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Old Timer(後編)




 そして、またある日の事だった。
フォルテは愛用の火薬式銃を持って射撃訓練所(火薬式銃用)で一人撃っていた。
ドン
 相変わらず百発百中だった。さすがは火薬式銃の教官免許を持っているだけはある。
「やっぱり、これこれ。この感触がいいねえ。」
 フォルテの顔から満面の笑みがこぼれる。
 そこに、通りすがりの人物の足音が聞こえた。
「ここは相変わらずうるさいな・・・。」
 エメードだった。
「お、エメードじゃないか。どうしたんだ。」
 フォルテが機嫌よく歓迎した。
「お前が銃の名手だということを聞いたんでな、どのくらいのものか見てやろうと思ったんだが、いつも火薬式で訓練しているのか?」
 エメードが呆れたように言う。
「ハハッ、これがあたしのお気に入りでな。やっぱりこれは違うんだよ。」
 そういって、フォルテは銃を眺める。
「ふうん・・・。しかし、そんな扱いにくい銃の何がそんなに気に入ってるんだ。形状か?」
「・・・そうだなあ、お前さんも撃ってみないか。そうすればわかるかもな。」
 フォルテはニヤッと笑うと銃をエメードに渡した。
「・・・・・。」
 エメードはそれから銃の訓練をした。三、四十発撃った。
「少し休ませてもらう。」
 エメードは淡々と言った。
「エメード、あんた結構いい腕してんじゃん。ここじゃあたしの次くらいだね。」
 フォルテの言うとおり、百発百中とはいかないが、7,8割は的の中心で、残った2割も的の中に入っていた。
「・・・フォルテ、・・・この銃は感触的にしっくりくるな・・・。・・・重みもいい。・・・ただ、反動が大きいのが玉にキズだが・・・。」
 エメードが無表情で言う。
「まあ、言うと思ったよ。」
 フォルテがにやりと笑いながら答える。
「ただ、あたしに言わせればその反動の良さをわかってほしかったがな。」
「反動の良さ?こんなものは単なる欠点だろう?」
 エメードが呆れたように否定した。
「そう思うだろう?」
「違うというのか?」
 エメードが驚いたような顔をする。
「そうだなあ、あんたはさっきこの銃の重みがいいって言ったよなあ。何でだ?」
「・・・何でかか・・・。・・・そうだなあ、・・・銃を持ったという感じがするからかな・・・。」
 エメードが答える。
「そうだよなあ、銃にその重さはつきものだよなあ。じゃあ、反動はどうだ?」
「・・・何を言うかと思えば。重みなら邪魔にはならんが、反動は単なる邪魔者だろう。」
 エメードが再び呆れた顔をする。
「う〜ん、そうきたか。でもこの反動もまた銃を撃っていると感じるものじゃないか?」
「言われてみればそうだな。・・・だが、これが好きになれるものなのか?」
 エメードは呆れた顔のままだ。
「まあ、あんたも撃ちなれてみればわかるよ。」
「・・・お前は変わった奴だな。」
「お前さんに言われる筋合いはないよ。」
 といいながらもフォルテは笑顔でエメードの肩を叩く。
あまりのフォルテの力強さにエメードは顔をしかめた。
「ふ〜ん、こうして見るとあんたってあいつに似てるねえ。」
「あいつ?」
「お前さんもヘルハウンズ隊のことは聞いているだろう。クーラの奴が経歴みたいなものを調べてたみたいだし・・・。」
「・・・ふっ、機体に魂を取り込まれて最期を迎えたバカ五匹か・・・。」
 エメードがニヤリと笑う。
「・・・まあ、あいつらをどう評価するかはお前さんしだいだからなあ・・・。」
 フォルテがいう。
「・・・まあ、お前さんはそのバカの一人レッドによく似ているなあって思ってさ。」
「・・・・・。」
 エメードは無言でフォルテをにらむ。
「ははは、そういうところが特にそっくりだよ。」
「・・・かなわんな。」
 エメードが苦笑する。
「まあ、奴の話をするのにここじゃなんだ。食堂でどうだ。ちょうど晩飯時だし。」
「お前のおごりなら行ってやる。」
「ハハハ、そんくらいおごってやるよ。」
 そういって二人は食堂へ行った。

 そして、二人がおでんと焼き鳥とビールを食べながら
「・・・なかなかいい味だな・・・。」
「うん、エメード、お前は良くわかっているじゃないか。」
「・・・そう肩を叩くな。」
 エメードはまた苦笑する。
「そういえば、レッドという奴の話がしたいんじゃないのか。」
「お前さんは食いつきがいいねえ。まあ、レッドという奴はお前さんに良く似ているよ。無愛想で、しらけていて、おまけに戦争好きで・・・。」
 フォルテはまるで昔の友人のことを語るような表情になっていた。
「・・・・。」
 エメードは黙って聞いていた。
「しかし、あいつとあのまま終わったのは残念だったな。」
「それはどうしてだ。」
「・・・そうだな、せっかくだからお互い話し合ってからケリをつけたかった。・・・あたしは何かの行動に反応が返ってこないと収まらないタチなんでな。・・・それに、魂を取り込まれた奴らがあまりに哀れでなかったよ。」
 フォルテが静かに言った。
「・・・ふん、そんな甘いこと言っているのはお前だけじゃないのか?ジルコの奴はあいつらを何とも思ってなかったし、他のコスモエッジ連中やクーラやトパーに至っては軽いジョークまで流してたぞ。俺も笑ってたがな。」
 エメードは皮肉な笑いを浮かべながら言った。
「・・・いいや、あの娘達も辛そうな顔をしていた。お前さんには理解できないだろうな。」
 フォルテはさびしげに言った。
「・・・まあな、俺は・・・。」
「エオニアや故郷を奪った奴らへの憎しみが今でも消えないんだろう。」
 フォルテは静かに語る。
「・・・ああ、出来ることなら生き返らせてからズタズタにしてやりたいものだ・・・。」
 エメードがニヤリと笑う。
「それは仕方ないだろうね。ただ、これだけは心得て欲しいことがあるんで聞いてくれ。復讐をする人間は、よく復讐をそのひどい目に合わされた人間のためにするとか言うんだよ。」
「・・・そうだな・・・。実際はその復讐する人間が憎しみに燃えているだけなのにな。」
 エメードが続けた。
「・・・あんた、気づいてたんだ・・・。」
「・・・・ククククク。」
 エメードが不敵に笑う。
「なら話が早いな、エメード。お前なら復讐に全てをとらわれずにすむ可能性がある。まあ、それがわかっていて復讐しようとするお前さんはなかなか説得しがたいものだ。」
「当然だ。そのことがわからずに復讐しても死んだ人は返らないとかとお題目を抜かす偽善者にそのことを知らせてやりたいものだな。」
「フフフフ・・・。それはそうだな。」
 フォルテも不敵に笑う。
「うん、やっぱあんたは他のコスモエッジの連中とは違って骨があるねえ。気に入った。」
「・・・そういうお前も、他の軟弱なエンジェル隊員とは大違いだな。」
 どうやらこの二人はお互いに認め合ったようだ。
「・・・それは違うな、エメード。クーラ達は軟弱だけど、あの娘達は違うよ。あの娘達は優しすぎるところがあるだけで、あいつらとは違う。」
「・・・そんなんでよく軍人なんてやれるな・・・。」
 エメードがまた呆れたような顔をする。
「かもな・・・。でも、エンジェル隊の娘達は強いよ。悪いけど今のコスモエッジ隊じゃ歯が立たないくらいだ。」
「そこまで言うのならいつかやってみたいもんだな・・・。機体の差なんて問題じゃないといいたいんだろう?」
 エメードが笑いながら語る。
「そのときは容赦しないよ。」
 フォルテも笑みを返す。
そして、2人が食べ終わると
「エメード、お前に見せたいものがある。ほら。」
 そう言って、フォルテは腕から時計を外す。
「・・・腕時計か・・・。・・・フォルテ、お前ってアンティークコレクターなんだな。」
「そうなるのかなあ。まあ確かにあたしの所持品の中には古いものも多いね。」
 フォルテが言う。
「なんで、あたしがお前さんにこの時計を見せたかわかるか?」
「自慢したいんだろう?・・・まあ確かにその気持ちもわからんでもない。」
 エメードがさも当然のように答える。
「いや、違うんだ・・・。まあ、いいものだと理解してくれたのは嬉しいね。あたしはこういう味のあるものが好きなんだ。時間を経て、歴史の重みをかもし出すものこそ本当にいいものじゃないかとな。」
「・・・ふうん。言われてみるとわからなくはないな・・・。」
「・・・人間もそうだと思う。色々な経験を経て重みを感じさせることをいえる人間こそが、本当に素晴らしい人間じゃないかと。・・・もちろん、若い輝きもきちんと見ているよ。その輝きをうまく発揮できてこそ、年取った時に重みを感じさせる人間になれると思う。」
 フォルテは静かに語った。
「・・・・。」
 エメードは黙って聞いている。
「このあたしの時計もそうだ。古いけどきちんと使えるし、味があるだろう。」
 フォルテが時計を大事な宝物を見るような穏やかな目で見た。
「こういうものができるようになるには職人の熱い魂が必要だ。いや、人間もこの熱い魂がなければ重みのある人間にはなれない。・・・まあ、つまり若い輝きと熱い魂は似たようなもんだな。」
 フォルテは先ほどの穏やかさとは一転、熱弁を振るう。
「熱い魂か・・・。アイドルのおっかけとかもか?」
「いや・・・、それは違う。自分の力で輝く、あるいは輝こうとする精神のことであって、ただ熱気があればいいもんじゃない。それならどこぞのストーカー野郎もエオニアという自分勝手なテロリストもあてはまる。」
 フォルテは熱弁モードに戻る。
「あと、古時計にはもう一つ深い意味がある。それは、これが時間を紡いできたという事だ。」
「・・・古時計だからな。」
「そう言っちゃうとそうだな。まあ、あたしが言いたいのはそういう事じゃない。」
 フォルテがまだ穏やかな口調に戻る。
「古時計ってものは、時間を刻んで生きてきた。そして、その間に人との想いも記憶に刻んできた。あたしも人との想いを記憶に刻んできた。」
 フォルテはその口調のまま語る。
「まあ、あたしはそんなに記憶力に自信があるわけでもないんで今まで会った全員ではないと思う。」
 そこで、少し笑みをこぼした。
「でもあたしは精一杯刻んできた方だと思うよ。・・・そうだな、両親、故郷の友人、ウォルコット、ガーネル、ルフト宰相、タクト、エンジェル隊、それにエルシオールのみんな、・・・敵だったエオニア、シェリー、ヘルハウンズ隊、レゾム、ネフューリアとね・・・。そして、新たにお前さんとね・・・。」
「・・・よくそんなにやる気になるもんだな・・・。」
 エメードはまた無表情で語る。
「こんなのは簡単な事さ。やろうと思えばね。」
「そして、お前さんは若い輝きをキチンと持っている。それはあたしが保障するよ。」
 といって、エメードに微笑みかける。
「・・・お前の保障か・・・。どのくらいあてになるかはわからんな・・・。」
「ハハハハ、でもな、お前の輝きを生かすためには復讐心だけにとらわれてはいけない。あたしはお前さんに復讐するなとは言わない。今のお前さんに言ってもわからないだろうし、悪い奴らに天罰を下そうとするのは間違った思いではない。ただ、積極的に生きることを忘れないでほしいんだよ。それを忘れたらお前の人生は悲惨なものになる。レッドの奴もそうだった。あいつは戦争にしか生きようとしなかったから・・・ああして死んでいった。」
「ほかの連中もか?」
 エメードがボソッと言う。
「さあ・・・。他の奴らについてはちょっとわからないな・・・。まあ、どいつもこいつも自分の事しか考えていないような奴だったな・・・。・・・とにかくお前にはあいつらの二の舞を演じる事のないようにしてくれ。」
 フォルテがエメードを見つめ名がら言う。
「・・・・ああ。・・・肝に銘じておく・・・。」
 エメードは静かにうなずいた。
「よし、エメード。今夜は飲み明かそうぜ。」
 フォルテはエメードの肩を叩き、陽気に言う。親父っぽいと言われるゆえんだ。
「・・・いいだろう。」
 エメードはび微笑を浮かべる。
「よし、・・・ん?お前っていくつだ?」
「・・・15だがそれがどうした?」
 エメードはコスモエッジ隊最年少の15歳だった。未成年である。
「・・・しゃあないなあ、酒は控えめにするか!」
「・・・俺は10のころからよく飲んでいたが。」
「あ、じゃいいか!行くぞエメード!」
「・・・・OK。」
 こうして、フォルテとエメードは酒盛りをしに動いた。・・・しかし、10歳のころからよく飲んでいるってそれはちとまずいぞ・・・。


後書き

 今までで一番疲れた〜。しかし、なんかこう親父っぽい内容だなあ。さすが、フォルテ!
後半がすごく内容を考えました。私としては悪くないんじゃないかと思いますがね・・・。でも、あまり考えすぎるのもやっぱり疲れるなあ・・・。プロの厳しさがよくわかります。(お



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