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第七話 太『陽』の巫女




フォルティオールがトランスバール本星を離れ、2週間がたった。
開放作戦は順調に進み、占拠された地域の1/4が開放された。
そして今日も…。

「はい。ネットの設置完了です。」

特殊なポットを十数ヶ所に設置すると、それは自動的に起動する。
そして薄いネット状に展開される。
これは通常空間なら普通に通ることが出来るが、
クロノドライブだと強制的に通常空間に引きずり出す事が出来る特殊な装置だ。
当然、ロストテクノロジーの類(たぐい)のものである。

『ご苦労様。そのまま帰還して頂戴。』

ファリナからのいつもの通信が入る。

「了解〜」

今日も5機そろってフォルティオールへ帰還する。

天使達はいつもの戦いを終え、ブリッジのファリナに報告。
そしてシャワー室へ入る。
今日もまた、いつもの会話が始まる。

「今日もよく戦ったよ〜」

シャワーを浴びながらティファのいつもの一言。

「貴女はいつもどおりの成績でしょ。
また整備班が泣いているわよ。
まぁ、お蔭様で私はまた、スコア更新させてもらったけどね。」

今、シーラとティファはチームを組んでいる仲でもある。
と言っても、大方ティファが狙われているところを横から攻撃するといった戦い方がほとんどである。
その為、いつも損傷するのはティファであった。
とは言え、ティファが危険になるとシーラも代わりに攻撃を受けることが多いため、整備班からは『魔の組』と称されている。

「いいな〜こっちはいつも二人で倒しちゃうからな〜。」

シナモはレモネスと新たに加わった天使、かぼすの3人チームである。
こちらのチームの戦いは、機動性の高いレモネスとかぼすの紋章機がほとんど方をつけてしまう。
そしてシナモは残った敵を遠距離から攻撃するといった戦い方である。
それ故に、シナモが敵を撃墜することは少ないのであった。

「あら、でも今日は3隻も撃墜したでしょう?
平均は1.7隻だから優秀じゃないかしら?」

かぼすは悪戯気に答える。
これもまた、いつもの事となっていた。


「う〜、そっちは5隻も落としておいて〜。」

「まぁまぁ、今回はまだ損害は少なかったから、いいんじゃないかい?」

今にもちょっとした火花が散りそうな二人をなだめるレモネス。
レモネスは現在暫定ではあるが天使達のリーダーを務めていた。
このメンバーの中でも最年長という事もある。


シャワーから上がり着替えを終えて、更衣室から出た時であった。

『天使の皆さん至急、ブリーティングルームに集まってください。』

「さっき報告終わったばかりのはずなんだけど。何かあったのかな?」

「行ってみればわかる話でしょ。」

「そうだな。」

天使たちはブリーティングルームへと急ぎ足で向かった。

「ファリナさん、緊急招集とは珍しいな。」

「ええ、今回、集まってもらったのは次のポイントの事なのよ。」

「なにか問題があったということですね?」

「そういうことよ。」

ファリナは一度、息を飲み込むと話を続けた。

「次のポイントを調査していた、…先行部隊か全滅したわ。」

「なんだって!?」

ファリナのその一言により雰囲気は冷たく変化する。

「本当なんですか?ファリナさん。」

「ええ。
彼らの最期の艦からその敵のデータが送られてきたわ。」

ファリナはスイッチを押すと一つの画像が表示された。

「これって。」

表示された画像は天使たちの想像していたものとは全く違う物であった。
天使達は新たな戦艦、もしくは攻撃衛星だと思っていた。
しかしそれは…、

「戦闘機。」

今までCHAOSと戦いで一度も目にすることの無かった敵のタイプである。

「そういうことよ。私達はこの新型をフレスベルグと呼称したわ。」

「フレスベルグ…」

「先行部隊が全滅するなんて、普通の戦力じゃあないな。」

「ええ。しかも敵はわずかの9機。
こちらの紋章機並、いえ、それ以上の性能を持っている可能性はあるわ。」

「こっちの性能を超えた敵か…」

「大丈夫だって。今まで皆で頑張ってきたじゃん。きっと大丈夫だって。」

「ティファ。あんたのその根拠の無い自信はどこから出て来るのよ。」

「えへへ〜、褒められちゃった?」

「ほめてないから。」

ため息を付く他の天使たちであった。

「量産されている可能性はあるのですか?」

かぼすがファリナにたずねた。

「そうね。その可能性は低そうね。」

「どうしてです?」

「まず、今までにこれだけ戦って一度も遭遇しなかったこと。
次に、今から行くポイントはクロノドライブにおける重要地点であること。
そしてそれだけの高性能機。量産は難しいはずよ。」

「この映像以外に他の情報は?」

「ないわ。
この映像も最後の艦が撃墜される寸前に何とか撮ることが出来たものよ。」

「相手の性能は未知数。
少なくとも、紋章機並の性能はあるのは確実。厄介ですね。」

「そうね。
対抗できるのはあなた達しかいないわ。」

「なら、余計に頑張らないとね!」

その後、ファリナは近くに居る艦隊に声をかけ合流することとなった。
天使たちには6時間の自由時間が与えられた。


「ドライブアウトします。」

フォルティオールは通常空間にシフトする。
そしてファリナはすぐさま周囲に状況を確認した。

「これは…」

まず、目に入ってきたのは皇国軍の艦隊の残骸であった。
それもかなりの数である。
そして全ての残骸には共通したことがあった。
それは…

「装甲の傷が少なすぎる。」

明らかであった。
残骸と言っても、装甲部分はすぐにでもリサイクル出来そうなほどの状態であった。

「それにここの地形…」

「敵も考えたな。コレだけ残骸や小惑星が多いとこちらの身動きがやりにくい。
だから戦闘機だけでここを防衛したわけか…」

「どうします、司令?」

不安そうにレイジがファリナに問う。

「進むしかないでしょ。それが私達の使命なのだから。」

「はい。」

「司令!レーダーに反応有り。数は9。全て例の大型戦闘機、フレスベルグかと思われます。」

ルポーネのその一言により、より緊張感の増すブリッジ。

「わかったわ。全艦に攻撃体勢へ!
それに、紋章機の方も発進を急がせてね。」

「了解。」

ファリナは狭い中であっても、すぐさま他の艦隊に陣形を組ませた。
陣形が組みあがった時にはちょうどフレスベルグは射程内に収まっていた。

「攻撃開始!」

ファリナの声が高らかに響く。
そして艦隊も一斉に動きだす。
こっちの戦力はフォルティオール含み23隻と紋章機5機。
敵はフレスベルグ9機。
普通に見ればこちらが有利に見えるが、敵の新型機の性能の詳細がわからない。
ファリナにとっても、それだけが不安要素だった。
次々と攻撃を開始する艦隊であったが、フレスベルグの想像以上の機動性の前にそのほとんどが命中することは無かった。

「なんて速度なの。こちらの照準が合わせられないとでも言うの!?」

ファリナはレモネスに通信を入れる。

「レモネス、頼んだわ。
見てのお通り敵の機動性はかなりのものよ。こちらの艦隊では相手にならないわ。」

「了解!皆いくよ!」

レモネスを先頭にして、いつものフォーメーションで攻撃を仕掛けるのであった。
フレスベルグとの距離を詰めいざ攻撃に移ろうとした時であった。

「えっ!?」

全てのフレスベルグは紋章機を振り切り、後方の味方艦の攻撃を開始したのであった。

「この戦闘機!?まさか!!」

次々と落とされていく味方艦。
敵の攻撃する箇所は全て同じ箇所であった。

「コイツら!ブリッジを直接攻撃するなんて!!」

「それで、さっきの形の残った味方艦という訳ね。」

「これ以上やらせない!」

「ティファ。待ちなさい!」

先行するアナザーサンシャインに2機のフレスベルグが襲い掛かる。

「危ない!!」

「えっ!?」

アナザーサンシャインのコックピット目掛け放たれる複数のミサイル群。
ティファは反射的に紋章機の向きを回転させる。

「きゃああぁぁ!!」

コックピットに激しい衝撃が走る。
モニターも所々その光を消していった。

「いった〜。」

「ティファ。大丈夫?」

「シーラさん、なんとか大丈夫です。」

ティファは操縦桿を握りしめると、一つの異変に気が付く。

「あれ?」

「どうしたの?」

「あはは、動かない。」

シーラは数秒間、硬直した後…

「ええ〜!!」

本人でも珍しく大声を上げる。
それもそのはず敵のど真ん中で急に動きを停止したティファの紋章。
敵にとってはまさに格好の的である。
シーラはすぐさまレモネスに通信を入れる。

「レモネスさん。こっちに来られますか?」

『何かあったのか?』

「ティファの紋章機が停止しました。
ワイヤートゥワインのワイヤーで牽引お願いします。
私の紋章機じゃ相手を振り切れません。」

『ああ、分かったよ。
今、そっちに行くよ。
それまでよろしく頼むよ。』



フォルティオール ブリッジ

「まずいわね。」

ファリナは腕を組みモニターを眺めていた。
状況は明らかにこちらが不利になっていた。
23隻いた艦隊も今はその半数の11隻。
敵は未だに1機も撃墜出来てはいなかった。
フレスベルグの想像以上の機動性に艦隊も天使達も翻弄されるばかりで、防御の一点張りとなっていた。

「また1隻落とされました!」

「落ち着きなさい。ムクロジ!
あなたが慌てたら、他の者が慌てるでしょ!」

「すみません…」

「でも、今のままじゃこっちも危ないわね…」

ファリナは一度目をつぶる。
そして再び目を開けたと同時にオペレーターのルポーネに声をかける。

「全艦に撤退命令よ。
フォルティオールは紋章機搭載後、クロノドライブに突入。」

「了解しました。」

ルポーネは即座にファリナの命令を実行する。
残っている艦隊に通信を繋げ、撤退命令の件を伝える。


天使達にも、その件が伝えられる。

「撤退命令!?」

「ああ、見ての通りこちらが圧倒的に不利な状況だ。
このまま戦っても前の艦隊と同様の結果になるだろう。
3人も既に戻っている。かぼす達も早くもどってきて。」

「了解。シナモ。もどりましょう。」
「は〜い」

二人もその命令に従い、一直線にフォルティオールへ帰還した。

「紋章機、全機収納完了しました。」
「よし、クロノドライブに突入せよ。」

「艦長、もう少し待ちなさい。」

「ファリナ司令、どうしてですか!?」

「他の艦がまだ逃げ切れていない。」

「ですが!」

「艦長、これは命令です。残った艦が全てこのエリアを脱出するまで援護射撃を。」

「分かりました。しかし、この艦が危険だと判断したときはクロノドライブに入らせていただきます。
この艦はまだ落ちるわけにはいきませんから。」

「わかった。そこは艦長に任せよう。」

「了解。」

「船首を反転させろ。弾幕をはれ!敵機を近づけさせるな!!」

フォルティオールは一隻でも多くの艦を逃がすために一斉射撃を繰り返し、敵をけん制し続ける。
しかし敵は9機。しかもかなりの機動性を持つ機体だ。
中にはその弾幕さえ切り抜けフォルティオールを狙う。
そのたび、操舵士のトランシュが絶妙な旋回により、ブリッジへの直撃を避ける。
しかし、相手の数が数である。
数分も経たないうちにフォルティオールの損傷も激しくなっていく。

「司令!これ以上は危険です。撤退命令を。」
「くっ、あと1隻だ!」

ブリッジに再び衝撃が走る。

「左舷部被弾。火災発生。Fブロックを一時閉鎖します。」

ブリッジ内ではアラーム音が響き渡り、モニターも所々消灯している。

「最後の1隻、クロノドライブを確認しました!」

「よし!フォルティオールもクロノドライブだ!」

「了解!」

残っているミサイルを一斉に発射する。
これにより、何とか9機のフレスベルグを振り切り、クロノドライブに突入する。

フォリナは一息付くと、ブリッジを見渡した。

「ホント、やってくれたわね。
ルポーネ。整備班に紋章機の応急処置を頼んでおいて。」

「紋章機のですか?この艦じゃなくて。」

「ええ、何かあった時、抵抗できるのは彼女達しか居ないからね。」

「わかりました。」

ルポーネが整備班に連絡を入れる。
ファリナはふと横を見ると腰を抜かしているレイジがいた。

「ムクロジ副指令。腰を抜かしている場合じゃないわよ。」

「は、はい。」

レイジの空返事だけが返ってきて、ファリナは大きくため息をついた。

(誰かしら。こんなのを副指令に選んだのは…)

そして再びため息をついた。


医務室
そこに天使たちは集まっていた。

「ほい。これで大丈夫だよ。」

女医のババリアがティファのおでこにバンソウコウを貼り付ける。

「しかし、アレだけの攻撃受けておいて、本人の怪我が頭の切り傷だけなんて。
長年この仕事やっているけど、あんた相当運がいいよ。」

「はい。鍛えてますから〜」

「違うだろう。」

「でも、どうして急にティファの紋章機が止まったのかな?」

「そうよね。
今までも、あれほどじゃないけど結構、攻撃受けてもなんとも無かったのに。」

「あんた達。他に怪我人はまだまだ居るんだ。
そういう話は食堂ででもするんだね。」

「ああ、そうだな。すまなかった。」

レモネスはババリアに頭を下げると他の天使を連れ出し、医務室を後にした。

「さて、これからどうするの?」
「そうね。今の内に紋章機の修理を手伝いに行きましょうよ。
また襲われたら、それこそ撃沈よ。」
「ティファ。貴女はどうするの?」
「う〜ん。
私、機械音痴だから足手まといになりそうだから遠慮しておくよ。」

「そうね。それがいいわね。
前の件もあることだし。」

以前ティファは整備班の修理に手伝ったことがあった。
しかし、機械音痴の彼女が加わったことで大変な事になったことがあった。
クレーンの操作を誤り、紋章機に直撃。さらに何故か格納庫が開き、
クレーンの当たった紋章機がそのまま流されていったのであった。
しかもその紋章機がシナモの紋章機だったから更に大変なことなった。
その事件後、ティファのプライベートな写真がまき散らされるという騒動となった。
という理由からティファも出撃以外の時には格納庫には行かなくなったのである。

「うん。代わりに何か料理作ってくるね〜」
「おいしいの頼むわよ。」

「わかったよ〜」

ティファは食堂へ、他の天使達は格納庫へ向かったのであった。



ブリッジ

「これは…」
「どうしたルポーネ。」
「ええ、艦長これを見てください。
クロノスペースに少し異変が…」

ルポーネがトライフルにデータを見せようとした瞬間である。
ブリッジに衝撃が走った。

「何事だ!」

「外部からの攻撃です!」

「そんなバカな!?ここはクロノスペースだぞ!
くっ、すぐに司令を!」

「了解しました!」

「クロノドライブ維持できません。通常空間に強制転移します。」

通常空間に引き落とされたフォルティオール。
そして次に起ったのは…

「ドライブアウト。これは…フレスベルグです!数は9。」

「まさか!追ってきたとでも言うのか!?」

予想外の事態にブリッジはパニック状態となっていた。
そこに滑り込むように入ってきたファリナ。

「落ち着きなさい!
まず、天使達に紋章機で迎撃するように連絡して!」

「り、了解。」

ファリナの一喝で冷静さを取り戻していくブリッジ。
ファリナも自分の席に座る。
その間にルポーネが、格納庫にいた天使達に状況を説明する。

「敵が追撃を仕掛けて来たって!?」

『はい、しかも9機、つまり全機です。』

「どう考えても勝ち目は無いじゃん。」

『方法はあるわ。』

通信がファリナへ変わる。

『今、味方に救助信号を送った。だからそれまで時間を稼いでもらえればいい。』

「どれだけの間だ?」

『最低でも30分よ。』

「30分も。」

「仕方ない。やるしかない。行くよ皆!」

レモネスの合図に従い、4人の天使は応急処置を終えた紋章機に乗り込んだ。
4機の紋章機が発進してフレスベルグの迎撃を行なう。
しかし、4対9。
数が数である。
捉えきれないフレスベルグはフォルティオールへ攻撃を開始する。
フォルティオールはさっきの戦いでほとんどの武器を使い果たしていた。
機関銃で何とかミサイルを迎撃する。
当然迎撃しきれず、漏れたミサイルがフォルティオールに当たる。
そのたび内部は激しい衝撃に見まわれた。

「2、4、7時方向からミサイル!」
「ダメです!迎撃が追いつきません!」

再びフォルティオールに衝撃が走る。




「いった〜。」

ティファもまた、格納庫へ向かう途中の出来事であった。
立ち上がろうとすると、自分がぶつかった扉が突然開く。
そして、ティファも倒れこむように部屋に入った。

「だれの部屋だろ?」

ティファは周囲を見渡した。
部屋は整然としており、先の衝撃でも特に動くようなものはない。
そのうち、ティファは机から落ちている2冊の本が目に映った。

「さっきの衝撃で落ちたんだ。戻しておこう。」

ティファはその本の所まで行くと、本を手に取った。
一冊目の表紙を見ると綺麗な文字でファリナの名が書かれていた。

「これ、航海日誌かな?」

中を覗いてはいけないと思い、ティファはすぐさま、本を閉じた。

そしてもう一冊の方に手を伸ばす。

「これは古文書?」

もう一冊は古びた本であった。
所々、ページが抜け、文字もまともに読むことも出来ない一冊の古文書。

「ファリナさんにこんな趣味があったんだ。なんか意外〜」

ティファは何ページかめくった。
しかし、あるページでその指が止まった。

「これ、見たことある…」

そのページは6匹の竜が中央の光を守護するような構図の絵であった。

「六の神竜は唯一たる己の神を守護するために…」

ティファの口から自然とこぼれる声。

(知っている。この文章を私は知っているんだ。
でも、どうして?)

戸惑いつつ、前のページに戻る。

「えっ?」

ティファは驚いた。
ついさっきまで何が書いてあるのか全くわからなかった文章が分かるのである。
欠けた部分も何が書いてあったのかさえ理解していた。

「どうして?どうして分かるの?」

そして再び動き出す口元。
まるで自分ではない何者かに操られている感覚に襲われる。

「太陽の神…巫女…」

さらに何ページかを読み続けると、白き月で聞いたあの歌が再びティファの耳に響き渡る。

(あれからずっと聞こえなかったはずなのに…どうして?)



ブリッジ

ルポーネがある異変に気が付く。

「司令!格納庫より熱源反応を確認しました。
発生元はアナザーサンシャインです。」

「アナザーサンシャイン?今はまだ修理中のはずでしょう?
再起動の報告はまだ受けていないわ。」

「僕、見てきます!」

レイジは慌ててブリッジから駆け出していった。

「ムクロジ!」

ファリナは止めようと声をかけるが既にレイジはブリッジを離れたあとだった。

「副指令が戦闘中ブリッジを離れるなんて…
それに、整備班がいるから、行く必要も無いのに。
はぁ、また説教が必要ね…。」

ファリナは少しため息をついたが、すぐさま頭の中身を目の前の敵に切り替えたのであった。




格納庫の扉からレイジが勢いよく飛び出す。

「アナザーサンシャインが…」

格納庫に残されていたティファの紋章機のエンジン音が響いていた。

「おお、副指令も来たか。」

「はい。…いきなり。…格納庫から。…熱源反応が出たので。
それにしても。これは一体なんなのです?雷さん」

レイジは吐息を吐きながら喋る。

「そう、慌てなさるな。
正直わしにもわからん。ついさっき、突然動き始めたんじゃ。
マイジャオ。お前なら、何かわからないか?」

「残念ですが、僕にもサッパリなんです。
本当に突然起動してしまって…。
今までこちら側の操作を一切、受け付けていなかったのに。」



再び格納庫の扉が開く。
次に現れたのはティファであった。
しかし、普段の明るい様子のティファではなかった。
そして、その場に居た全員が何か神秘的な感覚に襲われる。



ティファはアナザーサンシャインに触れて呟いた。

「いこう…」

その一言に答えるようにコックピットが開かれる。
そして中に乗り込み無言でコンソールを操作する。
機械下手なのが嘘の用に流れるように操作していくティファ。
そして普段表示されているものとは全く別の画面が表示される。
それもまた無言で流れるように操作するティファ。

そしてその手を止めたときであった。
ある異変にレイジは気が付いた。

「雷さん!アレを見てください!」
「こ、これは!?」
「そんなことって…。」

二人は驚嘆の声を上げる。
なんと損傷していた装甲が元に戻っていくのだった。

「自己再生の機能を持っているというのかこの紋章機は!?
信じられん。ナノマシンを搭載していない紋章機が!?」

「それだけじゃありませんよ!?
これは…凄い出力値です。
それに僕達が何をやっても外れなかったリミッターの一部が解除されている。」

「なんじゃと…!!」

ティファは通信機でブリッジに繋ぐ。

「ファリナ司令。発進許可をお願いします。」

ファリナも普段と全く違う様子のティファに驚いた様子であった。
しかし、すぐさま冷静に言葉を返した。

『紋章機の方も問題ないの?』

「はい。」

『わかったわ。艦長。発進シーケンスをお願い。』
『了解しました。』


『気をつけて行きなさい。
皆、苦戦しているわ。
あなたも一度やられた相手だという事も合わせてね。』

「ええ。」

格納庫内にアラームが鳴り響き、レイジも含め整備班は監視塔内に避難する。
フォルティオールの下腹面が左右に大きく展開する。

「アナザーサンシャイン。発進。」

ティファが操縦桿を握り締めると、アナザーサンシャインはそれに答え、飛び立った。



天使達の状況もまた最悪に近かった。
9機のフレスベルグ相手に手も足も出ない状況となっていた。

「くっ、このままでは…」
「あと何分よ。」
「やっと22分を切った所だよ〜」
「大ピンチ。と言う事ね。」

ジワジワと追い詰められていく天使達。

「えっ?」
「どうしたシーラ。」
「歌が聞こえる…」
「なに馬鹿なこと言っているんだ。戦闘中に歌なん…。」

レモネスは自分の耳を疑った。
確かに聞こえるのだ。
歌詞の無い歌が。

「この声って…」

シナモはレーダーに一つの反応を見つける。

「「「ティファ!!」」」

アナザーサンシャインが動いている。
先ほどの戦闘で動作が停止していたはずのティファの紋章機が動いているのだった。
そしてシーラが声を上げる。

「ティファ!あなたには無理よ!」

無常にもアナザーサンシャインに襲い掛かる2機のフレスベルグ。
ニ方向から放たれるミサイル群。


当たる、誰もがそう思っていた。
しかし…

「嘘!?かわした…」

その場にいた全員が驚くしかなかった。
ティファは紙一重の絶妙なタイミングで紋章機をロールさせ、ミサイルの追尾を逃れたのだった。
まるで、初戦のあの様子が嘘の様であった。

回避と同時に一方のフレスベルグに近づきリングを直接ぶつける。
フレスベルグはリング内部より放たれる莫大な熱量の前にあっという間に融解する。

「ティファってこんなに強かったっけ?」
「これじゃまるで別人じゃない…」

『敵はまだ8機いる!気を引き締めなさい!』

「り、了解!」

ファリナの一喝で気を取り戻す天使達。


(どういうことだ?なぜあの娘があの歌を知っている?)

「今はそれどころではないか…」

ティファの参戦に戦況は大きく変化した。

「なんなのあの機動性。尋常じゃないわよ。」

それもそのはずである。
今のアナザーサンシャインの速度は通常の3倍以上の速さであった。
それにも関わらずその旋回性は通常どおり、いや、それ以上であった。
その機動性を生かし、フレスベルグの背後に回り、1機ずつ確実に仕留めていく。
天使達もその光景にただ、ただ見惚れているしかなかった。
しかし、それは同時に戦慄も感じずにはいられなかった。


ティファの歌はまだ続く。


すでにフレスベルグは3機となっていた。
すべてティファが落としてしまったのであった。
残った3機はアナザーサンシャイン目掛けて同時にミサイルを放つ。
しかし今度は回避の様子を見せないアナザーサンシャイン。

「当たる!」誰もがそう思った。
しかし…

「なに…あれ」

それは不思議な光景であった。
ミサイルの爆発が燃えているのだ。
さらに炎は爆煙も燃やしていた。

「ミサイルごと焼いたとでもいうの!?」

そして無傷のアナザーサンシャインがその姿を現す。
それだけではなかった。炎は更に大きくなり、紋章機全体を包み込んだ。
炎はあるものの姿へと変貌していく。

「これは…鳥?」

「まるで火の鳥。」


「うっ。」

急に寒気と嘔吐感に襲われるかぼす。

「どうしたんだい?かぼす?」

その変化に気が付いたレモネスが声をかける。

「いえ…、なんでもないです。」

(気のせいかしら?あの炎が出た瞬間、今まで感じたこと無いほどの霊気を感じたのは。
悪霊の邪気とは違うけど…もっと違う何かを…)

かぼすはもう一度炎に包まれたアナザーサンシャインを見つめた。

(今はもう感じない…)



不死鳥はその翼を一度大きく羽ばたかせると正面にいる2機のフレスベルグへと突撃する。
逃げまとう2機であったが想像を遥かに凌駕する速度の突撃の前に成す術も無く蒸発していく。

「なんて熱量なの。こっちの紋章機の耐久熱量の100倍を越えているわ。」
「あれじゃ、太陽とぶつかったのと同じじゃない〜」

紋章機のレーダーでは表示出来ないほどの熱量表示。
他の天使達もアナザーサンシャインに近づくことさえ無理であった。


一機目を撃墜してから、わずか3分38秒。
あれだけ苦戦していたのが信じられないほどの結果であった。

敵の全滅の確認と同時にティファの歌が止み、アナザーサンシャインの炎も消滅した。



そしてティファが口を開く。

「…あれ?私なのでここに乗っているの?」
「へっ?なに言っているのよ。」

「もしかして、さっきの戦闘の記憶が無い?」
「まさか〜。でも、ティファの様子を見るとそうなのかも。」

ティファを除く全員が脱力する。

「あれ?残りエネルギーが10%切っている。
どうして、何でだろう?」

「ネットの設置は私達がやっておくわ。ティファ、貴女は先に戻ってなさい。」

「は〜い。」

レモネスの指示でティファはいつもの危ない運転でフォルティオールへ戻っていったのであった。

「どうみても、いつものティファよね。」

その後ろ姿を見てシーラが一言。

「ええ。」

全員が首を縦にふった。
そこでファリナから通信が入る。

『増援が来ないうちにネットの設置を行うわよ。』

「えぇ〜今からぁ?」

『シナモ。またアレに襲われてもいいの。』

「うう、それは嫌だよ〜。」

「それなら、早く終わらせてしまおうじゃない。」


「ちょっと待って!ドライブ反応が。」

かぼすの一言で再び緊張が走る。

「そんな。もうこりごりだよ〜」

天使達の正面に現れたのは一機の大型戦闘機だった。
明らかにCHAOSのものとは違う形状。
むしろそれはヴァル・ファスクの物に近いと言えるだろう。

「ヴァル・ファスクの新型?」
「機体の雰囲気から言ったらそんな感じだけど…」

ヴァル・ファスク製らしい戦闘機はドライブアウトした後、特に動く様子も無く、天使達の紋章機を見ているようであった。



(…あれは……!)

ただ一人、フォルティオールのファリナだけはその戦闘機を凝視していた。





次回予告
レモネスだ。
突如、出現した謎のヴァル・ファスクの大型戦闘機。
ファリナさんはアレがABSOLUTEで強奪されたって言う戦闘機らしい。
それでいきなり奪還命令。
だけどこっちは連戦。
正直乗り気じゃないんだけどな。
ファリナさんも出てくるんだけど…
そんな時、またしてももう一機、大型の戦闘機が現れた。
しかも金色の戦闘機だ。
もうなにがなんだかサッパリだよ。
次回、白『光』と黄『金』




はぁ〜い、CHAOSの十天司の一人、クウェン・サインよ。
えっ?誰も私の登場に期待してない?
そんなつれないこと言わないの。
今回は私達の新型大型戦闘機ペルドゥートについて説明しましょうか。
相手方はフレスベルグとか呼んでいたけれどね。
ペルドゥートは対艦隊戦用に開発された大型戦闘機なのよ。
様々なレーダーから敵艦のブリッジ、コックピットを判断して攻撃するようになっているわ。
今回は無人用だったけれど、実は有人機にも出来るのよコレ。
えっ?CHAOSに有人機もあるって?当たり前よ。
まあそのうち出てくるから楽しみにしていなさいよ。
メインの武装はミサイル。誘導式から熱感知、色んなタイプのミサイルを搭載しているわ。
接近戦用に機銃を4門もあるのよ。
当然生産コストも馬鹿にならないわ。
あれ1機で標準の攻撃衛星が出来てしまうわ。
せっかく9機も用意したのだけどあんなに簡単にやられてしまうなんて、正直ショックよ。
ついでに性能はこんな感じよ。
HP 25000
最高速度 A
旋回性能 A
加速性能 A
射程   C
攻撃力  A+
装甲性能 C
回避能力 B+
本当なら紋章機に引けはとらないはずなんだけどな。

続く
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