル隊のときだってうまくいったじゃないか。今回も大丈夫だって
 ただ戦闘機に乗ったのが男なのが残念だけどね」
「全くオマエってやつは・・・」とレスターは再びあきれ気味に額を押さえた
 だがこんなやつだからこそ前大戦を乗り越えられたのかもしれない
 固定概念にとらわれた並の司令官では今頃墓標の下で眠っていたことだろう
 しかしあの戦闘機とパイロットを見る限り「エンジェル」には程遠いが
「まあ取りあえず格納庫に向かうよ。あの追いかけてきた戦艦のことも聞きたいし」
 そう言い残すとタクトはそそくさとブリッジをあとにした


 格納庫

 格納庫に入って最初に目に入ったものはあの少年の乗っていたシルス高速戦闘機だった。当然ながらこれにいい思い出は無い
 前大戦であれだけ仲間を苦しめたものが目の前にあると思うとタクトの表情も自然と硬くなる
 とそこへ
「これが気に入らないのか?」
 タクトが声のほうへ振り向くとそこには戦闘機に乗っていた少年━━━━ロゼルが立っていた
顔以外は全て灰色のローブに覆われていて後ろで結ばれた黒の長髪はあまり整っていない
 どこか全体的に物静かな雰囲気を感じるがエンジェル隊のある少女とは違ったどこかトゲトゲしく近寄りがたい空気が漂っている
「君があの戦闘機に乗っていたパイロットだね?」 「・・・・」ロゼルは黙って頷いた
「でもよくわかったね、俺があの戦闘機のことを考えてるって」
「・・・眼を見ればわかる」聞こえるか聞こえないかくらい大きさでボソッと呟いた
「えっ?」
「なんでもない・・・それよりオマエが本当に聞きたいのはそんなことじゃないだろう」
「あ、ああそうだね。じゃあ話は司令室で」
「ああ」
 なんかうまくはぐらかされたなぁと思いつつタクトは戦闘機の無愛想なパイロットと共に司令室へ向かった
 


 司令室

「じゃあ改めて自己紹介しようか、俺はタクト・マイヤーズ司令官、こっちが副官のレスター・クールダラスだ」
「最初に言っておくがオマエは捕虜という扱いだからな、こちらの質問には必ず答えてもらう」
 レスターが睨みをきかせるがロゼルは全く反応しない
「おい、聞いてるのか!」
「言われなくても答える、いちいち怒鳴るな」
「おまえ・・・!」
「まぁまぁ、そんなカッカするなよ」
 タクトがレスターをなだめてから改めて視線をロゼルに向けた
「それじゃ君が何故あんな状況に陥ったか、話してもらうよ」
「ああ・・・」



「・・・今話したので全部だ」
『・・・・・』
 話を聞いた二人は唖然とするしかなかった
 エオニアの反乱後、「黒き月」の一件でロストテクノロジーの強大さを改めて知った皇国は早急に長期期間のロストテクノロジー調査を検討し、その任務を最初に受けたのがロゼルの所属する部隊だった
 そして結成された「ロストテクノロジー先行調査部隊」はクロノドライブ航行を繰り返しているうちに
 部隊の艦に未確認の電磁波によるエンジントラブルが発生し、近くにあった惑星へ着陸した
 着陸後、ロゼルは艦の修理班とは別に艦周辺の調査に出向き、艦から少しばかり離れた場所に工場のような建造物を発見した
 無線で仲間に連絡をいれた後、内部に潜入した。あたりを見渡しても人の姿がなく、奥へ進んでいくと目の前の光景にロゼルは目を疑った。
 戦闘機、戦艦、どれも皇国軍とは全く異なるタイプの兵器が次々と量産されている
 この事を知らせようと急いで無線を取り出したそのとき工場の外からけたたましい爆音がロゼルの耳に響いた
 外に出てみると部隊の艦が高く舞い上がる爆炎と煙の抱擁によって炭に変わり果てている
 その抱擁を与えたのは工場で量産されていた兵器の数々
 ロゼルは工場内に再び戻り配備されていた戦闘機に乗って惑星を脱出したが当然追っ手が現れ逃亡中にタクトの艦隊と遭遇し、現在に至る
「・・思ったより事態は深刻みたいだね」
「そうだな、あの戦艦の仲間がまたやってくる可能性もあるだろうしな」
「取りあえず皇国に連絡しないとな・・・っとそうだ」
 タクトがロゼルのほうに向き
「君が見た兵器についてもっと詳しくわからないかな?いずれにせよ敵のコトは知っておきたいし」
 それを聞いたロゼルはローブの中から一枚のディスクを取り出した
「それは・・?」
「工場内で見つけたものだ。中身はまだ確認していない」
「そうか、それじゃブリッジのモニターで見ようか」

 
 
 
 ブリッジ

「それじゃアルモ、再生してくれ」
「了解」
 ロゼルの持っていたディスクを再生する
 少しの砂嵐のあと画面が安定しメインモニターに映し出されたのはどこか宮殿の内部のような場所
 そこに二人の男が椅子に腰掛けている━━━━いや一人はローブのようなものを全身に纏っていて性別は確認できない
 何か会話をしているようだがディスクの音質が悪くうまく聞き取れない
 が、タクトの視線はもう片方の金髪の男に集中している
「・・・金髪の男を中心に少し拡大してくれ」
 指示通りにアルモが画面を拡大する
『!!!』
 その金髪の男の顔にブリッジ中が驚愕した
「エオニア・・・・」
 エオニア・トランスバール。前回の反乱の首謀者であり、タクトとエンジェル隊の宿敵だった男だ
「まさかこんなところで交流を深めてるなんてなぁ」
「全くだ・・・それにしても、もう片方のヤツも相当な悪趣味だな」
 レスターの言う通りエオニアの隣にいる人間のローブが無数の人の顔をかたどったような模様が無数に描かれている
 いずれにせよ見てて気分のいいものではない
 と、そんなマトモな性格ではない二人が立ち上がり握手をしたところで画面が荒くなり砂嵐に戻ったところでアルモがディスクを停止した
「いやぁ〜それにしても随分顔が広かったみたいだな、エオニアは」
「まぁ、なんにしてもこれ以上俺達だけで調査するわけにはいかないな、皇国に連絡しよう」
「そうだな、ココ、皇国の軍部につないでくれ」タクトが指示を出す
「了解・・・って、あれ?」
 ココが困惑の表情を見せる
「どうした、ココ」レスターが尋ねる
「通信が繋がらないんです・・・皇国のどこにも」
「なんだって?」タクトの表情がこわばる
「それどころか・・・白き月にも繋がりません」
『!!』
 再びブリッジ中が驚愕した
「言い忘れたが・・・」
 ブリッジに入ってから黙っていたロゼルが口を開いた
「俺の乗ってきた機体でも皇国には全く繋がらなかったな」
 それはすなわちタクト達の艦ではなく、皇国に何か問題が発生しているということ。それを聞いたタクトは決意した
「皇国に急いで帰還しよう、何かイヤな予感がする」




 新たな厄災(前編) 完


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 どうも〜著者えりきしるです。ネット上に公表するのは初めてですw
 なんとかムリヤリ書き終えましたが凄く読みにくいですね(汗
 ロゼルの話とか滅茶苦茶だし(汗 ホントはもっと詳しく書く予定だった。後半はちょっと手抜きっぽく感じるかと(オイ
 あと話が微妙に飛んでるかも(爆
 是非感想、ビシビシ厳しいご指摘をお願いします!