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月の導き


第1話 出会い

タッタッタッ

青年が廊下を全速力で走る。

(間に合ってくれ!!)

そして鷹の装飾が施された扉の前で青年は止まり、扉を蹴り飛ばした。

「ヌガーさん!!」

そこにいたのは同じ組織の人間が8人。
いや、同じ組織というのも正しくは昨日までの話だ…
彼らは裏切ったのだ、彼らだけではない。
この建物の中に居る全ての人間が。
ここに来るまでにすで彼も何人もの元同胞を殺してきた。

「よ〜狂犬。遅かったじゃねぇか。」
「うるせぇよ!ヌガーさんは!!」

正面の男は見せびらかすかのごとく鷹の座に座る一人の男の姿を見せる。

「ヌガーさん!!」

そこに座っている男はすでに死んでいた。
腹に多数の刃物と銃弾が打ち込まれていた。

「お前も俺達に逆らうならこうなるが、どうする?」

青年の心の中を怒りと憎しみで塗りつぶされていく。
そして…

「ざけんじゃねぇ!!このクソザコどもがよーー!!」

瞬時踏み込み正面の男を殴り飛ばす。
男は壁に叩きつけられその場で気を失う。
それを期に他の男たちも武器を構え襲いかかる。

「遅い!遅ぇぜ!!」

青年は襲いかかる男たちを攻撃する間も与えずに蹴散らしていった。
 
 
 

「次はどいつだ…」

あっという間に8人を打ちのめした青年。
右手につけたナックルも返り血で真紅に染まっていた。

鷹の間に騒ぎにかぎつけた他の仲間達が部屋に入ってくるや、その様子に怖気付く。

「狂犬…ヤツがこれほどとは…」
「お前も死ね!!」

青年の拳が目に映るモノを壊そうとしていた。

「ひいいぃぃ!!」

男は恐怖した。
男は自分が殺されると感じていた。
今床に転がるモノと同じになると…
 
 

「なっ!!」

青年の拳は男には届かなかった。
男が目を開けるとそこには白い全身鎧を着た男が青年の拳を受け止めていた。
鉄仮面からはみ出している黒い長髪が一際目立っている。

「てめぇ!!どこから!!」

鎧の男は無言で青年の拳を離し、腰にさしている2本の剣と抜いた。
一本は長剣、もう一本は短剣。

「殺る気満々だってかよ!!」

青年も再び構えた。

鎧の男も2本の剣を構える。
長剣を地面と垂直に、短剣を地面と水平に…

逆十字…
 

鎧の男を構えたと同時に青年の全身に戦慄と恐怖が駆け巡る。

(こいつはやばい!、やばすぎる!!)

青年は即座に構えを防御の型へと変えるがすでに遅かった。
全身鎧を着ているとは思えない速度で青年に襲いかかる。

左から短剣の攻撃を得意のナックルで受け止める。
しかし、短剣の攻撃を受け止めたナックルに強い衝撃が走り、さらにはヒビが入る。
すかさず青年はその手を引っ込めた。

(ぐっ、化物か!こいつ!!)

鎧の男の2撃目、次は長剣が地面と水平に走る。
青年は瞬時にバックステップを踏み、回避しようとするが…

(…遅い!間にあわねぇ!!!)

左横腹を深くかすめる。
真っ二つは避けたものの斬られた左横腹から大量の血が流れ出す。

「ぐっ!」

鎧の男の攻撃はまだ終わっていなかった。
剣を振ったその勢いを利用しての回転蹴りがもろに決まる。
青年を吹き飛ばす。
そしてブロックの壁を崩し建物の外へと…

「うわぁぁ!!」

バシャーーーン!!

そして河川へと落下する。
 
 
 

「どこの誰かは知りませんが助かりました。」

男は鎧の男に感謝の言葉を投げかける。

「お礼のほう…」

男は最後まで言い終わる前に最期を迎えていた。
そしてまた床に転がるモノが一つ増えていた。

「生態反応ゼロ…任務完了…」

返り血によって赤く染まる甲冑。
鎧の男はその場を去っていった。
 
 
 
 

一方河川へと投げ出された青年は…

「畜生!何だってんだ!畜生!畜生!畜生!ド畜生が!!!」

だんだんと身体から力が抜けていく。

(これで終わりかよ…)

周囲が暗くなって何も見えなくなっていった。
 
 
 
 

黒き戦艦のブリッジにて…
そこには金髪の少女とさっきの白い鎧の男がいた。
先の戦闘で返り血で赤くなっていた鎧も綺麗に掃除されていた。

「奴らの処分は出来たのだろうな。」
「完了済。」
「そうか。まさかあの現場を見られることとなるとはな。我が復讐のためだ。悪く思わないでほしいものだな。」
「…」
「最近知ったのだが、このあたりに奴の研究所の一つがあるらしい。
そこで白騎士、このサティール・ディアブールが命じる。奴の研究所を見つけだして破壊せよ。」
「了解。」
 
 
 
 

「うっ…」

青年は目を覚ますとそこは花畑だった。
青年は何が起きたのか理解できず混乱していた。
とりあえず身体を起こし、周囲を見渡した。

「ここは…。はん、三途の川って奴か?」

左横腹に手を当ててみる。

「傷が無い…。ははは、やっぱり、俺は死んだのか?」

どこからとも無く声が聞こえる。
「勝手に死んでもらってはわしが不快で仕方ないわい。」
「だれだ!!」

青年は周囲を見渡す。
しかし、誰もいない。

「どこにいやがる!!出てきやがれ!!」

とりあえずお約束に叫んでみる。

「全く、助けてやってその態度とは信じられんのぅ。」

花畑の中から一人の少年が現れた。
銀色の瞳と髪。そして異界の様な服を着た少年だった。

「てめぇ。誰だ?」
「ホント失礼な奴じゃのぅ。」
「誰かって聞いてるんだ!答えろ!」
「ふ〜む、仕方ないのう。さしずめB.K.とでも名乗っておこうかのぅ。」
「B.K.?変な名前だな。それよりなぜ俺を助けた?」
「人の家の前で人が死んでもらうのはちと気分が悪い。ただそれだけじゃが?」
「どうやって俺の傷を治した?」
「な〜に簡単なことじゃよ。」

パチン!

B.K.は指を鳴らすと花畑は消え、一つの塊になった。

「一体何を!」
「お前さんも知っておるじゃろ?ナノマシンじゃよ。」
「てめぇナノマシン使いか?」
「いや、わしはナノマシン使いじゃない。」
「じゃどういうことだよ?」
「わしはただ装置を作っただけじゃよ。」
「簡単に作れるもんじゃねえだろ。てめえ一体何者だ?」
「ただの研究者じゃよ。傷も治してやったから早々に立ち去ることじゃ。それにここに入ったことも忘れることじゃな。」
「なぜだ?」
「お前さんが住む世界じゃない。それが理由じゃ。」
「余計に意味がわかんねぇな。」
「白騎士に会ったじゃろ?」
「!!」

白い鎧の男が再び青年の頭の中を駆け巡る。

「わしが相手にしているのはそんな連中じゃよ。」
「あの野郎には借りがある!しっかり返さねぇと気が済まねぇ!」
「は〜困った奴じゃのう〜」

深くため息をついたその時だった。
研究所内にアラームが鳴り響いた。

「ほ〜、奴めついにここを嗅ぎつけたか。仕方ないのう。」
「奴?」
「白騎士のことじゃよ。」

ドーーン!!

「噂をすればご登場じゃな。」

壁を破り白騎士が現れる。

「目標発見。」

「は〜困ったものじゃのう〜」
「万事休すっか!」
「お前さんは逃げるんじゃ。せっかく助けてやったんじゃから、ここで死んでもらっては気分が悪いからのぅ。」
「B.K.てめえはどうするんだ。」
「こやつにちょっとお仕置きでもするかのぅ。不法侵入の上に、人の住処を荒らし追って。」
「お仕置きって。おい!」

B.K.はマントの上に羽織っている布を手に寄せる。

「なんだと!」

布はあっという間の一振りの漆黒の長剣へと姿を変えていった。
そして白騎士の斬撃をいとも簡単に受け流す。
続いて白騎士が大きく振りかぶる。
B.K.はその攻撃を自分の剣で受け止める。

「一体どこにそれだけの力があるんだよ。」
「ここはわしが食い止めるからお前はさっさと逃げるんじゃ。後ろの扉をまっすぐいったエレベーターが地上につながっとる。」
「あ、ああ。」

つい、B.K.のいうとおりにしてしまう青年。
実際、前の戦いで、今の自分では白騎士には勝てないとわかっているのも理由の一つだった。

B.K.の言うとおり廊下をまっすぐ行ったところにエレベーターがあった。
青年は急いでそれに乗り込みボタンを押す。

「結局あのB.K.とかいう小僧。なにものだったんだ?」

今考えてみれば彼のいっていたことは正しかったのかもしれない。
あの白騎士相手に一つもひるまず剣撃を受け止めていた銀髪の少年の姿が妙に頭に残る。

「結局住む世界が違うってか!」
 

ガタン!!
 

大きな振動の後に明かりが消え、エレベーターが停止する。

「なんだってんだよ!」

表示を見ると地下3階。
後もう少しで地上だった。

とりあえずエレベーターのドアを蹴り破り外へと出た。
そこには黒い機械兵士が多数。

「ちっ!そういうことかよ!」

機械兵士は青年を見つけるや否、すぐさまに攻撃を始める。

「こういうときは逃げるしか、ねえよな!」

青年は全力で逃げた。
正面の敵を殴り飛ばしながら…
とにかく逃げた。
 
 
 

そのうちに薄暗い部屋にたどり着いた。

「ふ〜。ここならしばらくは大丈夫だな。」

改めてその部屋を見る。
わずかの光が中央にあるベットを照らしていた。

そこには一人の少女が横たわっていた。
青年は近づいてみてみる。
薄紫の髪の少女。
服装はB.K.と似たような異界の服。
狼か何かの獣の耳と尻尾。
ただ、生気が感じられない。

「死んでいるのか?」

青年はじろじろと見つめてみる。
次に腕を掴み脈を確かめる。
脈は無かった。

「人形か?それにしてはよく出来すぎている。それにしても…」

青年は改めて少女の顔を見た。
綺麗な寝顔だった。
美しかった。
童話の白雪姫を連想させるように。
容姿こそ10歳そこそこではあるが青年は少女の魅力さえ感じていた。

(いかん、いかん。人形相手に何考えてるんだ。俺は。)
 
 
 
 

B.K.と白騎士の戦いはまだ続いていた。

「なかなかの腕前じゃのう。」

白騎士は無言で斬撃を返す。
その後、両者は再び間合いを取り直す。

「ん、3F、エリアFに敵が侵入!?むぅ、まずいのぅ。」

B.K.がそっちのほうに気をとられている隙に攻撃を仕掛ける白騎士。

「お前さんとのお遊びはここまでのようじゃな。」

瞬時に姿を消したB.K.

「ふん、どこを見ておる。」

B.K.は瞬時に白騎士の背後へと周りこんでいた。
白騎士は即座に反撃に転じようとするが…

「漆黒の舞…」

B.K.の神速の太刀に床にめり込んでいく白騎士。

「これでしばらくは身動きできまい。」

B.K.はその部屋を後にして、3Fへと急いだ。
 
 
 
 

バリーーン!!

ガラスの割れる音がすぐそこで聞こえた。

「ちっ!もう見つかったか!」

慌てて振り向いたそのときだった。
近くにあったケーブルに足を引っ掛け、ベッドに眠る少女のほうへと倒れこむ。

青年は少女の唇の柔らかい感触を感じた。

接吻…

キスである。
 
 

生態データ
脳波パターン
思考パターン
読み込み完了…
システム構成…
 
 

「あっ!」

数秒固まった様子だったが慌てて体を起こした。
そのときだった。
今までピクリとも動かなかったベットの上の白雪姫が目を覚ます。
当然ながら正面にいた青年は少女と目が合ってしまう。
青年は彼女の瞳に深く蒼い海を思わせた。
今にも吸い込まれそうな蒼。

彼女は軽く笑みを浮かべた後、口を開いた。
そして第一声。

「おはようございます。ご主人様。」
 
 

次回予告
B.K.の活躍により無事に研究所を脱出できた3人。
その後、青年の暮らしている家へと行くのだが…
次回 月の導き
第2話「Home」

大いなる月の加護があらんこと…
 

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