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Old Timer(前編)




「みなさん、大変です。」
 白き月にて、ミルフィーが何やら騒いでいた。
「一体、どうしたんですか?」
 ルビナスがやってくる。
「何よ、ミルフィー。どうせまたたいしたことのない内容なんでしょ?」
 ランファが半ば呆れながら言う。
「何でもいいからとにかく来てよ。」
 ミルフィーが呼びつづける。そして、ルビナス以外の面々は半ばあきれながらもミルフィーの後についていく。そして、ついた先が白き月本館の応接室だった。
「あ、みなさん。お久しぶりです。」
 ウォルコット・O・ヒューィ前中佐だった。
「ウォルコットじゃない。何でアンタがここにいんのよ。」
 ランファが、わけがわからなさそうな顔をする。
「ミント、誰だい。あの人は。」
 タクトが尋ねる。
「こちらは前エンジェル隊隊長のヴォルコットさんですわ。」
 ミントはいつも通り礼儀正しい応答だ。
「つまり、トパーの前任か・・・。・・・、なるほど・・・。見れば納得だな。」
「何が納得なんだよ。」
 ジルコのため息混じりの発言に、トパーが軽く怒る。好々爺然としたウォルコットだが、若き頃は「超新星の白き狼」と呼ばれていたらしい。今は髪に白いものが混じり始めているが。
「ヴァル・ファスクとの戦争が終わった直後に退職して以来ですよね〜。」
 ミルフィーがウォルコットに話し掛ける。
「そうですね、ミルフィーさん。・・・、ところで、こちらの方々は?」
 そう、ヴァル・ファスクとの戦争後に赴任してきた連中とウォルコットは面識がないのだ。男たちの中ではタクトしか知らない。
「ああ、自己紹介が遅れましたね。私はエルシオールの新副司令で、クラウゼル・アプゾリューザイトと申します。クーラとよく呼ばれているので、そちらでけっこうです。」
 クーラがいつもどおりの調子で自己紹介をする。
「同じく、ジルコ・ロマネティだ。」
 ジルコも、いつもどおり冷たい感じで自己紹介をさっさと済ます。
「あ、俺。ウォルコットさんの後任で、トパー・バーンシュタイン。」
 トパーもあっさり紹介する。めんどくさがり屋らしい。
「・・・ウォルコットだと?お前、ウォルコット・O・ヒューイなのか?」
 ガーネルが驚きの声をあげる。
「え、・・・あ、はい。」
 ウォルコットがたじろく。
「まじかよ!?おい、お前、俺の顔に見覚えあるだろ?」
 ガーネルが詰め寄る。
「え・・・、そうおっしゃられましても・・・。」
「ガーネルさん、失礼ですよ。」
 ちとせがたしなめる。
「ウォルコット、あんたが昔これと戦ったことがあるんじゃないのか?」
 フォルテの言うこれとは、もちろんガーネルの事だ。
「よし、思い出させてやろうじゃないか。7年前の事をな!」
 ガーネルはすっかり息巻いている。ヤクザと変わりない。
「よしなよ、ガーネル。」
 フォルテが制止する。
「いやいや、ガーネルさんでしたっけ?・・・すみません、なにぶんトシなもので・・・。」
 ウォルコットが思わず苦笑する。
「・・・ったく。」
 ガーネルは舌打ちをした。
「俺はサフィエル・モンブロンと言います。・・・・」
 サフィエルはとりあえず会社の売り込みだ。
「僕はルビナスで〜す。」
 ルビナスは適当に紹介する。
「はい、よろしくお願いします。・・・、おお、あなたは。」
 ウォルコットは、この間まで芸能界にいたアクアの事を知っていたようだ。
「あ、はい。私はアクア・マーリンと申します。ごぞんじでしたか?」
 アクアはウォルコットに微笑みかける。
「やはりアクアさんでしたか・・・。いやあ、家族そろってファンなんですよ。・・・よろしかったらぜひサインと写真を・・・。」
 ウォルコットに快くサインしたあと
「どうぞ。」
 といって、アクアは微笑みながらサインを渡した。
(・・・・・・。)
 アクアの隠れファンであるジルコは、その笑顔に呆然とした。
 そして、その後写真もとる。
「いや、ありがとうございました。これで家族に喜んでもらえるでしょう。」
 ウォルコットが深々と頭を下げる。
「こちらこそ、私を支持してくださって・・・。」
 アクアもきちんと返答する。
「いや〜、久しぶりにエンジェル隊のみなさんに会いましたけど、皆さんお元気そうで。」
 ウォルコットがいかにも好々爺らしい笑顔を浮かべる。
「ウォルコットさんもお元気そうで何よりですわ。」
 ミントはいつも通り礼儀正しい。
「いや〜、もうこの世の春ですよ。ミント達と楽しく暮らせて。ハハハ。」
 そういって、タクトはミントの肩に腕を回す。
「う〜ん、マイヤーズ司令ってダイタン。」
 トパーがからかうように言う。
「お若いみなさんのお元気な姿は冥土の土産になります。」
 ウォルコットがうなずきながら言う。
「ええ、蘭花も何やら仲のよい相手ができたようで・・・。」
「ちょ、ちょっとタクト・・・。」
 蘭花が顔を赤くする。ちらりとクーラの方を見ながら。
「マイヤーズ司令、あまり人をからかわないように。」
 クーラがたしなめる。
「そうそう、蘭花にはクーラという素晴らしい同性の友人が出来たんだよな。」
 トパーが軽い口調で言う。
「隊長、蘭花だって辛うじて女なんですから・・・。辛ろうじてですけどね。」
 サフィエルが慌てる。
「ちょっと、どういう意味よ。」
 蘭花がトパーの方に向かう。
「いや〜、他意はないさ。」
 トパーはにやつきながら答える。
「全く、頭にくる男ね。」
 蘭花がぶち切れ寸前だ。


 しばらくした後
「いや〜、落ち着きますな。」
 ウォルコットは茶をすする。
 ここは、ウォルコットが現役時代によく遊びにきていた喫茶店だ。なんとも古びた店だ。
「ここはいいねえ、あたしにとってもお気に入りだよ。」
 フォルテもご機嫌だ。
「悪くねえ場所だな。」
 ガーネルもだ。
「まあ、他のみんなには、ここはあまりお気に入りじゃないようだけどな。もっとも、皮肉なことにそのおかげで雰囲気が壊れずにすんでいるけどね。」
 フォルテが苦笑する。
「ガーネルさんとおっしゃいましたね。」
 ウォルコットがいつもの好々爺らしい口調で言う。
「ああ。」
 ガーネルは鷹揚にうなずく。
「7年前というのはあの宇宙マフィア戦争のことですね。」
 宇宙マフィア戦争とは、なんと「ガルガンチュア」と名乗る当時最大級といわれた宇宙マフィアが軍に突っ込んできたのだ。理由は囚われた仲間の解放を求めてだ。
「そうだな、あの時、軍に味方したマフィア軍の首領が俺様だったんだがな。」
 ガーネルが鮫のような笑いを浮かべる。ちなみに、ガーネルの親も「ブラック・ユーモア」というマフィアの頭領だ。
「ああ、あの時の・・・。」
「あの時は、お前をすげえ存在だと思った。・・・それが一体、どうしてしまったんだ。」
 ガーネルはつまらなさそうな目をする。
「ああ、そうか・・・。ガーネルはあの事を知らないもんねえ・・・。」
「ねえ、ウォルコット。あの事を語ってもいいかなあ?」
「ええ、かまいませんよ。」
「いいか、ガーネル・・・。」
 フォルテは語りだした。


 それは、5年前の事だった。「白き月」にはヴォルコット少佐がバリバリの軍人だったころ。フォルテも不正規軍のゴルゴン隊で頭角を現し始めていた。階級は曹長だった。
 彼らは有能だった。だが、だからといって出世できるとは限らない。特に市民階層出身者は。
 そう、この国には貴族制度があり、貴族階層出身者の方が早く出世できるのだ。また、貴族に疎まれると出世が難しくなる。普通の市民階層出身者は、少佐や中佐になれれば立派なものである。ルフト現宰相は市民階層出身者初の准将にまで上り詰めたが、ルフトの政治バランスの良さや貴族軍人とのつきあい方もあったからだ。
 そのころのウォルコットは、自分がなかなか出世しない事に焦燥感を持っていた。
 そして、ある日聞いてしまったのだ。
「シーダマイヤ少将、ウォルコットの奴どういたしますか?」
 宇宙軍の司令室で中年の男の声がする。
「ウォルコット?ああ、あいつか?フフフ、あいつはずっとあのままだ。庶民の癖に中佐まで出世させてやったんだからもう十分だろう。」
 シーダマイヤの声がした。
「ですなあ。まったくあの男ときたらまだ出世できる気でおりますし、ここらでお灸をすえてみては。」
「ハッハッハッハ。それは名案だなあ・・・。」
 シーダマイヤが遠慮のない声で言う。
 それを聞いていたウォルコットは愕然とした。
しばらくするとその精神的ショックから立ち直ったものの、もう以前のような活躍はできなかった。
 その後、フォルテが紋章機の4号に適応できることがわかったために、フォルテごと「白き月」でエンジェル隊の隊長という閑職につくことになった。


「というわけなんだよ・・・。」
 フォルテがさびしげに語った。
「なるほどな・・・。お前も哀れだぜウォルコット。」
 ガーネルが哀れそうに言う。
「いえいえ。おかげで楽させてもらいましたから。今は年金生活で悠々自適の日々を送っております。」
 ウォルコットはちっとも悔しくなさそうに言った。
「いや、男ならやっぱり出世はロマンの一つだろ?それでいいのか?」
 ガーネルは挑発するように聞いてくる。
「はい。」
 ウォルコットがあまりに屈託なさげにうなずいたので、ガーネルは唖然とした。
「まあ、そう考えるとクールダラスとかいうこの間までここの副司令だった奴の出世も難しいだろうな。」
「そうだろうね。あいつも上にこびるのは下手そうだからなあ・・・。」
 フォルテが言った。レスターは優秀だが、そういった人付き合いの面ではうまいとは言えない男だからだ。
「俺は出世してやるぜ!クーラ副司令が味方についていらっしゃるんでな!」
 ガーネルが息巻く。
「クーラねえ・・・。」
「どうした、フォルテ?」
 フォルテが珍しく冷水をさす発言をする。
「ガーネル。あいつなら出世は間違いなくさせてくれるだろうね・・・。ただ・・・。」
「ただ?」
 ガーネルがいぶかしむ。
「何だかなあ・・・。あいつはどこか冷たい奴だからなあ・・・。」
「冷たい・・・?ああ、ミント、ちとせ、レスターに似ているって事か・・・。あとはジ・・・じゃなくてロマネティ副司令とか・・・。」
 ガーネルは慌てて訂正した。ジルコが名前で呼ぶことに極端にうるさいためだ。
「いや、あいつらとクーラは違う。・・・何だろうなあ・・・クーラって奴は軍人としては優秀なのかもしれない。政治力、外交力、指揮力、状況に応じての行動力・・・いわゆる柔軟性、あと内部把握も素晴らしい。ただ、それだとしても奴は本当に軍人の本当の使命をわかっているかどうかは疑わしいな・・・。」
 フォルテが言った。
「使命?」
「いや、別に今までにあいつの行動に問題があったわけじゃないよ・・・。ただ・・・。」
「ただ?」
 ガーネルがいぶかしむ。
「あ、すみませんがそろそろ時間なので・・・。」
 ウォルコッが申し訳なさそうに言った。
「ああ、じゃあステーションまで送っていくよ。」
 フォルテはそう言って、ウォルコットに同行した。


 それからまた数日たったある日のことだった。
フォルテとガーネルが2人で「白き月」の街を歩いていた。男の方は、ビジュアル的にはお世辞にもしゃれた所が似合うとは言えないが・・・。
「お前とこうして歩くのも久しぶりだなあ・・・。」
「そうだな・・・。最後にこうしたのは2年位前だったからねえ・・・。」
 ガーネルもフォルテもたそがれている。
そう、このカップルが3、4年ほどの付き合いにピリオドを撃ったときだった。
「うまくいくと思ったんだがなあ・・・。何で別れるはめになったんだったかなあ?」
「まあ、細かい原因はお前さんがあたしの銃を壊したところから始まったんだよなあ・・・。」
「あ、そうだったな。しかし、お前もきついよなあ。ちゃんと謝って弁償したのに・・・。」
 ガーネルが文句を言うと、
「そりゃ簡単だよ、お前さんが弁償すればいいだろといった感じで謝ってたのがかえってシャクに触ったんだよ。」
「お前、よくそんな事がわかったなあ・・・。」
「あのなあ、3年以上も付き合ってきたあたしの眼はごまかせないよ。」
「ハハハハハハ。」
 ガーネルが苦笑する。
「でも、本当の原因は銃が壊れたからじゃないと思うよ。」
「ん?どういう事だ。」
「簡単だよ・・・。あたしとお前さんの仲はあの時にはもう冷えてたってことさ。」
「・・・・、なあフォルテ。」
 ガーネルは突然ささやいた。
「何だい。」
「なあ、あれからオトコの方はどうなんだ。」
「なんだよ、単刀直入に・・・。」
 フォルテはちょっと慌てる。
「ははは、・・・ちょっとな。」
「まあ、いないよ。まさかお前さん、今さらよりを戻そうとか言うんじゃないだろうねえ?」
  フォルテが冗談めかした口調で言った。
「まあ、そう怒るなよ。・・・・ッ!」
「・・・って、いきなり人の胸元に手を入れるんじゃないよ!」
 フォルテが珍しく顔を赤らめる。さすがに、ここは小声だ。
「いや〜、淋しそうだったもんでな・・・。」
 ガーネルは小声で言いながらにやける。
「まったく・・・。」
 フォルテが呆れながら言う。
「まあ、ご要望にお答えしてやってもいいよ。」
 それから、フォルテは微笑んで答えた。
「はははは。」
「ただ、いつもいつもその要望がとおるとは間違っても思っちゃいけないよ。わかったね。」
「まあな、もう俺たちはそういう関係じゃないしなあ。」
 そうして、二人は夜の街に消えていった。


 またある日、フォルテは一人で考え事をしていた。銃を磨きながら。
(こうしていると落ち着くなあ・・・。)
 フォルテが持っているのは火薬式の銃だった。
 フォルテは火薬式の銃を好む。わざわざ火薬式の銃専用訓練所まで作ってもらっているほどだ。また、こんなエピソードまである。
エオニアの乱の時に、エルシオールの物資補給に来てくれたブラマンシュ商船団を護衛した事があったが、その時にこっそり火薬式の弾薬を補給したのだ。
(そんな事もあったねえ・・・。)
 フォルテは思い出に浸っていた。そして、そういう時はたいてい邪魔者が入るものだ。
果たして、無粋なノックが鳴る。
コンコン
「ん、誰だい?」
 フォルテがぞんざいな返事をする。
「あ、俺。タクトだけど。ちょっと銀河公園まで来てくれないかな?」
「お、タクトかい。いいよ。」
 そして、フォルテはタクトについていき、銀河公園についた。
すると、そこには1つの円盤が空を飛んでいた。
「な、何だい、ありゃ。」
 いきなりの事にフォルテがあぜんとしている。
「あれですか?あれはミルフィー先輩が偶然見つけた『フライングシューター』というゲームなのですが・・・。」
 ちとせが説明する。
「どうゆうわけかミルフィーさんが誤って別のスイッチを押してしまわれて・・・。」
 ミントが続ける。まあ、いつも通りミルフィーがトラブルメーカーとなっているのだ。
「ほっとけば別になんてことないんだけどなあ・・・。」
 トパーが茶々を入れる。
「いや、さすがにこれはうっとおしいぞ。」
 ジルコが呆れる。
「え〜〜〜〜ん、ごめんなさい。」
 ミルフィーが謝る。
「一応、非常事態なので、フルオートで当たったらOKという方がいいと思いますよ。」
 クーラはいつも通りだった。そして、ゲーム用火薬式フルオートの銃を渡そうとする。
「でもそれだと・・・・。」
 ヴァニラが口を挟む。
「大丈夫。死にはしないような銃ですから・・・。多少の怪我は自然に治りますよ。自然治癒と言う言葉があるでしょう?」
 クーラはヴァニラを無理矢理説得しようとする。
 フォルテはクーラとヴァニラの掛け合いを無視して銃を取った。
「え、ちょっと、シュトーレン中尉?」
 クーラを無視して、フォルテはゲーム用火薬式ピストル(単発型)をとり、撃った。見事に飛んでいた的に命中して、的が消える。
「いやー、さすがはフォルテだなあ。」
 タクトが感心したようにいう。
「さすが、銃にこだわるだけのことはあるなあ。」
 トパーもだ。
「釈迦に説法でしたか・・・。」
「さすがフォルテさんですね。」
 クーラもミルフィーもだ。
「ま、ざっとこんなもんだよ。」
 フォルテがまんざらでもないといった顔をする。

 その後、一行はティーラウンジでお茶を飲む事になった。
「・・・、フォルテさん。先ほどはありがとうございます。」
 ヴァニラが感謝する。
「な〜に、いいって事よ。」
 フォルテが大笑いする。
「ん、何でヴァニラがフォルテさんに感謝するわけ?」
 ルビナスが相変わらず間抜けな事を聞く。
「ああ、クーラの奴がめちゃくちゃな事を言ってたんでね・・・。」
「めちゃくちゃとは失礼ですね・・・。」
 クーラがやや渋い顔をする。
「何があったんですか?ずずずい〜っとお話を・・・。」
「ずずずい〜って・・・。」
 そして、クーラの話を聞いて、
「なるほどな・・・。まあ、悪い手でもないな。」
 どこからともなくサフィエルが相槌を打つ。
「・・・でもそれでは動物さん達がケガすることになります。」
 ヴァニラが否定的に言う。
「ノンノンノン、ヴァニラさん。そこであなたのナノマシーン療法を使えばよろしいじゃないですか。」
 クーラが軽い口調で言う。
「ずいぶん下らん使い方だなあ・・・。」
 エメードが淡々と言う。
「・・・でも、私は動物さんたちにケガを負わせたくありません。」
「そりゃあ、ヴァニラは人間より動物の方が大事だもんね。」
 ヴァニラの発言にルビナスがさらに茶々を入れる。
「いや、そういう言い方はよくありませんよ。ルビナス。ただ、ヴァニラさん。世の中にはどうしようもない事もあります。その時は多少の犠牲は止むを得ないんですよ。」
 クーラがやんわりとした調子で言う。顔だけではなく、声も美声だ。
「・・・・。」
 クーラは続けて
「もし、フォルテさんがあんなに射撃がうまくなかったらそれこそ大幅に時間とエネルギーを消費してしまうところだったんですよ。」
 さらに
「我々だって、あんな事でこんなに苦労したくはないでしょ?それに銃というのは精神集中をする必要があるじゃないですか。だから、ああいう場合は普通の銃では手間がかかりすぎるんですよ。」
 
「・・・でも、それで動物達はケガさせるのもかわいそうだよなあ・・・。」
 タクトが割り込んでくる。
「そうですね・・・。」
 ミルフィーも同じ意見のようだ。
「ま、それもわからなくはございませんが、ちょっとケガを負うだけです。おもちゃの銃なら死に至るケガなんて起こらないでしょう?そう考えると我々の苦労を省くためにも大事なことなんですよ。」
 クーラはここで一拍おいた。
「・・・私は、少しくらい彼らに犠牲を払わせてもいいと思います。」
 クーラは結論を静かに述べた。
「その意見は悪くないね。」
 フォルテが静かに言う。
「エオニアとの戦争の時、ルフト先生がオトリになったように誰かに苦労をかけないといけないことも、戦争ではよくあることだ。」
 フォルテはかつてトランスバールを我が物とせんと企んだ廃太子エオニアとの戦争を思い出しながら語った。
「わかっていただいてとても嬉しいですよ。」
 クーラがフォルテに微笑みかける。
「ただ、あんたは少々やりすぎることがある。例えば、この間に鎮圧した反乱軍との時だ。」
 フォルテが渋い顔で言う。
「ああ、私が反乱軍に奇襲をかけた時の事ですか?」
 それは、数週間前にある惑星の住人が、皇国からの独立を果たすといって反乱した時の事だった。その惑星ではある宗教の過激派が多く、その惑星の指導者もその信者だった。そして、交渉は難航していた。
「そうだね、あたし達が奴らと交渉をしていた時に、反乱軍の隙を突いて攻撃したんだったなあ。」
「そして、その攻撃のおかげで、短時間で解決し、そして皇国軍の被害は予想をはるかに下回る程度ですみましたね。手前みそで何ですが。」
 フォルテとクーラのかけあいが始まった。
「言っている事はもっともだと思うよ。あの交渉がうまくいく可能性が低かったのは事実だ。ただ、交渉が終わってから攻撃すれば十分だと思うんだがねえ。」
「攻撃した方が解決上の効率が良かったんですよ。」
 フォルテの意見にクーラが冷静に反論する。
「そうなんだ・・・。でも、非戦闘員の殺害やあの星の遺跡まで破壊したのはやりすぎじゃないかなあ・・・。」
 タクトが少し渋い顔をしながら意見を言う。
「フッ、マイヤーズ司令。時には見せしめも必要なんですよ。」
「時にはな。おまえさんはしょっちゅうやってるんじゃないのか?」
「とおっしゃいますと?」
 クーラは得意げに語っていたところを邪魔されたといった感じの表情をする。
「簡単だよ、あの奇襲作戦後に見せたお前さんの表情さ。」
「表情?」
「そう、あんたはあんな事をした後なのにまるで何事もなかったかのような穏やかな表情だった。普通は罪悪感で顔を歪めるとかくらいの反応があるのが普通なのにな・・・。」
「・・・・・・・。」
「あんたの演技がうまいのか人並み外れて冷静なのか本当になんとも思ってないのかはともかく、あまりに普通すぎる。あそこであの表情はうまくないな。何はともあれ、少しは動揺したような表情をしないと部下から変に思われるぞ。」
「なるほど・・・。それは盲点でしたね。」
 クーラが静かに言う。
「でも、フォルテさん。クーラさんが何とも思ってないような冷酷な人なんてことはないと思うけど・・・。」
 ランファの弁護が入る。まあ、ランファなら美形をかばうだろうが・・・。
「まあ、何とも思ってないはいいすぎたかな。」
 フォルテが笑いながら訂正する。
「あともう一つだけ忠告しておきたいことがあるんだ。クーラ。」
「何でしょうか?」
 クーラが返事をする。
「物事を成し遂げるためには多少の犠牲はやむをえないって言葉、確かにその通りだ。」
「ええ、そうでしょうね。」
 クーラが訝しげにうなずく。
 その反応を見てからフォルテは語った。
「ただ、自分が犠牲になりたくないからという理由だけで他人を平気で巻き込む真似はするなよ。仮に自分が犠牲になってもかまわないと考えてこそ意味がある言葉なんでな。」
「そりゃわかってますよ。」
 クーラはいつもと変わらない調子でうなずく。
「・・・ん、そういえばクーラ准将。あなたってどことなくエオニアに似てません?」
「どれどれ・・・、ああ、雰囲気といい、背の高さといい確かに似てるな・・・。ハハハ。」
「実は肌と髪を染めて変装した本人だったりしてな。」
 ルビナスとサフィエル、トパーの下らない茶々が入る。
「・・・下らんな。エオニアはこんなに頭が良くないぞ。・・・、まあ本物だったらズタズタにするいい機会だがな・・・。」
 エメードのシニカルな声がする。
「ハハハハ、嫌ですねえ。本物がのうのうとこんな所にいるわけがないじゃないですか。」
 クーラがどこか演技じみたちょっと弱々しい笑みを見せる。
「ちょっと、アンタたち。なんでそういう変なことばかり言うのよ!失礼じゃない!」
 蘭花がまたしても怒りながら言う。
(ま、精神波遮断装置までつけているせいでクーラの奴の本性はつかめないが、何にせよ油断しないにこしたことはないな。クーラ、あんたが自分も犠牲にできるかどうか見てやるよ。)
 フォルテはこの騒ぎを遠めで見ていた。


後編へ続く
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