戻る

第二話 黒き翼 出『陣』




第2方面軍辺境惑星警備隊

「レーダーに反応?ドライブ反応?この方向から?」

オペレーターはレーダーを見つめるたびにその顔色を変えていった。

「指令!!」

ブリッジ内に戦慄が走る。

「なんだあの艦隊は…」
「正体不明の艦隊、更にクロノドライブ。まだ反応は続きます…」
「なんてことだ!!」

中年の指令の口元から煙草がこぼれ落ちた。





トランスバール本星、皇国軍総本部会議室


会議室は重苦しい雰囲気に包まれていた。
ルフト・ヴァイツェン宰相をはじめ軍の閣僚が勢ぞろいしていた。
第一方面軍第二艦隊司令官セーカー・ボストン大将。
第四方面軍第五艦隊司令官ダージリン ・ダクワーズ 元退役中将。
そのほか各方面軍の実力派の司令官の面々である。
これだけの人物が集まるのはそうはない。
とはいえ、緊急の召集のせいかいくつかの席が空席になっていた。

「これが現時点でわかる敵勢力の戦力です。」

薄暗い会議室の中にモニターが表示される。

「わずか半日で第2方面軍の4分の1を制圧か…これでは以前のヴァル・ファスク、いやそれ以上の規模かもしれないな。」

赤い軍服を着た中年の男性は不安気にモニターを見つめた。

「そうですな。セーカー・ボストン大将。」

それに答えたのはダージリン ・ダクワーズ元退役中将であった。

「あいつら、CHAOSとか言ってましたか。こちらに映像を送ってきたとかだな。」
「はい、攻撃する直前に第2方面軍に送った映像があります。今、モニターに出します。」

==
「我々はCHAOS。
我が名はパスティグ・レギオン。十天司の一人である。
我々CHAOSは全ての存在を管理する為の組織なり。
この銀河もまた、例外ではない。
我らの管理下に入るのであれば生存を許可する。
これを拒むのであれば我らは武力を持ってこれを制する意図である。
なお、我らは先遣部隊であり、後続には本隊も控えている。
それを忘れずに検討して頂きたい。
返答は30分後だ。

==

「これがCHAOSか…」
「なんだこれは!これでは単なる侵略者ではないか!!」
「こうなったら総力戦ですかな。こちらの全ての戦力を集中すれば何とかなるかと。」
「しかし、ヴァル・ファスクとの緊張もいまだに解けていない今、両挟みになる可能性も否定できません。
それにまだ本隊が後ろに控えていると。」
「ならばEDENの方には防衛の為の最小限度の戦力を残し、残りをこちらの方に回すというのでどうです?
とにかく今は目の前の敵を討つべきです。」
「今はそれが最善の選択か。」
「ならばこちらの全戦力が整うまでにどれくらいかかるかな?」
「最低でも2週間、いえ、10日で整えます。」
「頼んだぞ。」
「黒き翼にも早々に出撃してもらうとしよう。
そのための組織だと言う話なのだろう?」
「ああ、当然じゃな。あの仮面の男の実力を知るいいチャンスではないか。」






白き月…

そこにはルフト、ノア、ダクワーズ、そしてディアボロスがいた。

「という訳でお前さんらにも出撃命令がでた。」
「ルフトのおっさん。今の話本当か?」
「嘘をついても仕方ないじゃろ?」
「CHAOSの十天司が自らご登場というわけね。」
「ノア、そんな悠長な事言ってられないぜ、これは。
おっさん。天使達を借りていってもいいか?」
「彼女達にも出撃命令は出ておる。だがお前さんの頼みとあればまあいいだろう。
だが、こちらの戦力のこともある。4人だけだぞ。」
「それだけいれば十分だ。」

ディアボロスは会議室を後にした。

「ディアボロス・ドイステルベルグ少将か。あの者は信用して良いのかな?ルフト。」
「あの男の実力は確かじゃ。今までの影の活躍も聞いているだろう?」
「しかし解せないのが、あの男の過去の情報がすべて偽造されていることなのじゃ。」
「ダクワーズ先生。よくそれにお気付きに…」
「このワシを誰だと思っているのだ?あの『白獅子のダクワーズ』はいまだに健在じゃ。
だからこの歳で軍に戻ってきた。
まあ、きっかけをくれたのはあの娘だがな。」
「ファーウェル・クロディバル大将ね。私にとってはあの人こそ本当にわからないわね。
でも、実力は本物ね。それは確かね。
それに、その白獅子さんを手名づけちゃうのだから。」
「ははは、上手いことを言うではないかお嬢ちゃん。」

ノアの頭をかき回すダグワーズであった。

「何するのよ!この老人!」
「ダグワーズ先生。それぐらいに。」
「そうだな。ワシも戦いの準備がある。これ失礼するぞ。」

ダグワーズもまた会議室を後にした。








パスティグ・レギオン旗艦『アンモルバメント』
そこでは一人の男と通信が繋がっていた。

『見事な演説だったわね、レギオン。』
「それほどのことではない。それにコノの姿の維持は疲れる。」

男性はみるみるうちに溶けていき、スライム状の物体へと姿を変える。

『まったく、いつ見ても気味が悪い変身ね。』
「オマエハ、オマエノ仕事ヲコナセ…」
『は〜、分かってるわよ。あなたのその姿だとこっちが話しにくいのよね。』
「我ラハ、コノ姿ガ、本来ノ姿…」
『はいはい、了解よ。サティちゃんも動いているから。もっとあいつらの気を引き付けてね。』
「了解シタ…」

「ゲ・デルデ…アフフィア…」

パスティグは謎の言語を喋るとその体はシステムと一体化していく。
そしてアンモルバメントは動き出した。








第4エンジェルルームにて…

「私達が黒き翼に組み込まれる?」

本を読みながら答えるスカイブルーの髪の少女。

「いいんじゃない?あそこがどんなところか前々から興味があったんだ。」

後ろを振り向くと金髪の大柄の女性が立っていた。

「あ、レモネスの姉御。」
「よ、元気にしてたかい?シーラ。」
「まあ、いつものようになるようになっていますよ。」
「あんたも変わってないね〜で、他に誰が呼ばれたんだい?」

カシャ、カシャ

「?」

なにやらカメラのシャッター音が聞こえその方向を見ると大きな帽子をかぶった子供がいた。

「は〜、まさか、あいつか。」

レモネスは頭に手を当てた。

「みんな〜久しぶりだね〜」
「あれ、姉御はシナモちゃんの事苦手なの?」
「まあね。」

「あ、姉御だ〜」

すかさずシャッターを切るシナモ。

「そのカメラをこっちに向けるんじゃないよ!」
「わ〜怒った〜」

シナモはその小さな体を俊敏に動かしレモネスから巧みに逃げ回る。

「そういえばあと一人は誰なのでしょうか?」

シーラがそう言った時だった。
自動ドアが開き、一人の女性が入ってきた。
その瞬間、空気が凍りついた。

「ご機嫌、いかがであります?」

青色のリボンの茶髪の女性。
どこと無く妖しい感じの気をかもし出していた。

レモネスは案内役の軍人の襟を掴んだ。

「なんでリディア・デリカッセンがここにいるのさ。」
「現在すぐに連絡が届く天使は彼女だったので。
それに能力的にはなんら差し支えないかと。」
「大有りだよ。何だってこんな時に…」

「なにか言いました?レモネスさん?」

「いえ、なんにも。」

(あの距離からよく聞こえたものだよ。全く元スパイってのは怖いわね。)
とレモネス思いながらも苦笑いして答えた。

「ドンマイ。」

その声と同時に肩を叩かれた。
レモネスは後ろを振り向くとそこにはオレンジ色の髪の少女がいた。

「あれ、あんたは確かティファちゃんだったっけ。」
「うん、覚えていてくれていたんだ。よかった〜」
「貴女も呼ばれていたの?」

「いえ、彼女は今回の出撃メンバーには入っていませんが…」
「「え?」」

一斉にティファの方を見る面々。
笑顔で微笑み返すティファ。
沈黙の時間が流れる。

「なんでここにいるんだよ〜!!」

沈黙を破ったのはシナモであった。

「え〜だって、皆が集まるって聞いたから見にきたんだよ。それに私も皆の役立ちたいよ。」
「だけどあんた、シミュレーションで合格点を一度だってとってないじゃないの!」

「別にいいのじゃなく。囮になって丁度いいんじゃないかな?」

ティファはリディアを見つめて…

「リディアさん酷い〜」
「お、問題発言だね〜」

反射的にシャッターを切るシナモ。




ドアが開き、今度はディアボロスが入ってきた。

「ん、なんの騒ぎだ?」

天使達は急に静まり一斉にディアボロスの方を見つめる。
そして一箇所に集まりコソコソ話を始める。

「本当にこの人がドイステルベルグ少将なんですか?」
「怪しい仮面つけてるよ〜。しかも基地の中なのに鎧も着ているし」
「でも、あの鎧の紋章は間違いなく黒き翼のものだよ。」
「いいんじゃないですか?あれはあれでカッコイイですよ〜」
「ティファ。あんた又いい加減の事を。」

「なにコソコソ話しているんだ?」

「いえ、なんでも。」


「まあいい、俺様が黒き翼の総司令官ディアボロス・ドイステルベルグ少将だ。
今後、お前達の指揮をとっていくことになるだろう。よろしく頼むな。」

「私はシーラ。シーラ・マンゴー」

シーラは軽く会釈をする。

「レモネス・フローラルだ。よろしく。」

デォアボロスと握手をするレモネス。

「シナモ・ドルチェルだよ〜」

カメラのシャッターを切るシナモ。

「リディア・デリカッセンでありますわ。」

怪しく微笑むリディア。

「ティファ・ヴァレンシア。指令さん、よろしくね。」

元気の良い笑顔で答えるティファ。











「紋章機の積み込み完了しました。
ならびに旗艦ヴァルムンクを初め、他の黒き翼の艦隊全て出航の準備が整いました。」

オペレーターがディアボロスに報告する。

ディアボロスは周囲の艦隊を見回した。

「こっちの戦力はこのくらいか…初めから辛い戦いになりそうだな。」
「いままで楽な戦いがありましたか?」
「ふっ、そうだな。」
「こちらには紋章機が6機あります。」
「これからの戦い彼女達が戦いの鍵になるだろうな。」
「CHAOSの連中は今どのあたりだ?」
「現在ガロム星系にて現在交戦中です。今のところ何とか食い止めているみたいです。」
「さすがルフトのおっさん。人間の手配は上手いものだな。
だが、相手もあれだけの物量だ。もはや時間の問題だな。」
「そこで少将の出番なのでは?」

「ああ、そうだな。」

「では、そろそろ出航の時間です。」
「おっと、もうそんな時間か。」

ディアボロスは笑み浮かべると…

「黒き翼、出陣だ!!」




次回予告
黒き翼は天使達と共に白き月を出発する。
そして第2方面軍と合流する。
そこでディアボロスはCHAOSに陽動作戦をしかけるのであった。

太陽と月光 第三話 いきなりの陽『動』作戦

続く
戻る