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第1話『浮遊・漂流・焦げ脂身』

−皇国軍本部−

「えぇ?!私がロストテクノロジー回収部隊の指揮を?!」
騒然として驚いているのは若干24歳にして少佐になった、ディル・ウィルロスである。
軍の上層部からロストテクノロジーの回収部隊の指揮を執るように指令が下されたからだ。
これが彼の少佐になってから最初に扱うことになる仕事だった・・・。


−アフロディテ基地ステーション 紋章機格納庫−

この「アフロディテ基地ステーション」はアフロディテ隊の本拠地と言える人工衛星。
一般居住区と研究員施設の2つで構成されている。
首都星トランスバール上に新設され、独自に光速移動も可能である。

上層部からの連絡でそろそろこの基地ステーションに隊長である1人が来るとのこと。
そのために、格納庫でディルが迎えに来ている。
「どんな人が来るんだろうか?」
ちょっぴり期待を寄せているディルであった。
そうこうしている間に1機の紋章機が格納庫へと入ってきた。

コクピットのハッチが開き、中から若い女性が出てくる。
女性にしては非常に背が高い。黄色のショートヘアーが活発な感じをかもしだす。
コクピットから降りて、ディルの前まで来た。そして敬礼。
「レモネス・フローラルです。今後、アフロディテ隊の隊長を務めることになります。」
「よろしく。俺はアフロディテ隊の指揮を執ることになったディル・ウィルロスだ。」
2人は握手を交わす。

移動中・・・。
「そういえば、どうして他の隊員は来ないんだ?」
1人しか来ないことに疑問を持っていたディルは直接レモネスに尋ねることにした。
「あぁ。残りの4人隊員はまだ研修を続けてます。うち1人は目付け役で研修施設に残してます。」
「なるほどね。それじゃ合流するのはいつになるのかは分かる?」
「大体1週間ぐらいでしょう。それまで私はディルさんの仕事を手伝うようにと言われました。」
「それは助かるよ。でも、残りの仕事といえば・・・。」
2人はフィーリングルームに入る。
ディルはモニターを起動した。画面には何かおかしい物が映っている。
「何ですか?これは・・・。」
いままで見たことない物に少々ビビっているレモネスだった。
「何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体だ。」
「それ、説明になっていない・・・。画面見たまんまです・・・。」
「あ、ばれた?」
「ばれたじゃないですよ・・・。」
「そういうわけで・・・。」


−宇宙空間−

何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体に近づく1機の紋章機。
レモネスの紋章機『ワイヤートゥワイン』だった。

ワイヤートゥワインは名前のとおりワイヤーでの攻撃を得意とする機体。
100本もの電磁式伸縮ワイヤーを装備しており、それを自在に操って攻撃する。
見た目が蜘蛛に似ていることから『スパイダー』とも呼ばれる。

レモネスが紋章機に乗っているのには理由がある。
ディルに頼まれてこの物体の処理をすることになってしまったのだ。
「なんでこうなったんだろ・・・。」
と、ディルの通信が入る。
「レモネス。その何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体に関する情報は・・・。」
「あるの?!」
「無い。」
レモネスはコクピットでこけた。
「そんなキッパリと言わなくても・・・。」
「正直近づくのもあれだから調査しなかった。そういうわけだ、頑張ってくれ!」
通信が切れた・・・。
「でもどうやってこんなの処理すればいいのよ・・・。」
何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体の情報が無ければどうしようもないのだ。
「下手に手を出したらもしかしたら大爆発ってこともあるし・・・。」
深く考えに考えたレモネスはある結論に達した。早速ディルと通信をつなげる。
「ディル少佐!」
「ん。どうしたレモネス?」
「撤退します!!」
ドスン!という音を発しながらディルが画面から消えた。
「どうしました?」
「いや・・・。ダメなの?」
起き上がりながらディルは質問する。
「いえ、私1人に任せるよりも絶対安全な方法があります。1週間待てばしっかりと処理しますよ。」
「へ?」


−アフロディテ基地ステーション フィーリングルーム−

レモネスが基地に到着してから1週間経った。
何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体には特に変わった変化はない。
「1週間経ったぞ・・・。」
「もうすぐですよ。連絡が入ってもうこちらに来てるそうですから。」
「誰が?」
と、部屋の扉が開いた。
そこには4人の少女が。うち1人は女性と言った方が正しいだろう。
レモネスはニヤリと笑う。
レモネスを含め5人がディルの前に整列。そして敬礼。

「プラリネ・アルマードです。年齢は19。階級は少尉です。」
銀色のセミロングと赤い色の目が特徴的。レモネスほどではないが背は高い。
白き月の研究施設にいた経歴を持ち、紋章機の整備もできる。練金術の使い手。

「葛霧 葵と申します。年齢は17で階級は少尉です。」
長い紺の髪を三つ編みにしてまとめている。身長はプラリネとほぼ同じ。
巫女さんのような服装をしている。ちなみに皇国女子一の合気道の使い手でもある。

「レイン・キシリトル・・・。年齢は16の准尉です・・・。」
緑色のロングヘアーの少女はレイン・キリシトル。
的確にそして短く物事を話すことに長けているため、口数が少ないように周囲には思われている。
念動力、透視、テレパスなど様々な超能力が使える。

「ファリィ・グライプスです。歳は15。階級は准尉です。」
本人曰く、薄紫のショートヘアーと年齢にしては身長がちょ〜っと低いのが外見の特徴。
皇国に誰一人して持っていない、『細胞活性化治癒能力』を持っている。


「なるほど。アフロディテ隊で解決するということか。レモネス。」
「そういうことですね。」
「みんなよろしく。俺がアフロディテ隊の指揮を執る、ディル・ウィルロス。階級は少佐だ。」
レモネスがちょっぴり気合を入れた感じで話す。
「それじゃぁみんな。来て早速だけどアフロディテ隊の初仕事だよ!」





第2話 『寄せて集めたぶちかましちゃんこ鍋』

−アフロディテ基地ステーション フィーリングルーム−

ディルはモニターを起動する。
モニターには何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体が映しだされる。
「あら〜。これなんですか?ディル少佐。」
プラリネは何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体に興味を示す。
「何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体。」
「モニター見たまんまです・・・。」
レインに的確に突っ込まれる。あれから1週間も経つのに情報はまだ得ていないらしい。
「見た目が気持ち悪い〜・・・。」
ちょっとばかり嘔吐感を感じたファリィ。

「そういうわけで、私たちの最初の仕事はこの物体の処理だ。」
レモネスがモニターを指差しながら言い放つ。
「マジですか〜?!」
ファリィがかなり嫌がる。見た感じから気持ち悪がっていたので嫌がるのも無理はない。
「しかし、処理するといってももしこれがロストテクノロジーだったらどうなさるんですか?」
「葵ちゃん冷静ですよ〜・・・。」
「まぁそこはプラリネが何とかしてくれるよな?!」
レモネスはプラリネに話を振る。
白き月の研究施設にいた経歴を持つプラリネにはおそらく解析ができるだろうと見込んでのことだ。
「え?まぁ解析はすぐにできますけど・・・。」
「けど?」
「解析するにはあれの一部を採取する必要がありますよ・・・。」
プラリネの一言に部屋の空気が一瞬にして凍りつく。
「ど、どうするんですか〜?」
「どうしようも採取しない限りは解析はできないわよ。」
「しかし、放っておけば何が起こるか分かりませんし・・・。」
「この際、ぶっ放しちゃいますか。」
「何、言ってるんですか?!少佐!」

結局、意見がまとまらないまま1時間がすぎた・・・。
と、今まで傍観しているだけだったレインがついに口を割った。
「無かったことにすればOK・・・。」
残りの5人が納得したような表情に変わった。
「でもどうすればいいんでしょうか?」
「私の紋章機を使えば簡単にできますよ・・・。」
「あ、そっか。レインの紋章機はブラックホール作れるんだったっけ。」
「でも、ブラックホールで処理しちゃっていいんですか?」
「大丈夫。上からは処理するようにとしか言われてないし。」
かなりいい加減な答え方をするディル。
「まぁ少佐がそう言ってるんだし大丈夫だろう。」
指揮官がいい加減ならば隊長もいい加減である。
「レモネスさ〜ん。少佐〜、どうしたんですか〜?」
「もう解析不可の時点でヤケクソなんだわ。ハハハハハッ。」
「俺も〜。」
もうあの物体なんぞ処理できればどうでもいいと思っている2人であった。


−宇宙空間−

5機の紋章機が何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体に近づく。
「さぁて。処理しますか。」
少しばかり気合を入れるレモネス。しかし処理するのはほぼレインである。
「コロニーの近くだし大きいブラックホールはできないわ。ドライブ出力は40%が限界だから気をつけてね。」
出動する前に計算していたのか、プラリネが丁寧にレインに説明する。
「了解・・・。高出力ドライブ機動・・・。5分後にブラックホール射出します。」
何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体に大きな変化は無い。
その場で妙な動きをする程度だ。
そして、5分が経った・・・。
「チャージ完了・・・。ドライブ出力40%・・・。」
「みんな、念のために散って!」
紋章機は何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体から距離を置いた。
「目標・・・。何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体・・・。」
「よし!そのまま発射!」
「了解・・・。ブラックホール発射します・・・。」
レインの紋章機『グラビティウィザード』の主砲から小型のブラックホールが発射された。
ブラックホールは何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体の近くで止まった。
そして、何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体はブラックホールに吸い込まれる。
「吸い込まれ始めましたね〜。見たくないから早く吸い込んで〜!」
ファリィが嬉しそうに言っている。そこまでして見たくないものなのか。
「でもあれだな・・・。吸い込まれ方が非常に気持ち悪い。」
何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体はプルプルと震えながら少しずつ吸い込まれていく。
何も感じなかったレモネスがこのように言うぐらいだ。相当見た目がやばいのだろう。

吸い込まれ始めてから3分・・・。
何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体は約半分ほど吸い込まれた。
と、そこで突然動きが止まった。
「どうしたんだ?」
「詰まりました・・・。」
「は?!」
一同、ありえない出来事に困惑する。
普通ブラックホールと言うものはすべてを吸い込むものである。
なのに、何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体は途中で詰まってしまった。
しかも、吸い込まれている時以上にプルプルと震えている。
「必死で抵抗してるように見えますが・・・。」
「そうね〜。でもこれ以上ブラックホールは発生できないし・・・。」
「どうするんですか〜?!これ以上気持ち悪いの見たく無〜い!」
「え?ちょっと待って。レーダーに高速移動物体発見。映像回します!」
それぞれの紋章機のモニターに映し出されたのは隕石だった。
「プラリネ。この隕石の軌道は?!」
「いま算出中です。少し待ってください。」
「この変な物体の次は隕石ですか。ここまで来ると何でも来いって感じですね・・・。」
葵が呆れていた。
「算出完了。軌道上には・・・。」
プラリネの長い沈黙。
「プラリネさん。どうなさいましたか?」
「軌道上に何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体がある・・・。」
「え〜?!」
「しかも、衝突まであと3分・・・。」
「とりあえず安全宙域まで退避!」
5機はその場から退避。

その後、隕石は何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体に衝突。
普通は何か黒いけどところどころ白くてもこもこしてて時々妙な動きをする物体の残骸とかが残っていそうだった。
しかし、その場には残骸も隕石も残っていなかった・・・。

様子を見に戻ってきた5機。
「何も残っていませんね。」
「跡形も無し・・・。」
「おそらく、隕石が無理矢理あの物体を押し込んだんだわ。」
「そういえばあのブラックホールはどうなった?」
「役目を終えて消えました・・・。そういう設定ですから・・・。」
レインが淡々と語る。
「えっと、あのブラックホールは時間が経つと消えるようになっているのよ。」
「なるほど〜。」
「それじゃ、ステーションに戻るとしますか。」


−アフロディテ基地ステーション フィーリングルーム−

「ただいま帰ってきました。」
「あ、お帰り。」
中でディルが書類に目を通していた。
「どうしたんですか?その書類。」
「始末書〜。あの物体の中にロストテクノロジーがあったんだってさ。あ、みんなも書いてね。」
「了解〜。」
5人は書類を手にとって読み始める。
「中身は使える物じゃ無かったらしいけどロストテクノロジーには変わりは無いからって上からの命令だ。」
と、一瞬5人の動きが止まった。
「それをもっと早く言ってください!」
レモネスの強烈な蹴りを食らってディルが飛ばされる。
「そうですよ!通信でも入れてくださったらよかったのに!」
葵が飛んできたディルを捕まえて投げ飛ばす。
「というか、上層部も上層部よね〜。新しい解析の機械とか入れて欲しいわ〜。」
プラリネ自製の液体金属『リキッドメタル』がバット状に変形。ディルをジャストミート。
「上司の信頼度ダウン・・・。」
レインの超能力がディルを捕まえる。そしてひたすら部屋中の壁に叩きつけられる。
「おかげで気持ち悪い体験しちゃったじゃないですか〜!」
そして、とどめのファリィの顔面ハリセンアタック。

ずたぼろのディル。
「ひどい・・・。ひどすぎる・・・。」
これからこの先、ちゃんと彼女たちの指揮が執れるのだろうか。
ちょっとばかり心配になってきたディルであった。





第3話 『新鮮機械の3枚おろし』

−アフロディテ基地ステーション フィーリングルーム−

あの謎の物体の処理から数日後・・・。
「思ったより仕事が無いなぁ・・・。」
「そうですねぇ〜・・・。」
お菓子を食べながらくつろいでいるのはファリィとディル。あれから特に仕事もないらしい。
葵とレモネスは部屋の端で組み手をやっている。
レインは紅茶をすすっている。
そ、プラリネが大きな箱を抱えて部屋に入ってきた。

「ディル少佐〜。」
「あれ?プラリネ。何それ?」
「この前、少佐が言っていた物ですよ。」
「あ、そっか。上から任務来てたんだった。辺境星で見つかったロストテクノロジーらしき物の解析するように言われてた。」
プラリネは部屋の真ん中に箱を置いた。全員が箱をくるりと囲む。
「開封してみたらどうですか〜?」
「そう簡単に開けるわけにもいかないでしょう。爆発とかどうするんですか?」
「中身は・・・。人形・・・。」
並みの人間なら箱にしか見えない。レインが念動力を使えることはアフロディテ隊全員が知っている。
しかし、透視はテレパス能力などはいまだに知られていないのだ。

「レ、レインさん・・・。そ、それは一体何の確証を持って言っているの?」
「見たままです・・・。開けても大丈夫ですよ。」
「でもなんか信用しにくいね・・・。」
「まぁレインさんが言うんだから開けてみましょうよ〜。」
「しかし!って、ファリィ聞いてない・・・。」
ファリィが箱を開ける。
中身はレインの言ったように人形が入っていた。等身大サイズの人形が1体。
スカイブルーの長いツインテールの髪。そして軍服を着ていた。

「ほんとに人形ですね・・・。」
「マネキン?」
「プラリネ。リキッドメタルで突付いてみてくれ。」
「え?!なんで私がですか?!」
プラリネが嫌そうな顔をする。荷物を取りに行った上にこんなことするのは面倒くさい。
「私だと与える衝撃が強すぎるんだよ。」
「私は、受専用なんで。」
「結局私がこういう役目なのね・・・。」
プラリネがため息をつきながら右手首のリキッドメタルを棒状に変形させる。
ちなみにリキッドメタルというのはプラリネが白き月の研究施設にいたころ、独自に開発させた液体金属である。
使用者の意思に沿って形が変形するという別名『生きた鋼』。
そして、おそるおそる人形をつつこうとする。

棒が触れようとした瞬間、閉じていた人形の目が開いた。

「わっわぁぁぁあ??!」

驚きのあまり腰を抜かしそうになるプラリネ。
人形はむくっと起き上がった。

「あ・・・ここは?」
「喋ったぁ〜?!」

あまりの出来事に混乱しまくる人たち。

「あなたは・・・。」
「レインさん妙に冷静ですね・・・。」
「私はクロワスと言います。」
「で、そのクロワスさんは一体?」
「私はロストテクノロジーです。軍上層部からアフロディテ隊を手助けするように・・・ってここはどこ?!」
「アフロディテ基地ステーション。ちゃんと目的地には着いてますよ。」
「あ、そうですか・・・。」
「助けに来たのはありがたいけど、一体何の手助けをするんだ?」
「あ、私こうみえても紋章機なんですよ。」
「えぇぇぇぇぇ?!」
一同、仰天。
「私は人型紋章機、ちゃんと主翼もあります。」
そういうとクロワスはツインテールの部分を変形させた。
見る限り、主翼には見える。単純な1枚の翼だったが。
「これで分かりました?」
「ま、まぁ・・・。分かったけど・・・。」
「クロワスさんには悪いけど、私は信用できないわ。」
「私もだ。」
葵、レモネスの2人はキッパリと話す。
「え〜?どうしてですか〜?」
「私は・・・。信じます・・・。私と波長が合うみたいだから・・・。」
「波長って・・・。」
「言動だけでは簡単に信用できないな。」
「まぁ疑われてもおかしくないですね・・・。」
「私が解析しようか?」
プラリネが少し笑みを浮かべた。
「データがあれば十分に分かりますね。」
「それではお願いします。」
「分かった。ちょっと準備するからすぐに私の部屋に来てね〜。」

プラリネは軽やかな足取りで自分の部屋へと向かっていった。
閉まる扉を見ているクロワスの後ろからレモネスが肩を叩いて一言。
「生きて帰ることを祈るんだ。」
「え?え?!」
レモネスの一言に動揺し始めるクロワスであった。


−プラリネの部屋・最深部−

「ちょっとプラリネさん・・・。」
「何〜?」
「なんで私こうなっちゃってるんですか〜?!」
部屋の真ん中にある診察台らしきベッドにクロワスはいた。
両手首、両足首、胴体を固定され抵抗ができない状態である。
「さぁて、隅々まで解析させてもらいますよ〜♪はははっ♪」
「何か違いますよ!しかも最後の『はははっ♪』って何〜?!って、あっ!やっ!」

プラリネの部屋の最深部の入り口では、残りの4人が様子を見に来ていた。
しかし、扉はロックされて中には入れない。
扉に耳を当てて、2人の声を聞き取る。
「あら〜。出たか本性。」
「クロワスの声が〜・・・。。」
「プラリネさん・・・。若い娘に近寄るオヤジみたい・・・。」
「その考え方、不純です!」
葵、赤面しながら叫ぶ。

一方、中ではこうなっていた・・・。
「あっ。ダメ!そこくすぐったい!」
「我慢して、触診してるのに動いたら分からないじゃないの♪」
「はうぅぅぅ・・・。」

そして1時間半後・・・。2人は部屋から出てきた。
プラリネは非常に満足そうな顔をしている。
一方、クロワスは非常に疲れきった顔をしていた。
「なんとか無事みたいだな。」
「生きてるってすばらしい・・・。」
「大丈夫だった?」
4人は帰ってきたクロワスを気遣う。
「あ〜・・・。宇宙って広いなぁ・・・。」
クロワス。意味不明発言。そうとうヤバかったようだ。
「放心状態ですね・・・。」
プラリネが紙を眺めながら結論を言った。
「彼女は確かにロストテクノロジーね。」
「じゃぁクロワスさん大丈夫なんですね?」
「そういうこと。」
拍手喝采。しかし、レモネスは何かに気付いた。
「ん?思ったんだがそれぐらいならものの20分で終わるんじゃ・・・。」
「はいwでもせっかくなんでいろいろと調べさせてもらいました♪」
「だからあんなに長かった・・・。」
「星が!?星が消えます〜?!あぁ!隕石がぁぁぁぁぁ?!」
クロワスがガタガタと震えながら泣き叫ぶ。
プラリネの検査がよっぽど恐ろしかったのだろう。
この後、ファリィがたずねると彼女はこう言った。

プラリネさんの検査はなんだかくすぐったいです・・・。でも時に非常に痛いです・・・。
彼女は限度を知りません・・・。人が変わってました・・・。




第4話 『エンドレスサイコロステーキ』

「クロワス!今回の指令は?!」
「この目は何もありません。」
「よし。次!プラリネ。サイコロを振って!」
「了解〜。」
サイコロを振るプラリネ・・・。出た目の数字は3。
「クロワス。3コマ進めてね。」
「は〜い。1、2、3っと。えっと・・・上から金ダライが落ちて気絶する。1回休み。」
「え?!」
プラリネの頭上に金ダライが突然降ってきた。当たり前のようにプラリネの頭に直撃。
そのままプラリネは気絶した。
アフロディテ隊の5人がアフロディテ基地ステーション内で繰り広げられるすごろく合戦。
フィーリングルームのクロワスがナビゲーターとしてゲームを進めている。
このすごろくはその目に書かれている出来事が実際に起こってしまうというものだ。


〜さかのぼれば昨日 アフロディテ基地ステーションフィーリングルーム〜

「ただいま〜。」
プラリネとファリィがロストテクノロジーの回収から帰ってきた。
「あ、お帰りなさい〜。」
「よっこらせっと。」
ファリィが平べったい箱を部屋の真ん中に置いた。
箱を中心にアフロディテ隊が集まる。
「なんなんだいこれは?」
「箱なんで、開けてみますか?」
ファリィが箱を開けようとする。が、寸前で葵に腕をつかまれた。
まるで壊れかけたブリキの人形のようにカクカクと首を回し葵の方を見る。
「開くのは解析してからにしましょうね〜。」
「は・・・。はい〜・・・。」
葵の威圧感からただ頷くだけしかできないファリィであった。
「プラリネさんお願いしますね。」
「OK〜。クロワス。手伝ってくれる?」
プラリネがクロワスの方を見るとすでに前回の恐怖が体で表現されていた。
「また・・・。あの部屋に行くのですか・・・。」
「大丈夫。今日は変なことしないから。」
「は、はひ・・・。」
プラリネの後ろに震えながらプラリネは着いて行った。


〜1時間後〜

解析は終了し、あの平たい箱はフィーリングルームへと戻ってきた。
「なんかボードゲームみたいよ。開けても大丈夫だと思うわ。」
プラリネの発言を聞いて、開けてみようと箱に手を伸ばすファリィ。
しかし、開ける寸前で何かを感じて手を引っ込めた。
「隊長?開けてもいいですか〜?」
「まぁプラリネが大丈夫って言ってるんだし構わないよ。」
ファリィが箱を開けた。
「これ、なんなんですか〜?」
「私には分からないわ。」
「私もだ。」
「無知です・・・。」
葵を除く4人は箱の中身を見ても全く分からなかった。
「あ、これは『すごろく』です。小さいころよくこれで遊びました。」
「どんなゲームなの?」
「サイコロを振って。出た目の数だけコマを進めて、止まった所の指示に従いながらゴールまで競争するゲームです。」
「簡単な様な、ややこしい様な・・・。」
「まぁ一度体験していただければすぐにお分かりになります。」
「やりましょ〜w」
「あれ?なんか紙切れが入ってますよ?」
クロワスが紙を手にとって読む。
「あ、これ説明書です。え〜と・・・このすごろくは5人でしか遊ぶことはできません。」
「それなら私たち5人でやるとしますか。」
「え?私はどうなるのですか?」
「クロワス。あんたはゲームのナビゲーターと言う最適な仕事があるじゃないか。」
「あ〜なるほど。分かりました。ナビゲーター頑張ります!」
レモネスにうまく丸めこまれたクロワスであった。

引き続き説明書を読むクロワス。
「まず、順番を決めます。サイコロを振って出た目の数字の多い人から1番、2番となります。」
「OKで〜す。」
ファリィがサイコロを振ろうとする。手からサイコロが離れた瞬間にクロワスがさらに一言。
「注意。1度でもサイコロを振ると誰かがゴールに着くまで終了できません。」
「え”・・・?!」
一瞬の沈黙。サイコロが落ちる音だけが部屋に響いていた。
「クロワス!それを早く言わんか!」
「だってここだけ書かれてる言語が全然違ってるんですよ・・・。」
説明書を見せるクロワス。確かに意味難解な言語である。
アフロディテ隊5人は誰一人として読めなかった。
「じゃぁなんでクロワスは分かったんだ?」
「まぁロストテクノロジーですし。」
「なるほど〜。」
大して理由にもなってはいないが納得する5人。
「まぁいい。とにかく誰か1人で早いところゴールして終了させるぞ!」
「お〜!」

〜そして現在に至る〜

誰一人としてゴールには近づいていない。
そろそろすごろくを始めて丸一日が経つ。
「お腹空きました〜・・・。」
「んぐ・・・。次、レモネスさんの番です・・・。サイコロ振ってください・・。」
食事を食べながらナビゲートするクロワス。
すごろくに参加している5人は飲まず食わずして頑張っているが・・・。
この行動にアフロディテ隊が怒った。
「ク〜ロ〜ワ〜ス〜・・・。お前なに飯食ってんだ〜?!」
「こっちは飲まず食わずして頑張ってるって時に・・・。」
「次、サイコロの目が4だったら食事にありつけますよ。レモネスさん次第ですね。」
巧く怒りの矛先を回避したクロワス。
「隊長〜頼みますよ〜!」
「食事させてください!」
「あ、うん。わ、分かった・・・。やってみる・・・。」
かなりのプレッシャーを与えられるレモネス。いつもの勝気な性格が引っ込んでいた。
恐る恐るサイコロを振るレモネス。床に転がっていくサイコロ。
「4出て〜!」
「お願い・・・。」
サイコロの目は4を出した。
「おぉぉぉぉ〜!」
「よしきた!4だ!クロワス指令は?!」
「食事争奪戦。誰か1人は食べれません。頑張ってFIGHT♪」

基地内の5人は1ヶ所に転送された。
「皆さんステーション内の格闘場に転送しました。簡単には崩れないようなところですので思う存分戦っちゃってください。」
本性むき出しの5人・・・。
「た〜いちょ〜・・・。部下のためにひと肌脱いでくださいよ・・・。」
「な?!隊長が先に食べる権利があるだろう!しかもこの目に着いたの私だぞ!」
「戦うしか術はないですね・・・。」
全員が身構える。
「弱肉強食!まずはファリィだ!」
葵、プラリネ、レモネスの3人がファリィに攻撃を加えようと試みるが・・・。
途中で床に叩き落された。
「なんで?!」
ファリィの手首にあるブレスレットが紫に発光していた。
「あ、ファリィに作ったGリングが・・・。」
「Gリング?なんですそれは?」
「一定の空間の重力を変化させる効果があるのよ。」
「なんでそんなもん作るんだよ?!」
「ファリィには護身する術がないからです!本人に作ってくれって頼まれたんですよ!」
葵、レモネスに攻められるプラリネ。作ったのは彼女だから責められるのも無理は無い。
「この調子じゃみんな動けないから、ファリィさんの勝ちですね。」
「これで私、抜けました〜。プラリネさんありがとうございま〜す。」
ファリィが部屋の外へと転送された。
「残るは4人ね。レインは何かありそうで下手に攻められないし・・・。」
かなりレインには注意をしているプラリネである。と、耳元でかすかな声が聞こえた。
「敵は葵さんとレモネスさん・・・。食べ物・・・。食べたいのならば2人を攻めるべきです・・・。」
プラリネの瞳に輝きが無くなった、葵、レモネスの2人も同様の変化があった。
と、勝手にレインを無視して3人だけで争い始めた。
「クロワス・・・。聞こえる?」
「は〜い。大丈夫ですよ〜。状況も分かります。」
「転送してくれる?」
「了解〜。」
続いてレインが部屋の外へと転送される。
レインが3人に行ったのは精神操作。脳を直接刺激する命令を送ったのだ。

レインが転送されてから3人は正気に戻った。
「レインがいない?!」
「いつの間に勝ったんですの?!」
「まぁいいじゃないか。この中で2人が食事にありつけるんだからなぁ。」
「この中で食事にありつけない方を・・・。」
「決めちゃいましょう。」
空間にただならぬ緊張感が走った。


〜場所は変わって〜

無事、食事にありつけたレインとファリィ。
「そういえば、次サイコロ投げる人って誰でしたっけ?」
「私・・・。次に4出たらゴールに着く・・・。」
「先、振っちゃいましょ〜。」
「そうね・・・。」
3人の戦闘が終わるまでは次には進めないが先に振っておこうというのだ。
机の上で転がるサイコロ。
グラスに当たって目は4を示した。
「あ”・・・。」


−格闘場−

3人はまだ戦い続けていた。
あまりの空腹に3人ともフラフラになりながらだが。
「そろそろ・・・。こうさんしらよ・・・。」
「そういうたいちょ〜がこうさんしてくらさいよ・・・。」
「なにをいうか。チャンスをあたえたのはわたしだぞ・・・。」
もう目が回って足元がフラフラ。
そして・・・。3人とも倒れた。
「あらら・・・。決着が着くまで次に進めませんので頑張ってくださいよ!根性見せんか〜!」
何気に酷い発言をするクロワスであった。


「まだ終わらないの〜?」
「みたいね・・・。終わったらすぐに終了なのにね・・・。」





第5話 『シュークリーム防衛線』

−アフロディテ基地ステーション フィーリングルーム−

メンバーは相変わらず暇であった。
しかし、部屋にはプラリネがいない。
「プラリネいないな〜。」
「なんか研究でもしてるんじゃないか?」
と、プラリネ入室。
すると突然、手を床に添えた。
床から細い棒がメンバーを包むように生えてきた。
そして、細い棒はメンバーの頭上で1つになり小さな檻となった。
「ハロ〜・・・プラリネ〜・・・。」
プラリネはドアから一番近くにいたディルのところに詰め寄る。
「あの・・・。プラリネさん・・・。」
プラリネの目がいつもとは違っていた。
いつもは赤い色なのに今日のプラリネの目の色は青だった。
プラリネはいまだ無言である。
「あの〜。それよりここから出してもらえませんか?」
「無理だ。そなた達はまだ罪の疑いがあるからな。」
「罪?!」
「プラリネさ〜ん説明してもらえませんか〜?」
遠方からファリィの声。
「よかろう・・・。」


〜さかのぼれば昨日 プラリネの部屋〜

「ついにGETできたわ!パルチェド幻のシュークリームを!」
パルチェのシュークリームというのは、人気洋菓子店『パルチェド』で1日10個しか作らないシュークリームである。
さらに今回、プラリネが手に入れたシュークリームは1ヶ月に1つしか作らないものである。
プラリネはパルチェドの店長とちょっとした知り合いで今回は特別に作ってもらったものであった。

「さぁてとw今日のおやつはじっくりと味わいますかw」
相当シュークリームを食べるのが楽しみなようだ。
「プラリネ少尉。荷物が届いてますので至急、格納庫へ向かってください。」
通信が入った。
「タイミング悪いわねぇ・・・。あ、でもあいつからかなぁ♪今日には届くって言ってたし♪」
プラリネは軽やかな足取りで部屋を出て行った。


〜それから15分後・・・。〜

「やっぱりあいつからだったわ♪」
小さな箱を持って戻ってきたプラリネ。
「さぁてwシュークリームを・・・。」
プラリネが机においていたシュークリームの箱が開けられていた。
「え?!」
箱の中を除いて見ると中身はやはり無かった・・・。
「無い?!パルチェドのシュークリームが無い?!」
しかし、食べた痕跡は見つからない。
「誰か盗みに入ったわね・・・。私のパルチェドを・・・。」
プラリネは怒りをあらわにした。


〜現在に至る〜

「そういうわけでまだ犯人が見つかっておらぬ。」
「だから閉じ込めたのね・・・。」
「今、部屋の入り口の監視カメラのデータを転送中だ。それを見ればおおよその目星はつくだろう。」
プラリネは檻を消した。そしてモニターを起動。
「あれ?檻が消えました〜。」
「檻の中では見難いからな。」
「あ、プラリネが部屋から出たぞ。」
「私が部屋から出て戻るまでの約15分間の映像だ。」

プラリネが出てすぐにディルが画面には映し出される。
「お〜いプラリネ〜。入るぞ〜。」
ディルが部屋に入った。画面には消えたが音声だけが聞こえる。
「あぁ!これはパルチェドの限定シュークリーム!いいなぁ〜プラリネ・・・。」
その音声の後。
「まぁいないんだったらいいか。『ワクリス』のワッフルおすそ分けしようと思ったのに・・・。」
そしてディルは部屋から出て。画面からも消えた。

モニターの外ではディルはリキッドメタルで手足を縛られ動けない状態に。
「ち、ちょっと待ってよ!俺じゃないだろ?!」
「仮に食べてないとしても勝手に女性の部屋に入るな!」
そしてプラリネのお仕置き。
「痛い!痛い!痛い!」
「あ、今度は隊長ですよ。」

モニターにはレモネスの姿が。
「プラリネいる〜?」
レモネスも部屋に入った。
「うわっ!パルチェドの限定シューじゃないか!」
レモネスが後ずさりして部屋からでる。
「あんなの持ってるならこの『カルド』のチーズケーキ渡しに行く必要無いね・・・。」
レモネスが部屋から出てきたところに、クロワスが現れた。
「隊長。プラリネさんいますか?」
「奥にいたらいるかもしんないね〜。」
「お、奥ですか・・・?!」
クロワスがまた震えだした・・・。
「まぁ判断は君に任せるよ。じゃね〜。」
レモネスが画面から消える。
「だめ!あんなところに入ったら・・・。で、でも。頼まれた『ナチルラ』の生チョコ持ってきたのに・・・。」
そう言いつつも部屋には入るクロワス。
「あ。パルチェドの限定シュークリーム。勝手に食べたら絶対に怒るからなぁ・・・。」
そのまま部屋から出てきた。
「やっぱ触らぬ神にたたり無しということでひとまず退散!」
クロワスも部屋を出て画面から消えた。

「隊長。クロワスともに白か・・・。」
「シュークリームを持ってなかったからな。やはり犯人は・・・。」
プラリネ、レモネス、クロワスが白い目でいまだ拘束されているディルの方を見る。
「ちょっ!俺もシュークリーム持ってなかったじゃないか!」
必死に弁解するディル。
「まぁ少佐が犯人と決まったわけじゃないですし・・・。」
「あ、私達ですよ〜。」

画面にはファリィと葵の2人。
「プラリネさ〜ん?いますか〜?」
しかし返事は返ってこない。
「奥かなぁ?」
「う〜ん。せっかく試しに作った新作和菓子食べてもらおうと思ったけど・・・。」
「私も頑張って作ったのになぁ〜。」
「奥なら研究の邪魔になりますからまた後で来ましょうか。」
「そうしましょ〜。」
そういって2人はプラリネの部屋を後にした。

「・・・・。」
「やはり犯人は・・・。」
プラリネは改めてディルの方を見る。
「だから俺は盗んで無いって!」
「でもねぇ。勝手に女性の部屋に入ったら。」
「怪しまれても可笑しくないですわ。」
「そういうお前らだってなぁ!」


〜さかのぼること1週間前 ディルの部屋〜

「はぁ〜、さっぱりした〜。」
バスタオルで頭を拭きながらシャワーから出たディル。
と、冷蔵庫の前にレモネスがいた。
レモネスは冷蔵庫を開けていろいろと物色していた。
「あったあった。ビール、ビール。」
「おい!レモネス!なんで人の冷蔵庫物色してんだ?!」
「あ、ちょうどビール切らしてまして・・・。」
レモネスが顔を赤らめる。
ディルも気付いた。自分が全裸であるということと、それを女性の前で見せているということも・・・。
急いで首にかけていたバスタオルを腰に巻いた。
「し、失礼します!」
レモネスは急いで部屋を出て行った。ビールを2缶ほど手に持って。
「あ、盗られた・・・。」

服を着てビール片手にくつろぎ中のディル。
「あ、そうだ。この前ビーフジャーキー買ったんだっけ。」
と立ち上がろうとしたが、前に転んでしまった。
脚に違和感を感じたので見てみると、なぜか足枷がはめられていた。
「こんなことするのは・・・。おい!プラリネ!」
「すいませ〜ん!」
声の主はやはりプラリネだった。
ガチャガチャと物色している、どうやら台所の方だ。
そして音が消えるとタタタという音を発して部屋を出て行った。
足枷が自然と消えたので動けるようになったディル。
立ち上がって台所を見てみる。
「あっ!あいつ俺のワクリスのワッフル勝手に1個盗ったな!」
ため息をついてワッフルを口に移した。
「素直にくれって言ったらあげたのになぁ・・・。」


〜現在に戻る。〜

「勝手に人の部屋入って物色してるじゃないか!」
「2人ともそういうことしてたんですかぁ〜?」
プラリネはさりげなくディルを解放し、自由に動けるようにした。
「そういう少佐だってなぁ!あの時は全裸だったじゃないか!」
「しょうがないだろ!シャワー浴びてたんだし!」
「それでも服ぐらい着ておくべきだろ?!」
「その日に限って脱衣所に持っていくの忘れたの!」
ディルとレモネスが激しく口論。
「ちょっと2人とも。大人気無いですわ。」
「喧嘩はだめですよ〜。」
制止しようとする葵とファリィ。
「子どもは黙ってろ!」
「は、はい・・・。」
入る隙も無かった。
「あ!ちょっとモニター見てください!」
クロワスが何かに気付いた。
「ほら!なんかピンクの髪で頭に花が生えてる人が!」
クロワスの言うピンクの髪で頭に花が生えてる人が部屋に入った。
「あぁ〜。これはパルチェドのシュークリーム!いいなぁ〜欲しいなぁ〜・・・。」
そして・・・。
「そうですね。このまま置かれるのも可哀相ですし私が食べてあげます♪よいしょっと。」
そのままシュークリームを持って部屋を出て行った・・・。

「犯人・・・。あの人だね。」
「クロワス!」
「現在軍内ネットワークに介入中です。」
さすが10テラヘルツのCPU搭載のロストテクノロジー。行動が早い。
「先ほどの画像に照合する人を検索中・・・。」
室内に緊張が走る。
「出ました!モニタに表示します!」
画面にはさっきのピンクの髪で頭に花が生えてる人。
「名前はミルフィーユ・桜葉。LT回収部隊のエンジェル隊に属している少尉です。」
「エンジェル隊・・・。叩きのめす!」
飛び出そうとするプラリネをディルが止めに入った。
「ダメだ!エンジェル隊には手を出すな!」
「しかし!」
「やめろプラリネ。エンジェル隊、特にミルフィーユには手を出すな。」
レモネスも止めに入った。
「でもどうしてなんです?」
「お前らはエンジェル隊の恐ろしさを知らないのかい?」
「まぁ仕方が無いさ。葵とファリィはもともと民間人なんだし。」
「ミルフィーユ・桜葉・・・。人類で稀に見る強運と凶運の持ち主・・・。」
「噂ではたった1枚買った宝くじが1等だったり、宇宙空間で無くしたものが次の日に見つかったりしてるそうです。」
「それだけなら全然普通じゃないですか〜?」
「もうそれ以上は説明できないね。」
「まぁそんなに知りたければ・・・。」
ディルが内ポケットから何かを取り出した。
「これに参加したら分かるよ。」
「え?!」


〜翌日 ディルの部屋〜

プラリネがディル部屋にいる。目の色は元に戻っていた。
向かいにはディルがいる。
「結局プラリネの目の色は何が関係あるわけ?」
「分かんない。」
「分かんないって・・・。」
「そこは伊月さんに聞かないと分かんないわ。」
「伊月さん?誰だそれ?」
「この世界の創造主。」
と、どこからか声が聞こえた。

「プラリネのそこんところの設定は深く考えてないのだ。」

「だってさ。ということは伊月さんの気まぐれで変わるってことね。」
「はは、ははは・・・。」
ディル苦笑するしかなかった。




第6話 『カラメルレースチック 〜第1章〜』

−宇宙空間 皇国紋章機GP特設ステージ−

「さぁ!第1回皇国紋章機GPが今始まろうとしています!実況は私、人型LTのクロワスです。」
なぜか実況担当のクロワス。
これには理由があったのだ。


〜さかのぼること2週間前 第5話『監視カメラで防犯シュークリーム』の続き〜

ディルが差し出したのは招待状だった。
「一体なんの招待状なんだ?」
「私達宛てみたいですね。『アフロディテ隊の皆様へ』と書いてありますし。」
「まぁ読んでみるよ。」
ディルが招待状を開けて中身を読み始めた。
「軍のLT回収部隊の競争意識を高めるために2週間後に『第1回皇国紋章機GP』を開催する。」
「はぁ?」
「上層部は何を考えているのだ?!」
「確かにプラリネの言うとおりだねぇ。さっぱり訳が分からん。」
「面白そうじゃないですか〜。」
「ルールは1チーム6人のリレー形式だってさ。」
ディルは少しずつ紙をずらしながら読んでいく。
「あ、注意書きがある。えっと・・・。え?!」
「何驚いてんだ?」
「なお、クロワスは他の部隊に不公平を生ずると思われるので代わりにディル・ウィルロスが出ること・・・。」
「少佐が出るんですか〜?」
「紙にはそう書いてあるよ。ほら。」
みんなに招待状を見せた。
「あ、ほんとだ。」
「でもディルさんは紋章機には乗れるのですか?」
「あぁ。その点なら全く問題ないよ。格納庫に来てごらん。」


−基地ステーション 紋章機格納庫−

格納庫には紋章機が並べられている。
「ほら。一番奥を見てみ。」
手前からレモネスのワイヤートゥワイン、プラリネのリキッドアルケミー、葵のリフレクトブレイカー。
葵の隣にはファリィのセルリカバリー、レインのグラビティウィザードと並ぶ。
「あぁ!紋章機1台増えてる!」
「この前まで無かったのに・・・。」
「俺の紋章機『ブリッツマグナス』この前にやっと届いたんだ。」
レインのグラビティウィザードの横に赤い紋章機があった。
「以前は『真紅の燃える鷹』とか言う二つ名まであったぐらいの紋章機乗りだったんだぜ。」
「それじゃ出れるのだな。」
「そういうこと。」


〜現在に戻る〜

「さぁて!間もなく始まろうとしています!」
現在皇国のLT回収部隊は4つある。
1つはムーンエンジェル隊。一番最初に開設されたLT回収チームである。隊長はフォルテ・シュトーレン。
メンバーはミルフィーユ・桜葉、蘭花・フランボワーズ、ミント・ブラマンシュ、ヴァニラ・H、烏丸ちとせの計6人。
2つ目は龍之宮 餡が隊長のルナ・エンジェル隊。
メンバーはエリーゼ・タルト、ルーチェ・ビーンズ、ルディ・グラッセ、プディニール・ハッテンハイマ、ベリィ・ジェラード。
3つ目はアルテミス隊。シャルロット・R・ルリジューズが隊長だ。
ショコラ・アストゥール、シャルル・バンガード、シーラ・マルゴー、ドリアン・シー、翡翠 瑠兎の6人で構成されている。
最後はアフロディテ隊。4つの中では一番新しい部隊。レモネス・フローラルが隊長を務める。
メンバーはプラリネ・アルマード、葛霧 葵、ファリィ・グライプス、レイン・キシリトル、クロワスの6人。
しかし今回のGPはクロワスは自身が紋章機のために他チームに不公平が生じると上層部が判断した。
そのためアフロディテ隊で指揮を執っているディル・ウィルロスが代わりに参戦。

そして、スタートラインに紋章機が4機ならんだ。
レースの最初を担う4機。
ムーンエンジェル隊はミント・ブラマンシュが操縦するトリックマスター。
ルナ・エンジェル隊からはベリィ・ジェラードのドリームシンガー。
アルテミス隊はマジックスナイパー。ショコラ・アストゥールが操縦する。
そして、アフロディテ隊は葛霧 葵のリフレクトブレイカーが最初だった。
「コースは1周約4万キロのコース走ってもらいます。途中、障害物も多数あるので気をつけてくださいねw」
シグナルが点灯しはじめる。
「それでは、第1回皇国紋章機GPレディ〜・・・!」
スタートの瞬間に緊張が走る・・・。
シグナルが青に変わった。
「GO!」
各機一斉に飛び出した。

まず抜け出したのは機動力重視のドリームシンガーとマジックスナイパー。
残りの2機をぐんぐんと引き離していった。
「あれ?今なんか横切ったような・・・。あ、そういえばそろそろ最初の障害か・・・。」」
ショコラは自分の前に一瞬、横切った者に気付いた。射撃をやってるだけあって動体視力は凄い。
「最初の障害は流星群です。頑張ってよけてくださいね〜。」
各機にクロワスからの通信が入った。
「むぅ〜。走りにくいなぁ・・・。」
流星群の中に入っていたベリィは流星群に苦戦していた。
ドリームシンガーは射程のある武器が無いために前にある隕石を破壊できない。
その為に避けることぐらいしかできることは無い。
一方、マジックスナイパーは両翼つけられた6門の砲門で隕石を破壊していく。
「それじゃお先に〜。」
マジックスナイパーは先に流星群の障害をくぐり抜けた。
「あぁっ!先越されちゃった・・・。」
と、ドリームシンガーのコクピットに衝撃が走った。
「きゃっ!何?!後ろから?!」
急いで後方の様子をモニタに映した。2台の紋章機が映し出された。
「さすがですわ。葵さん。次のは右に少しずれてください。」
「了解です。」
ミントが葵に指示をして隕石をドリームシンガーにぶつけていた。
葵の紋章機は名前の通り何でも反射させる能力を持つ。
ビーム兵器はもちろんのこと実弾兵器や物理攻撃も跳ね返す。隕石も例外では無かった。


〜スタート直後〜

「は、速い・・・。」
ドリームシンガーとマジックスナイパーのスタートダッシュに唖然とする葵。
と、ここで通信が入った。
「はじめまして。ムーンエンジェル隊のミントブラマンシュと申します。アフロディテ隊、葛霧 葵さんですね?」
「あ、はい。葵ですけど・・・。」
「突然ですけど。ここはまず私と手を組みませんか?」
「はい?」
「あの2機の機動力は到底敵いませんわ。そこで、私達で協力してあの2機に勝つように協力しませんか?」
「でもどうやって?」
「事前に独自で各紋章機のデータは調べてあります。コースも各機スタート前にデータが送られてるはずですわ。」
「はい、確か最初は流星群の中をくぐり抜ける障害でした・・・。」
「そこですわ!まずはそこで1機潰しますわ!」


〜現在に戻る〜

ドリームシンガーは隕石の直撃を受けていた・・・。
「出力低下っ!?スピードが上がらない・・・。」
そしてすりぬけるように2機がドリームシンガーを追い越した。
「それじゃ失礼しますわ。ほほほ・・・。」
「くぅ〜っ!悔しい〜っ!」

一方、一足先に流星群を抜けていたマジックスナイパー。
「次は〜、ミサイルを回避?!どんな障害物設置してんのよ?!ってもうすぐその地帯じゃない?!」
ショコラの前には何かが通りすぎた。
「もうその地帯に入っちゃってるのね・・・。」
左右から放たれるミサイルの雨。中にはミサイル同士がぶつかって爆発をしているところもあった。
爆風が紋章機を煽る。
「きゃっ!バランスとりにくいなぁ・・・。うかつに砲撃したら危険だし・・・。」
かなり慎重に避けていた・・・。
そして、なんとかミサイルの雨をくぐり抜ける。
「ふぅ・・・。なんとかクリアね。」
マジックスナイパー。ミサイルの雨を通過。
しかし、かなり慎重に進んでいたせいか後続の3機との差は縮んでいた。
「次はミサイルの雨ですね・・・。ミントさん。」
「そうですわね・・・。葵さん。前頼んでも構いませんか?」
「了解。差を縮めるために一気に突っ込みます!しっかり着いてきて下さいね。」
「大丈夫ですわ。」
「それじゃ行きます!」
爆発の中を突っ込んでいった・・・。

爆発音が少し遠くなった。どうやらミサイルの雨を通過したようだ。
「通過したみたいです・・・。」
「爆煙がすごいですわ・・・。前が見えないですわ・・・。」
「とりあえずレーダー起動しないといけませんね。」
「そのようですわ。」
2人はレーダーを起動。そして、後ろから高速で2機に近づく物体に気付いた。
「何か高速でこちらにせまってます!?」
「まさか?!」
そしてあっさりと2機を追い抜いた。
煙のせいでまだはっきりと見えないが2人はすでに気付いていた。
「あれは・・・。」
「ドリームシンガーですわね・・・。」

マジックスナイパーは最後の障害、小惑星群に到着した。
一時停止する。
「うわ〜。どうしよう・・・。ここは砲撃して道を開くか・・・。」
マジックスナイパーは砲門を向ける。
「チャージ・・・。」
レーダーに高速移動する物体を感知した。
「どいて!どいて!どいてぇ!」
ドリームシンガーだった・・・。
「あれは危険・・・。」
ドリームシンガーが猛スピードで小惑星群に突っ込んでいった。
ショコラの思ったとおり、小惑星群と衝突を繰り返す。
次にマジックスナイパーに近づく物体を2つ感知。
「見えました!マジックスナイパーです!でも止まってますよ?」
「多分、小惑星群に向けて砲撃すると思います。」
「それじゃ私はなるべく発射される前にあの機体より前に出ます!危険ですから少し離れてください!」
「了解ですわ。」