戻る   第2話へ

月の導き


第3話 月光の蜃気楼


黒き戦艦内にて…
サティと白騎士の姿があった。

「白騎士まただいぶやられたらしいな。」
「…」
「まぁ確かに奴が帰ってきていたとは私も思っていなかった。
だが、前の戦闘でルナティックは使えなくなっている。
ちょうどいい。一緒に処分してやれ。
お前の『亡霊』を使ってな。」
「承知。」

白騎士は格納庫へと向かった。
重々しく格納庫の扉が開く。
そしてそこには白と銀色の紋章機があった…

「作戦開始。」








燃える街。
燃える建物。
そして燃える人々。
灼熱の炎が街を建物を人を飲み込んでいく。

「ちっ!どうなってやがる!」

キュアンは燃える街を走る。
燃える建物や人に目もくれず走る。
走る。
いつものあの場所へ走る。
そして、たどり着く…

「パイナ!!ベルギー!!大丈夫か!!」

彼は叫びながら家の中へと駆け込んだ。

「キューちゃん!!」
「兄貴!!」

遠くから声が聞こえ燃える廊下を走り抜ける。
キュアンは二人を見つけだし、声をかける。

「だいじょ…」

その瞬間、焼け落ちた屋根が二人に襲いかかる。
二人は声を上げることなく瓦礫の中へと姿を消した。

「うわぁぁぁ!!!!」



ガバッ!



あっという間に風景がかわりいつもの家だ。
そのときやっと今の状況に気が付いた。

「夢…か。ちっ、ろくでもねぇ。」

ソファーから身体を起こすとそこにオドオドとしたアニスがいた。

「…ご主人様。だ、大丈夫ですか?」

少し心配そうに見つめていた。
改めて自分の身体を見ると冷や汗でびっしょりだった。

「嫌な夢を見ただけだ…」

ドアが開きパイナとベルギーが入ってくる。

「キューちゃん。どうしたのよ。急に大声なんかあげて。」
「そうだよ兄貴〜。」

二人とも寝巻きのままだった。
ふと、時計を見るとまだ針が5時にさしかかったばかりであった。

「あ、すまねぇな。」

「あら、素直に謝るなんて珍しいわね。今日は雪でも降るかも。」
「姉ちゃん雪じゃなくて槍だよ。槍。」
「ふふ、そうかもね。」

相変わらずの二人に相変わらずの返事。

「お前ら。調子に乗りやがって!!」

「わ〜〜」

二人はドアを閉め自室へと戻っていった。

「ったくどいつもこいつも。」

クイクイ

服を引っ張る感触がして、そっちの方をみるとアニスがタオルを持ってきていた。

「お前、けっこう気が利くな。」

アニスはうれしそうに。

「ありがとうございます…」

丁寧にお辞儀をするとトテテテといった感じに部屋を出て行った。

「まぁ、アレだけなら可愛いかもな。」

アニスからもらったタオルでとりあえず汗を拭く。
妙に目が冴えていて再び眠りに付く気は起きなかった。
そこで、昨日のB.K.との話を再び思い返すキュアンだった。

「人造生態…兵器…戦うための存在…っか。」

今の彼には二つの選択肢が迫っている。
一つは一生アニスと普通の生活を過ごすこと。
もう一つはアニスと共に戦いの世界へと身を投じるか。
普通の人ならば先の選択を選ぶだろう。
しかし、今の彼には白騎士が許せなかった。
正義感というわけではないが、あそこまで一方的にやられては気がすまない性格であったからだ。
やられた相手にはその倍で返すのが彼の信条だからだ。
だが、B.K.の話も一理ある。
実力の差は明らかだからだ。
アレだけの鎧を着た上でのあの動き。人のレベルを超えている。
正直まともに勝てる相手ではない。
(そんなものに勝てるのか?)

「畜生。どうすればいいんだ?」

再びドアが開き、今度は着替えを持ってきたアニス。

「お着替え、持ってきました。」

アニスはキュアンの側にきて、着替えを渡した。

「サンキュー。」

アニスは着替えを渡した後、キュアンの隣に座った。

(何で耳とか尻尾とかあるんだろうな?)

キュアンは少し気なってアニスの耳に触ってみる。
ふかふかして気持ちよい感触だった。

「きゃ。」

突然耳を触ったせいか、かなり驚いているアニスだった。
今度は少し引っ張ってみる。

「そこは、あ、引っ張らないでください。」

涙目のアニスにさすがに手を離した。

「ははは、お前も面白い奴だな。」
「ご主人様のいじわる…」


「それより着替えたい。しばらく外してくれないか?」
「あ、はい…」

アニスは再び部屋を後にした。
そしてキュアンは服を脱ぎ着替えた。

着替えが終わりドアを開けようとしたその時だった。



ドーーーーン!!!

すさまじい爆音が外に聞こえた。

「なんだ!!」

キュアンは急いで外に出て爆発のあった方向を見つめた。

「なんだってんだ!!」

海岸の方向に巨大なキノコ雲が発生していた。
そしてその上空に巨大な物体が飛んでいた。
それはいまや知らぬ人はいない物体。
皇国軍最強の戦闘機…

「紋章機!!」

白と銀のカラーリングの紋章機は次にキュアンたちのいる街へと標準を合わせた。
他の野次馬達も次々と悲鳴に近い声を上げていた。

「しかし、なんだ、あのプレッシャー…」

キュアンはこの感じを知っている。

「白騎士じゃな。まったく、あんなものまで取り出しおって。大人気ない。」

キュアンがしゃべる前に答えたのは銀髪の少年。

「B.K.無事だったか!」
「まあ、間一髪といった奴じゃよ。」

家からパイナ達も寝巻きのまま出てきた。

「一体なんなの?」
「兄貴、あれって紋章機じゃないか?どうして攻撃してくるんだよ。」

「奴が乗っている…」

「…奴?」

キュアンの頭の中でさっきみた夢と重なる。

(そんなこと、させてたまるかよ!!)

「畜生。結局戦うしかねぇのかよ。」

キュアンはついに覚悟を決める。

「B.K.。」
「なんじゃ?」
「俺は…戦う。あんなクズ野郎にこれ以上好きにはさせねぇ!!」
「死ぬかもしれんぞ。」
「あんなクズに好き放題させて死ぬよりはマシだ!!」

勢い乗ったキュアンにパイナが一言。

「好きにさせないってキューちゃんどうするのよ?」
「あっ。」
「兄貴。さすがに生身じゃ即、やられるよ。」
「うるさい!装甲車でもぶんどって何とかする!」
「相手紋章機だよ。無理だって。」
「う。」

「ふぉふぉふぉ。まったくいって仕方ない奴じゃのう。」
「B.K.何か手段があるのか?」
「当然じゃ。毒は毒によって制すまでじゃ。」
「毒?」
「どく?」

キュアンの山彦のように答えるアニスも。

「まあ、ついてくるがよい。」

キュアンはふとパイナたちのほうを見た。

「お前達は避難シェルターで待っていろ。」
「わかったわ。キューちゃん。気をつけてね。」
「兄貴〜よく分からないけどガンバレ!」

「ああ!」





「それでどこに行く気だ?」
「この街の近くに湖があったじゃろ。そこじゃ。」
「ちょっと待てよ。あそこまで軽く数キロはあるぞ!それじゃ行く前にやられるぞ!」
「まったく世話の焼けるやつじゃのう。」
「うるせぇ!」

B.K.はマントの下から手を差し出した。

「二人ともわしの腕にしっかりつかまれ。」

キュアンとアニスは言われるとおりにそれぞれの手を掴んだ。
とりあえずキュアンは何をするのか聞いてみる。

「どうするんだ?」

「走るのじゃよ。」

その言葉と同時にB.K.は地面を大きく蹴り上げた。

「へっ?」
「えっ?」

二人の視界が瞬時に変化していく。
B.K.は言ったとおり走ったのだ。
ただし、とんでもない速さであった。






あっという間に3人は町外れの湖にやってきた。

「まさか3分で着くとは…」

改めてB.K.の恐ろしさを実感するキュアンだった。

「ここに何があるんだ?」
「まあ、みていればわかるわい。」

B.K.が一つ指を鳴らすと…

「なんだ!?」
「えっ?」

湖の中から何かが浮かび上がっていく。
そして目の前に現れたのは巨大な宇宙船だった。
全長はかるく300mを超えている。

「よくも見つからなかったな。こんな巨大な物体。」
「簡単なことじゃよ。一種のステルスを使ったまでじゃよ。
それより急ぐぞ、あの白騎士のことじゃ、何をしでかすかわかったものではないからの。」
「あ、ああ。」

3人は巨大な宇宙船の内部に入った。
そしてB.K.に案内されながら格納庫の前に着いた。

「さあ、着いたぞ。」
「おい、B.K.ここに何があるってんだ?まさか紋章機があるとか言うのじゃねえよな。」
「見てからのお楽しみじゃ。」

そしてB.K.は格納庫の扉を開いた。

「まさか…本当に!!」

扉の先の光景に驚きを隠せないキュアンだった。
そう、そこには紋章機があった。
キュアンたちが知っている紋章機よりも一回り大きいサイズものが3機もそこに置いてあった。
しかし、一番前の紫と漆黒に染められている紋章機。
だが、よく見るとあちこちで損傷が目立つ。
真ん中には薄紫と黄色の紋章機が。
そして一番奥にある純白の紋章機。武装が取り付けはしてはあるが大量のコードが繋がれている。調整中みたいだった。

「おおきい…」

アニスもまた初めて見る紋章機に驚いている。

「B.K.こいつは!?」
「そこは秘密じゃ。」
「秘密って、おい!」
「そんなことより、お前さん戦闘機には乗ったことが有るか?」
「…ああ、組織の任務のお陰である程度はな。」
「ならちょうどよかったわい。見ての通りルナティックは修理中、アルテミスはシステムが未完成。
じゃからお前さんにはムーンライトに乗ってもらうぞい。」
「ムーンライト?」
「ああ、真ん中の黄色と薄紫の紋章機のことじゃ。
あと、簡単にじゃがコイツ説明をしておいてやろう。
形式番号DA?007 ムーンライトミラージュ。
機動性と防御力に特化した紋章機じゃ。
H.A.L.O.搭載じゃからアニスがおらんと動かせんぞ。」
「ここで、このガキが役に立つってわけか。」
「頑張ります。」
「あとはコックピットで通信してやるから乗ってみるがいい。」
「わかった。」

キュアンとアニスはすぐさまムーンライトミラージュのコックピットに入りこんだ。
座席は上下に二つ。
そこでちょうどよくB.K.から通信が入る。

『上の座席にキュアン。下はアニスじゃ。それと上の座席にサークレットみたいなものがあるじゃろ。』

キュアンはB.K.の言うとおり上の座席を見た。

「ああ。あったぞ。」
『操縦の際、それをつけてもらうからの。それがお前さんとアニスをシステム的につなげるものじゃ。』

キュアンはそのサークレットを頭にかぶり、上部の座席にすわる。

「ほら、お前もさっさと座れ。」
「はい。」

アニスも下部の座席に座った。

『それじゃ二人とも操縦桿を握るのじゃ。』

二人が操縦桿を握るとコックピットがしまり、モニターと各種パラメータが表示された。
そしてアニスの頭上に光の輪が発生した。

「これでどうすればいい?」
『全機能はアニスとH.A.L.O.がやってくれる。お前さんは何もせんでいいぞい。」
「そうか。」

キュアンは下の座席にいるアニスを見てみた。

「マジかよ…」

それは信じられない光景だった。
常人を遥かに越えるスピードでコンソールを打ち込むアニスの姿があった。
それ以前に生まれて2日も経っていない生命体がここまで出来るものかと疑うしかなかった。

「D遺伝子確認…
ナノマシンにより擬似シナプス構成。
補助脳形成完了。
神経伝達率67%…
精神同調率43%…
ノイズ率5.5%…

再調整…
神経伝達率89%…
精神同調率76%…
ノイズ率0.3%…

第二フェイスに移行。

アナザーライブラリ直結…
情報区画S?325より検索…
DE?007の操縦マニュアル検索完了…
情報読取開始…」

アニスはそれだけしゃべった後に静かに目を閉じた。
このときキュアンは改めてアニスが普通の生命体ではないことを再度自覚した。

「はは、すげえな。」
『当たり前じゃ。アニスにはこんなこと朝飯前じゃ。』


アニスはゆっくりと目を開いた。

「読取完了…
第二フェイスに移行。
各システム再確認…」

再び高速のコンソールの打ち込みが始まった。

「重力制御システム…正常。
慣性制御システム…正常。
武装制御システム…正常。
各部ブースター制御…正常。
各シールド制御…正常。
全システムオールグリーン。
アンチビームコーティング展開。」

そしてアニスは一息ついた後に、キュアンのほうに顔を向けた。

「ご主人様。準備が完了しました。」
「ああ。」
『それではカタパルトを開くぞ。』

カタパルトが開き紋章機は加速位置に移動した。

「いよいよあの野郎に一泡吹かせてやれるぜ!!」
「はい。」
「「ムーンライトミラージュ 発進!!」」

朝日を浴び紋章機は空へ飛び立つ。



次回予告
街の空で二つの力がぶつかり合う。
蜃気楼と亡霊。
戦いという名の運命が動き始める…
第4話「戦闘」
大いなる月の加護があらんこと…


第4話へ