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月の導き


第2話「Home」
 

「おはようございます。ご主人様。」
「はっ?ご主人様!?」
「はい。あなたが私のご主人様です。」

少女の迷いの無い答えについ迷う青年。

「一体どうして!?」
「それは…」

バリーーン!!

一番近いガラスが砕け機械兵士が近づいてくる。

「ちっそれどころじゃないみたいだな。」

青年は少女を抱きかかえベットの後ろ側へと滑り込んだ。
そして少女の口に手を当て、自分もまた息を潜めた。

(早く通り過ぎやがれ!)

頭の中でそう思いつつも機械兵士は次々と入ってくる。

少女は青年の手越しに離しかける。

「ご主人様?どうしたのですか?」
「お前は黙ってろ。」
「…はい。」

青年はその会話の後異様な雰囲気を感じだ。
こっそりと機械兵士のほうを見てみる。

敵の機械兵士の銃口がこっちのほうを向いていた。

(こっちの会話が聞こえたか!?それとも…)

青年は恐る恐る少女の方を見てみる。
尻尾がものの見事に敵に丸見えの状態だった。

「…」
「ご主人様?」
「頭隠して尻尾隠さずってか〜〜!!」

再び少女を抱え一気にベットから離れる。

間一髪で回避に成功。
ベットはものの見事に蜂の巣になっていった。

「ふ〜あぶんねぇ。」

しかし、危険な状態には変わりない。
今の攻撃を回避したといえども次がある。
しかも狭い部屋に大量の機械兵士。
普通に考えればどうにかなるものではなかった。
当然ながら機械兵士は銃口をこちらに向ける。

(腹くくるしかないのか?せっかく命が助かったと思ったのによ!)

青年は覚悟を決め、少女を下ろし、拳を構える。

その瞬間に銀色の閃光が目の前をすり抜ける。
青年は思わず目をつむった。

再びまぶたを開くとそこには無数のガラクタが転がっていた。
そしてそれを踏みつける少年の姿があった。
青年も知っているこの少年のことを。

「B.K.!!」
「ふ〜何とか間に合ったわい。」
「お前、白騎士はどうしたんだよ。」
「動きを封じてきてやった。」

簡単に答えるB.K.に唖然とする青年だった。

「それよりアニスを探さんといかんなぁ」
「アニス?」
「ああ、わしの可愛い娘みたいなものじゃ。」
「あんた一体何歳だよ。」
「それは秘密じゃ。」
「アニスってもしかして…」
「お前さん、わかるのか?」

青年は横に移動し、さっきまで抱きかかえていた少女をB.K.に見せた。

「お前さん。まさか…」

半硬直状態のB.K.。

「ご主人様。この人は?」

少女は青年にB.K.の事を尋ねる。
確証だった。

「おおぉぉぉ〜〜〜!!」

研究所内にB.K.の声にならない叫びが響きわたった。
 
 
 
 
 

3人は何とかB.K.の研究所を脱出し、海岸へと出ていた。

「へ〜まさかこんな所につながっているとはな。」

大きくため息をつくB.K.だった。

「おい、いい加減にすれよ。このガキがそんなに重要なのかよ?」

青年は少女の頭をクシャクシャっとなで回す。

「当たり前じゃ。詳しい話は後じゃ。どこか落ち着いて話せる場所はないかのぅ。」
「そうだな。一つ思い当たる場所がある。」
 

3人は海岸を離れ街に入っていくそして商店街を抜け、小さな家の前にやってきた。

「ここがお前さんの家なのか?」
「いや、俺がいつも世話になっている人の家だ。それじゃ入るぜ。」

扉を開け、家の中へと入る。

「邪魔するぜ。」

すると家の奥から誰かが駆けてきた。
茶色の長髪の女性。年は青年と同じくらいだろうか。
そして青年を見るなり、

「久しぶりね〜キューちゃん。」
「パイナ!その呼び方はやめろ!」
「別にいいじゃ〜ん。」
「それにしても珍しいなこの時間に家にいるなんてよ。」
「ええ、店長が風邪をひいちゃって、お店もお休み。それよりも…」

パイナと呼ばれた女性はアニスとB.K.見つめる。そして青年の顔をビシっと見つめ…

「キューちゃん。」
「なんだ?」
「もしかしてまた誘拐?」
「パイナ!俺をどういう目で見てるんだよ!」
「お金が無いからってどこのご子息かご令嬢かを連れ出して。目的は身代金でしょ。」
「確かに昔やったことあるが、今回は違う!」
「どうだか。」
「パイナ〜貴様〜!!」

青年の怒りのゲージが上昇していく。
そんな時にアニスが一言。

「ご主人様。怖い…」
「キューちゃん。もしかして…」
「なんだよ!」

パイナは真剣な目で…

「調教済み?」

怒りのゲージが突き抜けた。

「ふざけるな〜!!!」

そんな青年の態度に動じないパイナ。

「あら〜いいのかしら〜私に逆らって〜。しばらく仕送り止めましょうかな〜。」

その一言で怒りを納める青年だった。

「すみません。」
「うむ。よろしい。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「へ〜組織の新しい任務ね。」
「ああ、そういうわけだ、くれぐれも勘違いすんなよ。パイナ。」

とりあえずありがちの嘘をつく。
しかし、これが一番手っ取り早いのも事実である。

「はいはい。わかってますって。」
「ちょっとこっちだけで話したいことがあるからパイナは下がっててくれねえか?」
「はいはい。了解ですよ。」

パイナは部屋を後にした。

「物分りの良い、いい娘さんじゃないか。」
「うるせぇよ。それよりさっさと話してくれないか。」
「う〜む、その前にお前さんの名前を聞いておらん。これから長い付き合いになるかもしれんからのぅ。」
「長い付き合いって。まぁいい。俺はキュウィー・アンティーク。キュアンとでも呼んでくれ。」
「わかったぞ。キュアン。さて何から話そうか?」
「まず、このガキについてだ。」

歩き疲れたのかソファーの上で丸まって眠っているアニスの姿があった。

「アニスのことじゃな。わかった。
アニスはわしが造りだした人造生命体じゃ。」
「いきなりとんでもない話だな。おい。」
「当たり前じゃ。本来ならこっちの世界に来ることの無いお前さんが来てしまった。
信じられないことだらけにきまっとるわい。」
「で、なんか目的あってのことだろ?」
「なかなか察しのいいのう、お前さんは。
その通りじゃ。アニスはただの人造人間でない。
このわしが長きにわたる研究の末に生み出された偉大なる存在なのじゃ。」
「へ〜それで。」
「お前さん。紋章機を知っている?」
「いきなり話が飛んだな。ああ、このトランスバール皇国最強の戦力だろ。先の戦乱で大活躍だって言うアレだろ?」
「そうじゃ。じゃがその紋章機にはいくつかの問題点が存在する。
その中で一番の問題点は紋章機の適正があるかどうかということじゃ。」
「なるほどな。どんなに戦闘機の腕が良くても乗れなきゃ意味無いということか。」
「そこでわしは適正者意外の者でも操作できる方法を考えた。
適正を持った人物の遺伝子を利用して作り出された生命体に自分の生態データをリンクさせることにより適正者で無いものでも操作できる。」
「それで生まれたのがアイツってことか。」
「そうじゃ。本来ならこのわしが登録されるはずじゃったが、誤ってお前さんが登録されてしまった。」
「登録の解除方法は?」

B.K.はさわやかに

「無い。」

断言した。

「つまり、俺は一生アイツを連れまわさないと行けないということか!?」
「そうなるのぅ。安心せい、アニスは年齢を重ねても容姿は変わらん。」
「余計まずいわ〜!!くっこうなったらこいつを殺してでも…」
「それも無理じゃな。わしの遺伝子を元に作ってあるからまずお前さん程度じゃ殺せんよ。それに…」

キュアンは背後からすさまじい殺気を感じた。

「その前にお前さんの首が飛ぶからのぅ。」

気が付けばB.K.は背後で剣を構えていた。

「はは、冗談きついぜ。」
「冗談じゃよ。」

B.K.は剣を収め、平然と笑う。

「重要なことを聞くのを忘れていた。あの白騎士とかいう奴は何者だ?それとB.K.お前もだ。」
「そうじゃのう。新たな敵といえばわかりやすいじゃろう。そしてわしはそいつらに対抗する研究者といったところじゃ。」
「答えになってねぇな。」

B.K.は深くため息をついた後、真剣な目でキュアンを見つめる。

「お前さんには深く関わらないほうが良い。並みの人間ではどうにもなる世界ではない。」
「アレだけやられて黙っていられっか!!」
「口でならどれだけでも言える。」
「ざけんな!!」
「なら、お前さん。わしを倒せるか?」
「!!」

あの白騎士よりも強いB.K.に勝てるはずが無い。
まさに火を見るより明らかだ。

「この世界にはわしより強い連中も存在する。そんな奴が現れたときお前さんはどうする?」
「…」
「死ぬしかないじゃろうな。それなら、残念じゃが、お前さんはアニスと平和に暮らせ。
アニスの能力を完全に発揮出来んお前さんが戦ったところで意味が無い。」
「それが本意か?」
「ああ、わしはアニスを無意味に殺させたくはない。」
「自分が生み出した兵器にしては感情を入れ込んだものだな。」
「だからじゃよ。ただ戦うだけでは機械と変わらん。わしらは人じゃからな。アニスもな。」
「兵器が人とは。とんだ研究者だな。」
「ふん。別にいいじゃろう。」

「B.K.。しばらく考えさせてくれ…」
「そうじゃな。」

B.K.は立ち上がった。

「どこへ行く気だ?」
「研究所に忘れものじゃ。明日また来るぞ。」
「ああ…」

B.K.はあっという間に消えていった。
 
 

「とにかく今日は色々ありすぎた。今日は休もう…」

そう思ったそのとき玄関から大きな声が聞こえる。

「兄貴〜!!」

パイナの弟、ベルギー・ワップルである。
今年16歳になって街の各地でアルバイトをして姉の助けをしている少年である。

「遅かったじゃないか?ベルギー。」
「ジャ〜〜ン!今日のバイトは結構稼げたんだぜ〜」

誇らしげに給料袋を見せるベルギー。

「それより兄貴今までなんで来なかったんだよ。」
「ああ、組織の仕事が忙しくてな。」
「またそれかよ〜」

ベルギーの目にソファーに眠っている少女が映る。

「兄貴。また誘拐してきたの?」
「だ〜!!お前もか!!」
「可愛いからって誘拐はいけないよ〜」
「お前らそろって!」

ちょうどその騒ぎに目を覚ましたアニスだった。
目を擦りながら…

「おはようございます…ご主人様。」

ベルギーに衝撃が走る。

「兄貴…まさか…」
「なんだよ。」
「調教済み?」
「お前ら姉弟は〜〜!!!」

ドアが開きパイナが入ってきた。

「ベルギーお帰り。夕食は食べた?」
「うん。バイトの時におごってもらった。だから風呂に入るよ〜」
「はいはい。あまり騒がないでね。」
「は〜い。」

ベルギーは浴室へと走っていった。

「あら、B.K.くんは?」
「忘れものだとよ。」

パイナは眠そうなアニスを見るなり、

「あらあら、ごめんね。起こしちゃたみたいね。」
「…うん。」

まだ眠そうなアニス。
パイナはアニスを抱え、寝室へと連れて行った。

「あ、そこの部屋は!」

アニスを寝室に寝かせパイは戻ってきた。

「キューちゃん。今日はソファーで寝てね。」
「やっぱり。」

ガクっとなるキュアンだった。

「それよりキューちゃん。」
「なんだよ。」
「さっきの組織の仕事って話、嘘でしょ?」
「…なんで分かった。」
「情報収集は私の専門でしょ。」
「…」

実のところパイナ・ワップルは元組織の諜報部に勤めていた経歴があった。
裏の情報網によりキュアンも何度も助けられていたのも事実である。

「ヌガーさんが死んだのね。」
「…ああ。」

彼女の前に嘘は無意味だった。
キュアンもそれを知っていた。

「守れなかった…右腕である俺が…」
「…」

パイナはそっとキュアンの頬に触れる。

「そんなに自分を責めないで。」
「…すまん。パイナ…」
 
 

静かに夜は過ぎていく…
 
 
 
 

次回予告
いままで表に出ることが無かった影がついに現れる。
青年と少女は今、新たなる誓いを立て、大いなる敵へと立ち向かうのであった。
第3話「月光の蜃気楼」

大いなる月の加護があらんこと…
 
 
 

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