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『自然生活〜錬金術師の森〜』


「あれ・・・?」
部屋を整理していると出てきたのは日記帳。
家出同然で実家から出た私にとって日記帳があったことが不思議でたまらなかった。
最初のページをめくって思い出した。

『この日記帳は錬金術師になるための仮定を書いたものである』

最初のページの真ん中に小さな文字で書かれていたこの文章。
この日記帳は私が錬金術をちゃんとした師から習い始めたときにつけたものだった。





さかのぼれば4年前、私は錬金術を勉強することを禁止した親元を家出同然で離れた。






深い森の中だった。
どこを見てもまっすぐに聳え立つ木しか見えなかった。
足元にはところどころコケが生えている。


この森の奥に錬金術に長けた人がいる。


その噂だけを頼りにしてここに来たのだ。
しかし、いつまでたっても人の住んでいる気配も無ければ人の気配も無かった。
本当にここにいるのだろうか・・・。
もしかして、あの噂は嘘だったのだろうか・・・。
いろいろなことが頭のなかをよぎる。
そしてひとつの考えが浮かんできた。

お腹すいた・・・。

私は地面と同化するように倒れた。
その後、視界が黒くなったまでは覚えている。





何かどこかでパチパチを音が聞こえる。
非常に鬱陶しく思えたのか、目をさまし上体が勝手に起き上がった。
毛布が体にかかっていた。体はベッドの上にある。
一体を見渡す限りではどこかの建物のなかだ。一体、何があったのだろうか。
「起きたか・・・。いまスープができるからちょっと待ってな。」
声が聞こえた。その方向に首を動かすと若い男の人が鍋の前で立っていた。
私は若い男の人に言われたとおり上体を起こしたまま、待っていた。
少年は軽く味見をした。出来上がったみたいか皿にスープを注いだ。
「立てるか?」
「なんとか。」
私はベットから立ち上がって微妙にふら付きながらもテーブルのイスに腰掛けた。
目の前にスープの入った皿が置かれる。できたてのスープは湯気をたてていた。
「滋養強壮にいいものを入れてる。慌てないで食べな。」
私はスープを一口、口の中に含み、そして飲んだ。
体の中にスーっと取り込まれる感じがする。
「おいしい・・・。」
自然と口から言葉がこぼれた。
「野草取りの帰りに倒れているお前を見つけた。」
「はぁ・・・。」
「とりあえず放っておくと餓死するんじゃないかと思ってここに運んだ。体の方は大丈夫か?」
「はい、お腹空いているだけかと思います。」
「それなら大丈夫だな。」
若い男は微笑んだ。その間にもスープは私の体に取り込まれていく。
「あの・・・。ここは一体?それにあなたは・・・?」
私は一番質問したかったことを質問した。
「あぁ。そうだった。俺はレイラック・イルドラトス。錬金術師さ。」
「錬金術師?!」
手にしていたスプーンを落としそうになるほど予想外で衝撃的な言葉だった。
錬金術師はいた。果たして腕の方はどうなのか・・・。
「なぜそこまで驚く?」
「あ、噂を聞いてここまで来たんです。この森の奥に錬金術に長けた人がいるって。」
「ほぅ。あ、まだ名前の方聞いてなかったな。」
「プラリネ・・・。プラリネ・アルマードです。」
「プラリネ。またどうして錬金術師に用があるんだ?」
「錬金術を習いたいんです。もっと錬金術が上手くなりたくて・・・。」
「錬金術使えるのか?」
「一応、独学で勉強しました・・・。」
「独学か。できればでいいからここに行こうと思った経緯を話してくれないか?」


私はすべてを話した。
自分は良家のお嬢様だったということ、錬金術は家の書庫にあった本から興味を持ったこと。
錬金術を勉強したいけど両親が非協力的で教えてくれる先生を探して家出同然で旅をしていたこと。
何人か錬金術師にはあったけど教えてくれる人がいなかったこと。その代わりにちょっとしたものをもらったこと。
ここに来たのは途中の町の市場で噂を聞いたこと。
「しかしまぁ、お嬢様だってのによくここまで・・・。」
「お嬢様って言っても動き回ることが好きだったんです。さすがに今回は大変でしたけど。」
「腹へって倒れるぐらいだもんな。」
2人が声を合わせて笑った。
「よし。俺でよければ錬金術教えてやろう。」
「いいんですか?!」
「人手が欲しいんだ。仕事の助手をしながらになるけど構わないか?」
「教えてくれるなら何でもします!」
熱いまなざしでレイラックを見る。
「決意は固いようだな。俺も18で弟子を持つことになるか・・・。」
「え?レイラックさん18歳なんですか?」
「いくつに見えたんだよ・・・。そういうお前はどうなんだ?俺よりかは若いみたいだけど。」
「15。」
「3つ下か。」
「ごちそうさま。おいしかった〜。」
作ってくれたスープを飲み終えた。
「おかわりいるか?まだあるけど。」
「もういいです。飢えてたすぐにたくさん食べるとお腹下しますから。」
「そうだな。えっと風呂は小屋の入り口入ってすぐ左に洗面所がある。その奥にあるから。」
「は〜い。今から入りますか。覗かないでね♪」
「分かってる。それまでに寝床の準備しておくから。」




翌日。
小屋の前には湖があった。
そのほとりに2人はいた。
「それじゃ朝の練習から行くか。」
「何するんですか?」
「組み手。」
「へ?」
「まずは体力。技術があってもそれを使う体力が無ければ意味が無いからな。」
「だからって組み手ですか?!」
「大丈夫。顔は傷つけないから。それに俺は左足しか使わない。」
「そういう問題じゃ・・・。」
「つべこべ言わずかかってこい。俺の時は野生の熊と勝負だったんだぞ。」
私は呼吸を整え、覚悟を決めた。
レイラックとの間合いを一気に詰めて右ストレートを繰り出す。
しかし、パンチは目標物が首を動かしたために空を切った。
「なかなか切れがいいじゃないか。」
私はパンチを連続でするもすべてレイラックにかわされた。
続いて右ミドルキックを繰り出す。しかしレイラックの左足が右足を蹴って攻撃を邪魔をした。
蹴られたことでバランスを崩した。その隙にレイラックの左足は私の顔面を襲う。
しかし、レイラックの左足は空を切った。私が左足で地面を蹴ってバックステップをしたからだ。
「ほぅ。蹴りを見切ったか。」
「なぜかいろいろと格闘技をやらされましたからね。お嬢様なのに。」
「そりゃおかしな話だ。こっちもちとマジでやらないとヤバそうだな。」
「行きます!」


「ふぅ〜。今日はこんなもんかな。」
「はぁ〜・・・。」
レイラックは額を汗を拭いながら、足元でへばっている私を見た。
「どうしたお嬢様。疲れたか?」
「そりゃ疲れますよ!」
「まだ朝のメニューは残ってるぞ。次は材料散策。今日は野草採り&昼飯探し。」
「ふぁ〜い。」

昼。
「さて、仕事だ。店開けるぞ。」
店は居住小屋とは別のところ工房というところにある。
「店って何するんですか?」
「よろず屋。大体は薬を作ってくれって頼まれるな。」
「他には何を?」
「ん〜。火薬とか物の修理もあるね。」
「ふ〜ん。」
「ほら。早く準備する!」
「はっ、はい!」
店と言ってもカウンターとその上に電話ががあるだけだった。
非常に殺風景である。
「そういえば思ったんですけど師匠。」
「どした?」
「こんな森の中に人来るんですか?」
「来るよ。プラリネがいた反対側の方向からなら5分でここまで着く。」
「え?!」
「ちゃんと道もあるしね。」
「私の努力は・・・。」
カウンターにもたれて落胆する。
ど、扉がギギギっと音を発しながらゆっくりと開いた。
「いらっしゃい。」
「お〜。レイラック君。いつもの頼むよ。」
「了解。」
店の常連客と思われる老紳士。
レイラックは工房の奥へと向かった。私はカウンターに残される。
老紳士は私の存在に気付いた。
「おや?あなたは?」
「プラリネ・アルマードといいます。昨日からここでお世話になってます。」
「ほぅ。君もレイラック君と同じように錬金術というのを使えるのかい?」
「ほんの少しだけなら。錬金術の勉強をしたくてここに弟子入りしました。」
「そうか。私は錬金術というものはあまり分かってないがレイラック君のおかげですごく助かってる。頑張りなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
「はいよ。いつものやつね。」
レイラックは小瓶を8個持ってきた。なかには緑色の液体が入っている。
カウンターの下に備えてあった紙袋にそれを詰める。
「よし。はいこれ。今回はちと材料の質が悪いかもしれないから1つ30レドに割引するよ。240レドね。」
「これで。」
老紳士は100レド紙幣と10レド硬貨で支払った。
「くれぐれも体には気を付けてよ。」
「ではごきげんよう。」
軽く挨拶をして老紳士は店を後にした。
「師匠。あの方は?」
「開店時からのお客様だ。週に1度、万能に使える野草エキスを頼みに来るんだよ。」
「開店時からですか。」
「昔はもっと病弱だった。あのエキスを使い出してから病気ひとつ起こすことはなくなったそうだ。」
「そんな効果が・・・。」
「まぁ野草からエキスを搾り出して不要な部分を排除しただけなんだけどな。」
「錬金術ですか?」
「これは違う。錬金術の基本は等価交換。錬金術だと不純物まで入っちゃうから。」
「それじゃ錬金術はいつ・・・。」
「まぁいずれそのときが来るさ。」
「お〜い!ちょっと外に来てくれないか?」
扉を叩く音がする。2人は外に出た。
そこには筋骨隆々の男が2人。それと大量に物が入ったリヤカー。
「どうしました?」
「俺たち近くの採掘場で仕事してるんだけどさ。凄い硬い岩盤に当たったみたいで道具が真っ二つになったんよ。」
「道具が無ければ仕事になんねぇ。修理をしてもらえないか?」
男2人はリヤカーを指差す。中には大量に破損されたつるはしなどがあった。
「それと岩盤破壊の為に火薬が欲しいんだ。」
「分かりました。プラリネ。お前修理の方できるか?」
「金属練成はできるほうです。ちょっとこの量は時間がかかるかもしれないですけど。」
「それじゃ任せるぞ。俺は火薬のほう作るから。あ、石炭とかあります?」
「あるよ。これでよければ使ってくれ。」
リヤカーから袋を取り出した。紐を解いて中身をレイラックに見せた。
「これ全部使ったらかなりの量になりますよ?」
「いや、この石炭の半分ほど使う分でいい。残りはあげますよ。」
「そうですか。ありがたくいただきます。それじゃプラリネ後は任せたぞ。」
「了解。」
レイラックが石炭を置いたまま工房へと戻った。
近くに落ちていた小枝を拾って地面に円を書き始めた。
「えっと構築式は・・・。」
円周に沿って文字を書き並べる。
「これでよし。リヤカーの中身全部この練成陣の中に入れてもらえませんか?」
男たちは中身を言われたとおり練成陣の中に入れた。
「行きます。」
練成陣に手を添えた。練成陣が淡く光りだす。
一帯に光が広がった。中ではいろいろと変形が起こっている。
そして、壊された道具は元に戻って山積みになっていた。
「できた〜!」
男2人は道具を持っていろいろと触ったりしている。
「本当に元に戻ってる。」
と、レイラックがいろいろと材料と思われるものを持ってきていた。
「お、練成終わったか。」
「師匠。」
元に戻った道具をひとつ手にとっていろいろと見ている。
金属部分をコンコンを叩いた。
「OK。ちゃんと元に戻ってる。やるじゃないか。」
「ホントですか?!」
「あ、ちょっと待っててくださいね。」
レイラックは道具を元にあった場所、プラリネの書いた練成陣の真ん中に置いた。
そして山積みの道具に右手をかざす。
すると、手の甲に彫られてある練成陣が光りだす。光はすぐに消えた。
「これでよし。」
「何をしたんだ?」
「今までよりも強度のある物質に変換しました。かなり頑丈になったと思いますよ。」
「おぉ。それはありがたい。」
「それじゃ今から火薬を作りますね。」
レイラックはもらった石炭を少しだけ袋から出した。
工房から持ってきた材料も石炭の上に置いた。
「これでいいかな。」
さっきと同じように右手をかざした。今度は材料も光りだす。
光が消えるとそこには棒状の物が10本置かれてあった。片方の先には紐がついている。
「完成です。爆発力が強いんで十分に注意してお使いください。」
「分かった。」
「料金の方は道具の修理が400レド。火薬が800レドになります。」
「はいよ。ありがとうな。」
料金を払った男2人はリヤカーに荷物をつんでここを去っていった。

夕方。
「ふぅ。そろそろ店じまいだ。」
「結局、あれから来ませんでしたねお客さん。」
「でもまだやることはあるぞ。」
「何ですか?」
「夕食の買出し!飯食った後は勉強だ。」
「了解!」
「いまから町行くぞ!」
そして私達は町へと向かった。
私が来たというところからと反対側から出ても町があるらしい。
平たく舗装されただけの道を歩いていくと言われたとおり5分で森を抜けた。
そして森をでるとすぐに町が見えた。私が師匠の噂を聞いた町とは違う。
レンガ造りの壁が町をぐるっと囲んでいる。
「大きい壁ですね〜。」
「昔のなじみだとさ。今は記念に残してあるだけらしい。さ、入るぞ。」
「は〜い。」
中に入ってもレンガ造りの家が通りにそって並んでいた。
買ったのは豚のベーコン1kg。それにキャベツ2つに卵は20個を箱で買った。
他にはリンゴを10個に他も何か買っていたことは覚えているが何を買ったかは忘れた。
2人して荷物を分けて運んだ。私は卵の箱に豚のベーコンが入った包み。残りはレイラックが持った。
帰ろうと道を歩いていた。と、
「レイラックさん。ちょっといいかしら?」
レイラックを呼ぶ声がしたので2人で声のする方向を向くと30代ぐらいの女性がいた。
そして、その女性の足元で隠れるようにこっちを見る小さな男の子。
手には何かものを大事そうに持っていた。
「この懐中時計を直して欲しいの。息子がこれを落としてバラバラになっちゃって。」
「お願いします。」
男の子も頭を下げて頼んでいた。
「あ、いいですよ。」
レイラックは荷物を丁寧に地面に置く。
そして時計に向けて手をかざした。時計はあっという間に直った。
「これで、大丈夫だと思います。」
「ありがとうございます。」
「お兄ちゃんありがとう〜。」
男の子はまた丁寧に頭を下げた。
「あの、お金の方は・・・。」
「子どものしたことですから。お題は結構ですよ。」
レイラックは男の子に目線を合わせた。
「今度は壊しちゃだめだよ。」
「は〜い。」
男の子はさっきまでおどおどしていたが、レイラックに笑顔を見せていた。
レイラックは地面に置いた荷物を抱えた。
「それでは失礼します。」
私達はこの場を後にした。
その後、レイラックは何人かに物の修理を頼まれた。
嫌な顔ひとつ見せずにレイラックは修理をしていく。ほぼボランティアであった。
何名かがお金を渡すが半分以上を持ち主に返していた。
頼んだ人が子どもや老人ならお金を全く取らなかった。


夕食はオニオンスープだった。
食後。テーブルに書庫から本を持ち出して錬金術の勉強を始めた。
「まず確認するが錬金術の基本は?」
「等価交換。」
「錬金術でしてはいけない事は?」
「時の流れに反すること。社会に反すること。」
「具体的に3つ言ってみろ。」
「生命を蘇らせること。お金を作ること。犯罪に使うこと。」
「まぁできて当然だな。これはどの錬金術の本にも書いてあるし、知ってなければ勉強する資格も無い。」
レイラックは本を開けた。
「えっと。どこから教えようか・・・。」

結局、この日教わったのは属性についての話だった。
世界は火、水、土、風、雷、光、闇の7大属性で説明でき、これで現せないものは無いという。
そして同じ属性からは同じ属性の物しか練成できない。
簡単にいえば、火から水を作ることはできないということらしい。
「ということだ。分かったか?」
「分かりました。」
「補足説明をすると、生物や金属は土の属性。世界にある約8割が土属性だ。」
「光と闇属性のものってなんですか?」
「光は太陽。闇は宇宙空間だな。」
「それだけですか?」
「あぁ。もともとは光と闇を抜いた5属性だったんだ。でも太陽は火とは別の神聖な存在として光として分けたんだ。」
「闇はどうなんですか?」
「闇は太陽と相対する存在。すなわち夜だ。夜は宇宙空間が見えるだろ?結局、宇宙が闇属性になった。」
「へ〜。」
「実際はちゃんとしたものじゃないから闇属性っていう定義は無いようなものだけどな。」
レイラックは時計を見た。針は既に12時を指していた。
「もう遅い。今日はここまでだ。寝る前にもう一度復習しておけよ。」
「は〜い。」
そして私は簡単に復習をした後、寝床に着いた。


ここの生活は規則正しかった。
朝は組み手。それが終われば売り物に必要な材料を探す。
昼ごはんを食べた後は、夕方まで店を開く。お客が来なければその間は錬金術の実戦練習になった。
そして町へ行っていろいろと買い物。町の人に仕事を頼まれることもある。
夕食後は本での錬金術の勉強。紙の上の小さな錬金術もたまにやった。

なんの変哲のない生活だったが、そんな生活が心地よかった。




そして、ここでの生活も3ヶ月が過ぎた。




「お前、そろそろ独立しないか?」
「え?!」
昼過ぎ、お客の来ない工房で突然レイラックが言った。
「いや、お前飲み込みが良すぎるからもう教えることは無いんだよ。」
「でも・・・。」
私は言葉に詰まった。
正直、基本的な部分ぐらいしか教わってない気がした。
もっとレイラックに教えてもらいたい。
ただ、それ以上に。


私はレイラックを好きになっていたんだと思う。


もっと一緒にいたい。

ただ一言言えばいいだけなのに。
それを言うことに躊躇っていた。

「でもまだ私、基本的な事しか教わってないです!」
「それ以上は自分で見つけ出す。それが錬金術師のルールであり研究のテーマを決める術なんだ。」
「・・・・・。」
「だからプラリネ。ここからは自分の力でやるんだ。」
「それでも・・・。」
「ん?」
「それでも、私は師匠と一緒にいたい・・・。」

工房内に沈黙が走った。
静かになるのが怖い。
とにかく何かしゃべらないといけない。

「そうか・・・。」
先に言葉が出たのはレイラックの方だった。
「お前がそう望むのならばそれはそれで構わない。」
「師匠・・・。」
「だが、俺の手伝いをしたいというのならここを出て行け。」
「そんなつもりはないです。」
私は力強く返答した。だが言っていることは嘘だったのかもしれない。
「独自で研究をしろ。俺の助けも無く、自分の力で。」
「分かりました・・・。」
「新しくお前用の工房を作らないとな。」
「はいっ!」


師匠が新しく私専用の工房を作ってくれた。
「必要な機材はある程度の、俺の使い古しを回しておいた。まだほしいのがあれば自分で補充しな。」
「師匠。ところで師匠は何の研究をしているんですか?」
「俺か?俺はな、自然返還ってのを研究している。」
「何ですかそれは?」
「人工的に作られたものでもう使われなくなった物を自然に戻すってところかな簡単に言えば。」
「なるほど・・・。」
とは言ってみたものの大して理解はできていなかった。
「そういうお前は何を研究する気なんだ?」
「私はですね・・・。新しい金属の考案です。」
元々、師匠の手伝いをしたかった私は適当に思いついたものを答えてみた。
「ほぅ。」
「もう、完成予想図はあるんですよ。」
また適当なことを言ってしまった。







「あれ?ここで終わり・・・。」
日記は自分の工房ができたところで終わっていた。
日記の背表紙は無く最後のページが黒くすす汚れていることに気が付いた。
「そっか・・・。」
私は自然と涙が出ていた。
「なんとか持ち出したのよね・・・。これとこれだけは・・・。」
確かこの日記の最後のページから3ヶ月経ったときの事。
師匠は誰かに襲われて瀕死の重傷を負った。
その時に師匠の工房も私の工房焼かれた。
やっとの思いで出来上がった最初の作品、液体金属こと『リキッドメタル』と今持っている日記帳。
激しく燃えさかる火の中でぐったりした師匠を担ぎながらとっさに持ち出せたのはその2つだけだった。
これが修行しているときの唯一の物。


それからは日記を書いていない。
忙しかったのも一つの理由だが、何よりも日記という物を忘れたかった気がする。
業務日報というもので一時期、強制的に書かされていた時期もあったがそれからは日記は自分から進んで書こうとはしなかった。


「あっ!もうこんな時間!?早く行かないと・・・。」
今日は師匠も都合が取れたので久しぶりのデートの約束をしている。
約束までもう時間が少ない・・・。
「遅刻かなぁ・・・。怒らなきゃいいけど・・・。」
慌てて部屋を出ようと思ったが立ち止まった。
「忘れ物、忘れ物。」



机の上に無造作に置いた例の日記帳をバッグに入れた。
今日は懐かしい話でもしようと思ったから。
聞いてくれるよね。

あの半年はほんとに充実してた。
技術の習得は辛かったけど、今の私は師匠のおかげ。

感謝します。この日記帳に。
大事な思い出の品だから。
感謝します。師匠とあわせてくれた神に。
私達2人に末永い神のご加護を。
感謝します。錬金術を教えてくれた師匠に。
これからもよろしくお願いします。







約束の場所に着くころにふと思う。





『また日記帳つけようかな・・・。』














〜・あとがき・〜

プラリネが軍部に入る前のお話。
構想から書き上げまで1週間で作りきっちゃいました。
これでプラリネの設定がより理解できると思います。
さりげなくご感想待ってるじょ〜。