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月の導き


第9話 「忘れえぬ思い出」


「今のは…B.K.の記憶か?」


深い闇の中、どこからかメリアの声が聞こえてくる。

「まあそんな所だね。じゃあ次いってみようか〜」
「ああ…」

再び闇がキュアンの感覚を奪っていった…





今度はどこかの研究施設。
白衣を着た研究員が様々なカプセルをのぞきこんでは手元の用紙に記入している。
そしてカプセルの中には人間の幼児が入っていた。
そしてあの紋章が…
そう、ここはCHAOSの研究所。
特に遺伝子操作やオーバーテクノロジーを流用した強化人間を作る場所だった。
そこに一人の中年の男がいた。

「次の十天司はこの子に決まりだな。これだけの能力間違いないな。
苦労してEDENの『二つの月』計画から情報を盗んだ甲斐があったというものだ。」

すると奥のほうから一人の幼い少女が現れる。
金色の瞳と短い髪。そしてその服にはおびただしいほどの血が付着していた。
その血は決して少女のものではなかった。

「パパ。今日も皆やっつけたよ。」

少女は無邪気な笑顔を男に見せる。

「ウトナ。よくやったよ。お前は最高の娘さ。だからゆっくり休みなさい。」
「うん。」

少女は別の部屋へと移動した。
それを確認するとモニターにある部屋が映し出される。
そこにはいくつもの人間の死骸があった。
それは同じ研究所で生み出された強化人間。
そしてこれを全て殺したのはあの幼い少女だった。

「化物め…だが、これで私の地位も確立される。アナザーライブラリーの閲覧の権限が得られるのだ!」





幼い少女は夢を見る。

襲いかかる獣や人。
それを無残に殺すと自分の『父親』、あの男に見せびらかす。
男はその様子に少女の頭をなでる。
少女にとってこれが幸せであり、幸福なのだ。






CHAOS本部
そこはあまりに巨大な都市。
元々はいくつもの人口衛星だったのであるがそれが幾度となく融合・結合を繰り返した。
その結果、今では下手な惑星の数倍のサイズとなってしまった。
全部で10もの圏に分かれており、それぞれにセキリティが掛けられている。
最終圏へ入ったものは誰一人いないと言われている。

第7圏ゲリュオン…
今、そこで十天司、9人目が選ばれようとしていた。
さまざまな研究者達が自分の自慢であり、最高傑作の強化人間を連れて集まってくる。
そこにあの男と少女もそこにいた。
二人もここまで深いエリアに入ったのは初めてであった。
それだけ十天司の選考はCHAOSにとって重要なことなのだ。

奥からCHAOSの紋章をつけられた法衣を着た男が現れる。

「それではこれより十天司9人目の選考を行う。
今回のルールはバトルロワイヤルだ。
これよりココにいるも同士で殺しあってもらう。
最後まで残ったものが9人目として選ばれる。」

会場はざわめきに包まれた。

「ふふふ、そういったルールなら実に分かりやすくていい。ウトナ、お前の力を見せてやるといい。」
「うん。わかったよパパ。みんな殺してあげるからね。」

研究者達は自分達の作品を残し見学席へと移動する。

「それでは開始だ。」

法衣の男が声を上げると同時にそこは地獄と化していく。

そこで行われるは無差別の殺戮。

たった一人を決めるために行われる殺戮。

その光景に発狂する研究者達と歓喜する研究者。

狂った空間。


10分後…


数百人いたのが今はほんの数人だけになってしまっていた。

その中にあの幼い少女も残っていた。

「あともう少し!!」

少女はそう叫びながら目の前の敵を討つ。

そして最後に少女と一人の少女が残る。

「これで最後!!」

少女は最後の相手を目掛け血に染まるナイフを突き出す。
しかしまるで手ごたえのない感覚に襲われる。
最後の相手は少女よりも早くその攻撃を回避していた。
少女は改めてその最後の相手を見つめる。
漆黒の瞳と長く美しい髪の少女。
美しくとも妖しい光を放つ長刀。
そして何より彼女だけが血の付いた様子すら無い。

「邪魔…」

首の辺りにすさまじい衝撃が走り少女は倒れこんだ。

「ごめん…パパ。」








少女は目を覚ます。
そこはいつものあの研究所だった。

「私は生きてるの?」

激しい頭痛が襲うものの無理にその身を起こす。
そして愛しい父親の部屋へと向かう。


扉を開くと部屋の中は荒れ果てた状況だった。

「何故だ!!何故だ!!私は完璧だったはずだ!!それなのに!!!」

男は自分の部屋の中で暴れていた。
そして男は少女を見つけると…

「そうか。お前が悪いんだ。お前は失敗作だ。そうだ。そうに違いない。
そうでないと私がこんなことに!!!」

男は狂った目で少女に近寄る。

「パパ。どうしたの?こわいよ。」
「お前が悪いんだよ。お前が欠陥品だから。」

男は少女の首を絞める。

「や、やめてよ…パ、パ…」
「もう、親子ごっこは終わりだよ。この化け物め!!いや悪魔だ!!お前は悪魔だ!!」
「…あ、…く、ま……パ、…パ。」

「ごふっ!!」

男は急に手を離し倒れこんだ。
そしてその腹部には少女の片腕が突き刺さっていた。
少女はゆっくりとその手を引くと男の腹部から勢いよく血があふれ出す。
男はそのまま床に倒れこむ。そして二度と立ち上がることは無かった。


少女は血に染まるその手を見つめる。

「パ…パ…。」

少女の瞳からは生まれて初めての涙がこぼれ落ちる。



涙の落ちた先に一枚の紙があった。
それはあの時戦った少女の情報が記載されたものだった。

「ファーウェル・クロディバル…。こいつのせいで!!」

少女の瞳は悲しみの色から憎しみの色へと変わっていく。


その時、ドアが開き一人の少年が駆け込んでくる。
銀髪の眼鏡をかけた少年。

「く、遅かったか。」

「お前は…あの女の生みの親か…ならば貴様も殺す!!」

少女は少年に襲いかかる。
しかし少年は華麗な身のこなしで攻撃を回避する。

「やめるんじゃ。ウトナ!」
「…ウトナ。私は違う。私は悪魔だ。サティール・ディアブールだ!!」

少女が叫ぶとその背に黒紫色の光の翼が生える。
その翼は妖しく光を放つ。

「信じられん…天使覚醒能力をもっておるのか。」

先ほどとは比べ物にならない速度で襲いかかる少女。

何かが少女を遮る。

「お前は!!ファーウェル・クロディバル!!!」

そこにいるのはあの漆黒の少女だった。

「…大丈夫ですか?」
「お陰様でな。すまないのぅ。…今回は引いたほうが良さそうじゃな。」
「分かりました…。」

少年は袖口から一つの玉を取り出すとそれを地面に叩きつけた。
するとたちまち周囲は煙に包まれた。

「くっ煙幕か!!」

煙幕が止んだ時は二人の姿は無かった。

「いつか必ず殺してやる…ファーウェル・クロディバル!!
アイツだけじゃない。アイツに関わるやつすべてだ!!!」

少女の声が研究所に響きわたった。











キュアンが気がつくとあの扉の前立っていた。

「…今の記憶はまさかサティのか?」
「へ〜良く分かったね〜。」
「…あいつにもあんな過去があったとはな…
だからと言ってパイナ達を殺したことに変わりない。
俺は絶対に許すわけにはいかない!!」

「アイツは結構気にしているみたいだけどね。」
「アイツ?」
「B.K.の事よ。彼、ああ見えて人一倍優しいからね。良い意味でも悪い意味でもね。
だから彼女がああいう状態になったこと今でも少し後悔しているみたい。」
「…」
「ま、本人に前で優しいなんて言ったら絶対に否定するけどね。」
「そうだな。」

突然周囲に鐘の音が鳴り響く。

「なんだ!?いきなり。」
「おっとそろそろ時間みたいだね。」
「時間?」

キュアンは自分の体を見るとなんと透けて見えてきた。

「おいメリア、どうなっているんだ?」
「そろそろアニスちゃんも目を覚ますみたいだからね。」
「半分答えになってないぞ。オイ。」
「それではまたのおこしをお待ちしております〜♪」

メリアは会釈をするとメリアとあの図書館は再び漆黒の闇の中へと消えていった…






次回予告
一つの戦いが終わった。
多くの罪無き命と共に…
そしてアニスとキュアンは新たな誓いと共に旅立つ。
最終話「月へ…」
そして僕達は月へ導かれる…