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第七章 クーデター




皇国軍第1方面軍第3艦隊旗艦『フェニックステール』ブリッジ。
黒髪の男、メトロ・N・マイヤーズがタバコを吸っている。
「ふぅ、やっと終ったな」
煙を吐きメトロが呟く。
艦長席の背もたれに寄りかかり、少し身体を伸ばす。
「司令、ブリッジでの喫煙はやめてください」
「いいじゃないか、潜水艦じゃあるまいし」
副長のアリス中佐がメトロを注意した。
しかし、そんなことを一々聞くメトロではない。
彼はブリッジの天井を仰いだ。
モニターになっている天井からは星の光と明けかかった夜が見える。
先ほどまで戦闘があった夜空が嘘のようだ。
「艦長、タバコを吸うなら自室でお願いします」
アリスの強い声。メトロはしぶしぶ腰を上げてブリッジを後にした。


メトロ・N(ノーム)・マイヤーズ。階級は准将。26歳になる。
皇国軍第1方面軍第3艦隊旗艦『フェニックステール』の艦長であり、
皇国最高のロストテクノロジー部隊の一つ『アークフェニックス隊』の司令官だ。
月の天使隊<ムーンエンジェルウィング>と呼称するように、
聖なる不死鳥隊<アークフェニックステール>と呼ばれることもある。
フェニックス隊とはこのフェニックステールそのものを指す。
そして、メトロはその戦隊を任されているエリートなのだ。
艶のある黒い髪は長髪で肩の辺りまでかかっている。
端整な顔立ちで、不釣合いなタバコをくわえたまま廊下を歩く。
彼は軍の名家であるマイヤーズ家の長男であり、またそれに見合った能力を持っていた。
そして、それを生かす場面にも恵まれた。
5年前、彼がまだ入隊して間もない頃、皇子エオニアによるクーデターが発生した。
そのころ新人士官であったメトロは、前線の一部隊を指揮していたのだが、
彼の指揮する部隊はその局地で多大な戦果を上げた。
そのほかにも多くの成果をあげ、皇国最高の戦隊の一つの司令という地位についている。
彼の功績からいえば、階級は見合っていると言うわけではない。
しかし、メトロは階級よりも、何ができるか、を重視していた。
メトロは今の職場を気に入っている。
長い廊下を歩き、司令官室に着く。メトロの部屋だった。
メトロは自分の部屋に入り、椅子に座ると、デスクに上がっている端末から、
先の戦闘のデータを見た。ウィンドウに映像が出る。
「黒い戦艦か…全く面倒なことに……この星の被害もあるし…」
タバコを灰皿に擦り付け火を消す。ふーっと煙を吐く。
「この戦闘機の事もいろいろ聞かないとな…」
メトロは戦闘データの映像で敵を打ち砕く藍色の機体と、
格納庫で待機している藍色の機体のライブ映像を見比べた。


フェニックステールはリディス士官学校から数キロはなれた地点に降り立った。
学校や周りはめちゃくちゃになっている。瓦礫や燃える森林の数々、落ちた戦闘機や戦艦の残骸。
目を覚ました名雪しぐれとスフレ・ランディールは外でそれらを見つめていた。
「…ひどいわね」
「…そうね…」
目を細めて燃え上がる我が校を見つめる。
「……どうしてこんなひどいことをしたんだろう……?」
「……………」
まだ夜が明けていないのに、建物の燃える炎で空が明るかった。
現在、この船の乗組員は学校や付近の救助活動に回っている。
レオンはまだ付近の警戒をして、空を飛んでいる。
聞いた話だと、学校で奇跡的に死者は出ていないようだったが、重軽傷負傷者はかなり多く、
付近の住民にも被害が出ているらしい。
クレア達からは無事だと連絡がきている。
しぐれ達が戦った戦艦は身元が不明で無人機だったらしい。
よって、誰が何のために作り、襲ってきたのかも分からないのだ。
クロノドライヴ反応から、ルートを判別しようとしたが無駄だった。
「これから、どうなるのかな?」
「…わからないわ。…でも」
スフレが答える。無表情な彼女の顔はいつもよりも悲しそうに見えた。
「でも?」
「…私達が、戦わなければならないかもしれないわね…」
「……そっか」
「とにかく、上からの連絡が来ないとこの船も動けないでしょうし…しばらくは様子見でしょうね…」
そう言うと、スフレは大きく欠伸をした。きっと寝ていないのだろう。
しぐれは戦闘後すぐに意識を失っていたから平気だが、彼女はしぐれをずっと診ていたのだ。
「…少し休みましょう?」
「いいえ。医務室は避難民で一杯だし、その他の部屋も埋まってるわ…」
しぐれ達も被害者ではあるのだが、優先すべきは怪我人である。
輸送船が近づいてくるのが見えた。きっと新たな避難民が来たのだろう。
「これで最後かしら」
輸送船が着陸し、中から降りてきた士官が人々を避難所へ誘導する。
「あ…」
避難する人々の中に花梨や整備班の面々、クレアとウェンの姿を見つけた。
「行ってみましょうか」
しぐれとスフレは避難所へと向かった。



「校長、確認取れました。フェニックステールにいる生徒も含めて、全員います」
「うむ、ご苦労だった」
リディス士官学校の校長である。
「それから…フェニックステールのメトロ指令が面会したいと言っているのですが」
校長は少し間を置いて。
「ふむ…わかった。だが、もう少し時間をくれ」
「いや、もう来てますよ」
メトロ・N・マイヤーズは校長の後ろにスッと立っていた。
思わず仰け反る校長。
「うお!?い、いつのまに!?」
「いや、さっきから。それより、話したいことがあるんだが、問題ないかい?」
メトロは何事も無かったかのように話を切り出す。
「…何かね」
「あなたのところの生徒を貸してくれませんかね」
「何!?」
校長は心底驚いた顔をしていた。
「いや、たぶん生きて返しますから」
「な、何を言ってるんですか!彼らはまだ生徒ですよ!!」
校長は溢れんばかりの感情を素に出して叫んだ。
普通の人だったら気迫に圧倒されたかもしれないが、
生憎、彼はマイヤーズ家の人間―――何処か変わった性格―――だった。
よって、校長の年期の入った説教ボイスも涼しげに、
「しかし、軍人だ。そうだろう?」
「……!」
「遅かれ速かれ軍に属するんです。軍属になると覚悟を決めた時点でもう決まってる」
「…だが、今回の原因の追求もまだなのに、そんなことを…」
校長がそう言うと、メトロは頭をかいて、
「…さっき、連絡があったんですけど、他の星でも同じような事があったらしいですよ」
「!!!」
「おそらく…大規模な『戦争』になるでしょうね」
「…だから、人手が欲しい。と?」
「そういうことです」
メトロは昇る朝日を背にしながら呟く。

「ま、何事も無いのが一番なんですけどね」

彼の言葉はそう言った。
しかし、彼の言葉に反して銀河は戦乱へと巻き込まれているのを、まだ誰も知らなかった。



避難所では多くの人が休んでいた。
しかし、そのほとんどが既に疲労困憊の状態だった。
無理も無い。士官学校生は昨日のために準備をし、徹夜な時もあった。
しかも、襲撃があったのは夜だったから、寝ている人も叩き起こされたのだ。
これで元気なはずが無い。
しぐれ達は人だかりの中からクレアたちをすぐに見つけた。
「あ、しぐれ、スフレー!」
クレアが手を振っているのが見える。
近づくと、即興の診察所があり、怪我人や具合の悪い人が休んでいた。
「こらこら、あまり大きな声を出さない」
「うーい」
軍医兼保険医の李文(リ・ウェン)が諭す。
「先生!無事だったんですね!!」
しぐれが再会を喜ぶ。スフレも挨拶程度に手を上げた。
「こらこら、君等も騒がない。あんまりうるさいとエロい事しますよ?」
「絶対に、騒ぎませんっ」
ウェンから身を離しきっぱりといった。
「それから、悪いけど後できてもらえるかな。今はまだ患者が大勢いてさ。
 ゆっくり話せそうに無いんだ。あ、クレアもだからね」
忍び足でしぐれの後ろに隠れるクレアがビクッと反応する。
しぐれの影からゆっくり出てくる。しぐれはオロオロするばかり。
「だってぇ…私昨日から寝てないよぉ〜」
「さっき寝てたじゃん、へそ出して」
「あぁー!!ウェンのバカー!人の寝てるところ見るなって言ったじゃん!!」
クレアがいきり立って大声を出すと、
「しーーっ!!」
全員が指を立ててクレアを諭す。
「…はい」
クレアはガックリと肩を落とす。
「君は俺の優秀な助手なんだから、勝手にどっか行ってもらっちゃ困るんだよ。
 人手は多いに越したことはないし、君はナノマシン使いだろ?」
「う〜…分かったよ。生きれる人を見放すなんてできないしね」
クレアは怪盗だった。何度も捕まりかけた事もあるし、恨みも買っている。
だから、殺されかける事も多々あった。生死の境をさまよった事もある。
その苦しみを知っているのだ。
「よっし!私がみんなを助けるよっ!」
「…がんばってね」
スフレがクレアの頭を撫でる。
「頑張るのはいいが、騒ぐなよ」
男性の声だ。しかし、ウェンの声ではない。
「あ、レオン!」
「ああ。…こっちも頑張っているみたいだな」
レオンはきょろきょろと辺りを見回して言った。
「レオン君は、警備交代したの?」
「他の区の軍が来たから警戒態勢を解くってさ。多分、ここの避難者も、
 そこの船で運ばれると思う。まぁ、しばらくはここで回復を取るだろうけど」
そういえば、さっきフェニックステール以外の船が着陸していた。
きっと軍のものだったのだろう。
「私達は…どうなるのかな?」
「…分からない。しかし、俺達の機体を見たからな。戦力に加えようとするかもしれない」
「戦力って…戦いはもう終ったんじゃないの?」
しぐれはレオンに問い掛けた。先ほどの敵は全てレオン達とフェニックステールが撃破したと聞いている。
「ああ。…だが、どうも他の星でも同じような事が起きているらしい」
「そんな…」
しぐれの顔が青ざめた。あんなに強い敵が他のところを襲っていたら…
紋章機クラスの戦闘機やフェニックステールがいたからここは助かったが、
他の場所ではひとたまりも無いではないか。
もしかしたら、自分の故郷や前に通っていた学校が襲われていたらと思うと心配になった。
「新手のテロかしら…」
「かも知れないな…」
未知の敵について語っていると、見慣れた顔が近づいてきた。
花梨・如月・フォーエンハイム。白き月から派遣されている月の巫女で、班長だ。
「みんな〜、無事だったんやね〜」
「花梨さんも無事だったんですね」
「うんっ!整備班の子と、月の巫女の子は皆無事やったよ」
彼女の言葉に暖かさを感じるのは声質だけではなく、方言のせいもあるからだろう。
「あのね、さっき校長先生と話してた人がしぐれちゃん達を呼んでたけ、捜してたんよ」
「校長先生と、話してた人?誰?」
「さぁ?そこまでは知らんけど…黒髪で長髪の、結構かっこいい軍人さんやったねぇ…」
しぐれ達に心当たりは…あった。
「あぁ、フェニックステールの司令の…」
「マイヤーズ司令ね…」



「よし、来たみたいだな」
メトロがしぐれ達を見て言う。ここが外なのは彼がタバコを吸えないから、だそうだ。
「お話とはなんでしょうか?」
レオンが敬語で話す。上官に対しては当然のことだろう。
「ああ。単刀直入に言うと、君等にフェニックステールに来てもらう」
「…なるほど、そういうことですか」
先ほど話していたことが現実になったようだ。
「えっと…それは命令ですか?」
「そうだ。何か不服でも……あるよな、そりゃ」
「えと…」
しぐれは居心地が悪そうに頬をかいた。
「だが、今は非常事態だ。まだ公にはされていないが…恐らく戦争になるだろうな」
「戦争っ!?」
三人は驚いた表情でメトロを見つめた。
「ああ。まだ首謀者は分からないが…これだけ大規模な攻撃、そして戦力。紛争と呼べるレベルじゃないよ」
メトロが乾いた笑いをこぼす。
「待ってください。事情はわかります。自分達が使っている機体が戦力になると言うことも。
 ですが、彼女は元々軍人ではありません」
レオンがしぐれのことを言った。
「経緯はさっき調べさせてもらったよ。君が名雪しぐれ君だね。
 惑星エスナで発見したLT兵器、ヴェールスノーのテストパイロット。
 元々は月の巫女を志望していて、その成績は優秀。パイロットとしても悪くは無し、と」
しぐれの簡単な経緯を言い上げる。
「確かに、君は軍人ではなかった。だが、今は士官生だ。
 しかし…だからと言って覚悟の無い者を連れて行くのはこちらとしても迷惑だ。
 よって、君に選択する権利を与えよう」
メトロは二本指を立てて言った。
「機体を置いてこのまま避難者と一緒に行くか、それとも軍に残りあの機体と彼らと共に戦うか、選んでくれ」
「!!」
突きつけられた二つの道。どちらか一方しか選ぶことはできない。
「ヴェールスノーはしぐれでないと操縦できないはずだ」
「エクレアリル・テトラネスに適性があるのだろう?こっちの情報網を見くびらないでほしいな」
「……!」
確かに彼女ならヴェールスノーを起動することができるはずだ。
だからといって戦力になるとは思えないが、訓練をつめばなんとかなるだろう。
「本来なら彼女は極刑だ。だが、彼女も予備のパイロットとして起用することで我々も刑罰を免除した。
 彼女も来てもらうことが決まっている。衛生兵としてもな」
「そんな……!」
しぐれはむっとメトロを見つめ返す。
「むしろ感謝して欲しいくらいだがね。命あってのものだねだし。ここよりも給料はいいよ?」
「それは…」
「とにかく、選ぶことだ。ま、こちらとしては人手が大いに越したことは無いんだよ」
そう言うと、さっきまで外していたタバコを再びふかし、去っていった。
「行くか、行かないか……か…」
「しぐれ…」
「…少し、一人で考えさせて…」
そう言うとしぐれもそこから去っていった。



「戦わなくっちゃいけないんだって」
しぐれは一人、格納庫のヴェールスノーに語りかけていた。
はたから見れば変な人であったが、今は周りに誰もいない。
「私が戦わなければ…あなたともお別れだって」
ヴェールスノーは何も答えない。何も語らない。
「でも、あなたは戦わないといけないみたい…私が乗らなかったら、クレアちゃんが乗るのよ」
ヴェールスノーはただ、黙っているだけだった。
「私は、どうしたらいいのかな…」
そんな時だった。
「しぐれちゃん?」
花梨・如月・フォーエンハイムだ。彼女が現れたのだ。
薄茶色の狐耳としっぽを揺らしながら近づいてくる。
「どうかしたの?」
「うん…私、戦うか戦わないか選べって言われて…」
しぐれは愛想笑いを浮かべて返事した。
「そっか……私達はこの子達の世話があるけ、行かなきゃいかんよ」
「…それじゃあ、私が整備を手伝うのは今日で最後かもしれないんですね…」
花梨はヴェールスノーのハッチを開いてシステムを起動させる。
横ではしぐれが操作の手伝いをする。
「それじゃあ、しぐれちゃんの戦闘データのバックアップ取るけ、手伝って」
「はい」
花梨はヴェールスノーのキーボードを引き出してデータを他のコンピューターに移す。
彼女は現役月の巫女で、白き月で世話になっているクレータから引き継いで機体の管理をやっている。
濃い茶色の髪はセミロングよりも短めに整えられ、青いリボンで結われている。
彼女は獣人族(ライカン)で狐の耳と尻尾を持つのだ。
髪の隙間から出ている狐の耳と、腰の尻尾はフサフサで触ると気持ちよく、たまに触らせてもらっていた。
目の前でフリフリと揺れる尻尾の向こうには、今までのしぐれの戦闘データが映っていた。
―――ヴェールスノーとの出会い。海賊との戦い。
―――スフレとの模擬戦。海賊との再会。
―――クレアに強奪された紋章機の追撃。そして、前回の黒い敵との戦闘。
戦うたびにお互いを分かり、戦うたびにしぐれとヴェールスノーは成長していったのだ。
苦手だった機械もヴェールスノーに乗り整備を手伝うことで苦手ではなくなっていき、
以前はソフト面だけしか扱えなかったが、今はハードも理解し扱えるようになった。
ヴェールスノーのオペレーションシステムが成長していく度に嬉しくなったものだ。
(…そうよ、この子はただの戦闘機じゃない。大切なパートナーだわ…)
しぐれは誰よりもこの機体を愛していたのだ。
フィールドを多用するのは怖いからではなく、機体を傷つけたくないからだ。
そうだ。思い出した。自分があの日、この機体と立てた誓いを。
「…よし、バックアップ完了…やね。…しぐれちゃん、心は決まった?」
しぐれの心を見透かしたように花梨が言う。
「…花梨さん、もしかしてわざと整備手伝わせました?」
「さぁ、どうでしょうー?」
花梨は悪戯っぽい笑みを浮かべて尻尾を振った。
彼女が喜んでいる時の癖だった。

あの日、この機体と立てた誓い。
ロストテクノロジーを守ること。月の巫女になること。シャトヤーン様に近づけるよう努力すること。
―――――いっしょに、強くなること。




「大型戦闘機、三機、搬入完了しました。これで搬入する物資は全てです」
格納庫の作業員が言う。
「了解。ご苦労様。休んでいいよ」
「はっ。それでは」
通信が途切れる。
ブリッジのメトロだった。
「よし、全艦に通達。これより本艦は発進する!」
オペレータが復唱し全艦に流される。その指示を聞き、操舵士が艦を発進させる。
「さて、これで準備完了だな。パイロットも無事乗艦したし」
「しかし、司令。これがのんびりしてられる状況ですか?」
アリスが言った。
彼女の言う状況―――皇国本星が敵の手に落ちたと言うことだろう。
先ほど来たデータに書かれていた情報だった。
白き月も攻められていると聞く。
妹が白き月にいるレオンは気が気でないようだった。
「そうこうしてるうちに、出てきなすった。敵の大将さんが」
メトロがメインスクリーンに星間ネットの映像を出す。
褐色の肌。金色の髪。スクリーンの中には一人の青年が映っていた。
「これは…エオニア・トランスバール皇子っ!?」
「敵さんの親玉だ。俺達の戦う相手さ」
「司令…ネット見てたと思ったら、これが来るのを待ってたんですか?」
「そろそろ来ると思ってな。さ、始まるぞ」
映像のエオニアが口を開いた。
「―――愛すべき臣民達よ。私はエオニア・トランスバール。トランスバール皇国、第十四代皇王である」



しぐれ達もその放送を見ていた。
「…これが俺達の戦う敵だ」
「…エオニア……久しぶりに見たわね」
スフレはエオニアと面識がある。映像の中のエオニアは静かに語る。
「―――私は王位簒奪者である反逆者ジェラールと腐敗しきった貴族諸侯に鉄槌をくだし、
 皇国の正統を回復させた。ジェラールとその側近は、月の聖母シャトヤーンを幽閉し、
 白き月を従属せしめ、ロストテクノロジーを独占しようと謀っていた。
 これはトランスバール皇国建国の理念を踏みにじる大罪である……」
しぐれとしては、彼の意見は最もだと思った。
シャトヤーンは仕事の時以外は外に出ることは許されていない。
ロストテクノロジーも一部のみが一般に広がり、それ以外はごく一部の者にしか使うことが許されていない。
しかし、だからと言って戦争をしてもいいはずないのだ。
「―――――新しき”正統トランスバール皇国”の一員として、私と共に星の彼方に栄光を掴もうではないか!」
演説はそこで終った。
「確かに…彼のいうことはもっともだわ…私もジェラール閣下がしてきたことが正しいとは思えない。
 でも、彼がやっている事も、正しいことだとは思えないわ!」
しぐれは珍しくいきりたっていた。
(これからどうなるか分からないけど…私は戦う!ヴェールスノーと、皆と一緒に!!シャトヤーン様を助けるために!!)
深い藍色の瞳が遠く銀河へと向かう。
赤い尾を靡かせながら、フェニックステールは漆黒の銀河へと羽ばたいた。

続く
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