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第八章 金色の悪魔




赤い戦艦のブリーフィングルーム。
リディス士官学校の生徒であった者達が整列している。
「というわけで、君らはこの船の乗組員となったわけだ。
 あの学校での先鋭ばかりだ。活躍には期待しているぞ」
黒髪の男、この部隊の司令メトロが言う。
「特に、パイロットの君らには頑張ってもらわないとな」
「はっ!」
レオン達は胸を張って敬礼する。
「では、これにて解散。各員、持ち場につくように」
「了解!」
それぞれが自分達の持ち場につく。
そうそう、とメトロがしぐれ達を引き止めた。
「名雪伍長、花梨軍曹が呼んでいたから格納庫に行ってくれ」
「あ、はい」
まだなれない呼ばれ方に戸惑いながらも返事する。
しぐれの今の階級は伍長扱いである。
まぁ、新米の彼女には当然と言えば当然ではあるが、
レオンとスフレは少尉であり、貴族階級の違いを見せ付けられた。
しぐれはスフレと花梨と機体の整備をする約束を思い出していた。
「それと、レオン少尉。現在我が艦隊には戦闘機の部隊が他に無い。
 よって作戦行動時の現場の指揮は君に任せる」
「自分が…ですか?」
「何度も言わせるなよ。基本的な作戦やフォーメーションの資料は資料庫にあるから使っていいぞ」
言うだけ言うとメトロは司令室に戻っていった。
「……がんばってね、レオン隊長……♪」
スフレが楽しげに言った。


「花梨さん、来ましたよー」
「……こんにちは……」
しぐれ達がヴェールスノーのコクピットに顔をのぞかせる。
「あ、来た来た。それじゃはじめようか」
借りんが返事して先ほどまで座っていた座席をしぐれに譲る。
「でも、大丈夫なんですか?機体の設定を勝手に変えちゃって…おまけにOSまで書き換えようなんて…」
「いいんよ。バックアップはとったし、この機体はしぐれちゃんが使うけ、問題ないよ」
花梨がしぐれ達を呼んだのは機体の設定の変更と、OSの書き換えによる最適化の為だった。
スフレやレオンと違い、しぐれはあくまでテストパイロットであり、
この機体のデータを集めることが仕事だったのだ。
レオンやスフレも機体のデータを集める目的もあるが、それは戦うために必要なものであり、
自分に最適な設定をするために必要なデータである。
その為、ゴーストレイヴンとシャドウディスパーは既に最適な設定にしてあるのだ。
しかし、本格的に戦闘になるのであれば、しぐれとヴェールスノーも最高の状態にしておかなければいけない。
今までは、色々な設定を試し、その結果を記録していたのだが、その記録が役に立ちそうだった。
さらに、OSを最適化することによって機体の誤差やしぐれにかかる負担を少しでも減らそうともしている。
紋章機のOSは皇国のものを使っているが、根底のシステムはEDENの言語プログラムで書かれている為、
そっちの専門である月の巫女や、しぐれ以外には理解できない。
こればっかりはスフレも専門外だった。花梨もハード面を担当するため得意ではない。
「それじゃ、花梨さんは設定を考えておいてくださいね」
しぐれとスフレがOSの書き換えを行なっている間、花梨は機体の設定を決める。
照準、回避プログラムのパターン、リンク率、エネルギーの変換率、
敵機のロックオン優先順、ジェネレータの出力設定など…
過去のデータからしぐれとヴェールスノーを補うものを選別していくのだ。
「それじゃ、始めましょうか」
しぐれは張り切ってキーボードを打ち出した。



フェニックステールが惑星リディスを出てから5日。
現在フェニックステールはローム星系へと向かっているらしい。
ようやくヴェールスノーのシステム完成度が70%を超えた。
設定の方は既に終了している。もっとも、これは試してみないと分からないが。
「今日のところはお終いにしましょう。ふわぁぁ…ねむ…」
しぐれが大きなあくびをする。
宇宙標準時間も既に午前1時を回っていた。
「それじゃあ、花梨さん、お休みなさい」
「……お休み……」
しぐれとスフレが挨拶をすると、花梨も手を振って分かれた。
長い廊下を高速エレベータを使って移動し、住居スペースへと移る。
この船はかなり広いため、艦内の移動はこれを使うのだ。
そして、住居スペースの一室――しぐれ達の部屋についた。
しぐれとスフレは今回も同部屋である。
二人とも部屋に入ると、シャワーを浴びに行く。
コックをひねると熱い水が流れ出す。
「ふぅ〜…癒されるわね〜…」
「そうね…」
気の無いようで、実はとても気持ちよさそうに返事するスフレ。
彼女も風呂は好きなのだ。
シャワーを浴び終えると寝巻きに着替え、備え付けのベッドにダイブする。
ちなみに、しぐれは寝巻きと書いたように和服で、スフレはネグリジェである。
「疲れたわぁ〜…」
「……ええ……」
横になるだけで睡魔が襲ってくる。布団に入ってる時間が一番幸せに思えるのはしぐれ達だけではないはずだ。
しぐれは電気を消す。
「お休み、スフレちゃん」
「……お休み……」
ゆっくりと瞳を閉じて、眠りに付こうとする。
意識が少しずつ薄れていき、彼女達を眠らせる。



――はずだった。


突如鳴り響く警報!
「ふ、ふぇええ!!?な、何!!?」
アラームにたたき起こされるしぐれとスフレ。すると通信機からレオンの声がする。
「――スフレ、名雪、聞こえるか?敵だ!!」
今度は艦内スピーカーからメトロの声。
「――進路上に敵が現れた。例のエオニア軍だ。全艦、第二戦闘配備へ移行し、パイロットは待機してくれ」
警告アラームが鳴り響く。
「……マジなの?」
「……マジね……」
睡眠時間の不足はお肌の天敵なのに……


格納庫へ行くと、ゴーストレイヴンは既に出撃していた。
シャドウディスパーも発進準備が進行されている、が。
ヴェールスノーについている整備班が少ない。
しぐれは整備班に近づいて尋ねる。
「あの、ヴェールスノーの整備は終わったんですか?」
「いや、この機体は今回出撃できん。システム完成度が70%なんだろ?」
「あ……!」
迂闊だった。しかし、仕方なかったのだ。
本来、システムを作成してからコンピュータにインストールするのが普通であるが、
紋章機のコンピュータは根底から構造が異なるためそれが出来ない。
システムを直接作り出すか、書き換えるしかないのだ。
「スフレ・ランディール、発進するわ……」
しぐれが固まっているうちに、シャドウディスパーが発進する。
発進用カタパルトへと移送されていく。
「私も出ないと……!」
「でしたら、後のシルス級を使ってください!今のヴェールスノーじゃ危険すぎます!!」
整備班の男はヴェールスノーの後ろに並んでいる白い機体を指した。
皇国のシルス級高速戦闘機は本来ホワイトのカラーリングなのである。
「……」
シルス級戦闘機に近づこうとする。
と見せかけて、しぐれは整備班をすり抜け、ヴェールスノーに飛び乗った。
「なっ!名雪伍長!!」
整備班達の叫びを無視して機体を起動する。
「……大丈夫。基本的な操作はできるはず……」
システムを起動させたとき、外から花梨が現れる。
「しぐれちゃん!待って!!戦ったらイカンよ!!」
「止めないで!行かなきゃ!!」
「だったら、せめて前のデータで……!」
「時間が無いわ!このまま行きます!!発進を!」
発進を催促するが、機体を動かそうとしない。
「……だったら!……えいっ!!」
機体を固定するアームを強制解除し、整備スペースをゆっくりと抜け出す。
「い、イカンよ!!」
花梨の叫びも空しく、しぐれは突き進む。
「カタパルトへ上げて!出ないと格納庫を打ち抜くわよ!」
それを聞いて仕方なくカタパルトへのエレベータが作動する。
反重力式レールカタパルトの発進位置に来るが、さすがにこれまでは使わせてくれないらしい。
しぐれはそのまま機体を発進させた。


「ヴェールスノー、発進しました!どうします?」
ブリッジのアリス中佐が言う。メトロはさして気にもとめず、
「まぁ、いいんじゃないか?やって出来ないことは無いだろう。
 って、あちゃ〜…あんなフラフラした飛行で大丈夫かねぇ……」
バランサーの設定が完全でないのか、ヴェールスノーは安定しない。
「とりあえず接近する敵は名雪伍長とランディール少尉に対応してもらおう。
 道はゴーストレイヴンが開くから、俺たちはその後に続け」
「了解」


「はぁぁぁぁぁ!!」
レオンの咆哮と共に敵機が爆発する。
敵は予想以上に強い。しかし、レオンは苦戦していなかった。
シャドウディスパーは後方支援だ。
現在、フェニックステールは隕石群の間の細い空間を航行している。
そのため、出口は無かった。クロノドライヴも危険である。
(強いな……しかしなんだ…この感覚は…)
レオンは異様な感覚を覚えていた。
確かに、ゴーストレイヴンは強い。いや、強すぎる。
もう既に20機を軽く落としている。出来すぎだ。
そして、リンク率が上がるにつれ、違和感も強くなっていく。
まるで、殺気立っているような…機体そのものが破壊を望んでいるような…
そんな、感覚を覚えた。
そう言えば、白き月はどうなったのだろう?
妹は――――ティコは無事だろうか。
そう、レオンが気を緩めた瞬間、悪意が彼の中へ入り込んだ。
「!!!!!!!!」
体が制御できない。頭がぼんやりする。
しかし、機体はさらに素早く、さらに鋭い一撃を敵へと浴びせる。
それでいて敵からの攻撃は一切当たらない。
レオンの頭の中に声が聞こえたような気がした。


――殺セ…

(誰だ…?)

――殺セ……全テヲ破壊シロ……

(誰だ……!?)

――殺セ……全テヲ…壊セ

「ぐっ!!!」
強い衝撃が機体に迫り、コントロールを取り戻す。
(集中……するんだ……!)
レオンは唇をかみ締めた。


後方ではスフレが敵を迎撃していた。
接近する敵に狙いを定め、射程に入る前に撃つ。
フェニックステールの戦闘力もあり、ほとんど無傷で倒していた。
「スフレちゃん!」
ヴェールスノー。しぐれが発進したのだ。
「……なぜ、その機体できたの?システムは完成していないはずよ。今すぐ戻りなさい」
いつもより強い口調でスフレが言う。
「だめよ、私も…って、クロノドライヴ反応!?」
敵機が現れる。結構な数だ。
「な、ちょっと待って!!!?」
待たない。敵は一斉に砲をフェニックステールへと向け、
発射――――――いや、爆散した。
「…え?」
敵は他の攻撃を受けたのだ。一体何処から、誰が?
攻撃をした地点を見る。
そこには真紅の戦闘機の銃口から硝煙が放たれているのが見えた。
「なっ…か、海賊!!?」
「え…あ、あんた!?こいつ、また士官学校生!!?」
海賊少女――プリュレ・トリスティアだった。
それでは、エオニア軍と戦っていたのは……海賊だったのだ。


「!!司令、新たな機影を確認。この識別コードは海賊――ブルーコスモスのものです!!」
オペレータが報告する。
「司令!!これ…!」
しぐれが通信を入れてくる。
「わかっている。ブルーコスモスか…!」
フェニックステールが本来戦うべき相手だ。
「俺達の敵が来たか……さて、どうしたものか」
「ヴェールスノー、敵戦闘機と交戦開始。シャドウディスパーも敵戦闘機と交戦中」
アクアバードがシャドウディスパーを狙う。長距離用の機体であるスフレの機体は、
接近戦にはむかない。戦闘機の相手は苦手である。
警報アラームが鳴る。攻撃がきたのだ。
「ブルーコスモス旗艦より、ミサイル接近!」
「回避!取り舵だ!」
取り舵とは機首を左へ向ける舵の取り方である。
右から迫るミサイル郡をフェニックステールは回避し、反撃する。
「紋章機は戻せるか?」
「ダメです、戦闘機と交戦中」
「ふむ、このままだと囲まれるな……よし、主砲発射用意だ。前方の道を開く!」
メトロの指示に従い主砲の発射準備が進む。
ブルーコスモスの旗艦――スター・オーシャンからビームが放たれる。
フェニックステールは高い機動性でそれをかわす。
「ワザと外したな、今の」
「? 何故そんなことを?」
「敵は戦力が少ないからな。俺たちに便乗して逃げ出すつもりなんだろう」
そうしてるうちに、主砲のチャージが終わる。
「よし…主砲発射!出口付近に来たら気をつけろ。撃ってくるぞ!」
メトロの言葉は本物だった。主砲のレーザーキャノンを発射してすぐに、
大型のミサイルが向かってくる。それをレーザー機銃で打ち落とした。
さらに接近し、その攻撃は激しくなる。
「敵の艦長は肝が座ってるな。この艦とやりあおうなんて」
「ですが、敵の艦は防御性能に優れています。ナノスキン装甲は厄介ですよ」
「わかってるさ。倒せるとは思っていない。少なくと今は、な。敵もそうだろう。
 本気で打ち落とそうとはしないさ。あっちもエオニア軍とは敵みたいだからな」
メトロはそう言って椅子にもたれる。
現況を維持しつづければいずれ脱出できる。
戦力的にも問題ない。そうでなければ既にやられているだろう。
しかし、スター・オーシャンの艦長、星海蒼奈は今この時を引き裂いた。
「司令!後方から熱源接近!」
「なっ!?…っファランクス1番翼・2番翼、スタンバイ!整い次第迎撃!!」
多数のミサイルがフェニックステールを襲う。
それを打ち落とすべく、後方に伸びた翼に収納されたファランクス発射機構が起動する。
そして、光を帯びて次々にミサイルへと向かって飛び放たれていく。
ほとんどを打ち落とすも、その間を抜けてくるミサイルによってフェニックステールはダメージを受けた。
「くぅぅぅう!!損傷報告!」
「左舷エンジンに損傷!軽微…ですが、出力が大幅に低下!!」
「サブエンジンの出力を上げて、補助に使え!速度を上げて、海賊との距離を15000まで取れ!
 ……敵の艦長は、本当に肝の据わった奴みたいだな。顔を見て見たいもんだよ!全く!!」
メトロは悪態をついてタバコを吹かした。



「なんで、あんたがここに!」
「それはこっちのセリフよ!」
パイレーツコメットのガトリングをしぐれが防ぐ。
「エオニア軍も、あなた達にも負けない!!」
「二度ならず三度までも私達の邪魔をする気!?だったら、この前みたいになるだけよ!!!」
プリュレの機体が一気にしぐれを襲う!!
ガトリング砲の嵐と隙を突いたビーム攻撃。さらにコメットファランクスの追撃。
しかし、しぐれはこれをかわした。前にしぐれなら絶対にかわせないであろう攻撃を。
「な…避けられた!?」
「あれっ……?機体のバランスが!?」
しぐれの機体は姿勢を保てず、慣性でグルグルと側転する。
「バランサーがいかれてるの?一体何処までやれるかしらね!!」
「それでもっ……!そう簡単には、負けないからっ!!」
しぐれはおぼつかない動きではあるが、確実に敵の動きを見切り、反撃する。
「当たって!!」
12連の自動追尾型ファランクスが赤い機体を襲うが、それらは一つも命中しない。
「狙いはいい!けど、セオリーどおりなのよっ!!」
ミサイルとビームがヴェールスノーを襲う。フィールドが起動し、その攻撃から身を守った。
「ったく!なんてフィールドなのよ!!効きやしないじゃない!!」
プリュレが愚痴をこぼすと、横から強い衝撃が機体を襲った。
「きゃっ!!…く、灰色の奴か!」
「しぐれ、いったん退いて。ここは私が……!?」
スフレは後方のフェニックステールに接近する敵を察知した。
「スフレちゃんは行って!私が相手をするわ!!」
スフレはしょうがなく、機体を反転させ母艦へと向かう。
「言ってくれるじゃない!あんたに私を倒せると思ってんの!?」
以前より強力なレーザーがしぐれ機を攻撃した。
上手くかわせず、強力なフィールドすらも貫通し、外装を傷つけていく。
機体の推進方向が上手く定まらない。エネルギーも余計に消費してしまう。
「くぅ…!それでも、負けない!!」
「落ちなさいってのよ!!」
朱と藍。二人の天使が激突する。



二人の天使の戦闘に、H.O.R.N.が反応した。
H.O.R.N.――ゴーストレイヴンのリンクシステムである。
再びレオンの意識を奪おうとする。意識とは裏腹に、近づく敵は全て薙ぎ払われていく。


――殺セ…破壊……

(誰だ…さっきから?)

――殺セ……全テヲ破壊シロ……
――殺セ……全テヲ…壊セ………殺セ…天使ヲ……

(天……使……だと…?)

朦朧とする視界の中に、ヴェールスノーが現れた。ロックオンされ、トリガーを――――



「っ!!止めろ!!!」
攻撃はヴェールスノーにも、パイレーツコメットからも外れた。
「レオン君!」
「また新しい機体!?しかも、金ピカ!!?」


――殺セ!天使ヲ殺セ!!

「五月蝿い!!黙れ!!!」


ゴーストレイヴンのリンクシステム――H.O.R.N.が輝きを増す。
それは悪魔のものを模した、黒い光の角である。
「名雪!下がれ!!そいつは俺が相手をする!!」
しぐれとプリュレを割って入り、一気に接近して一撃。敵のミサイル発射口を破壊する。
「コイツ…!これならどう!?」
コメットファランクスの発射口が一斉に輝いた。
「コメットシャワー!!」
光の束が雨霰とレオンへ襲う。広範囲に広がった光は、囲むようにして黒い機体へと迫る。
しかし、ゴーストレイヴンはそれを難なくかわし、リボルバーキャノンを切り裂いた。
側面のスラスターを吹かし、旋回し、バルカンによる攻撃を放つ。さらにレーザーキャノンの追撃。
擬装用の外装をはがし、その機体のボディが露出する。
「くっ…!蒼奈姉、ミーティア射出して!!フェイクアーマーは解除するわ!!」
スター・オーシャンからパーツが射出される。
パイレーツコメットは装甲をパージすると、新たな装甲へと袖を通すように装着した。
「あの機体、戦闘中に武装を変えれるのか!?」
敵はパーツを完全に装着し、機体色を蒼に染める。
そして、高い機動性を生かして一気に接近してきた。
「うわ!!!」
バルカンによる攻撃。さらに自動追尾型ファランクス。
どうやら接近戦使用に武装を換えたようだ。機動力、運動性能も上がっている。
レオンの機体は偽装装甲を元々装備していない。しかし、フェイクアーマーを外したミーティアなら、互角に戦えた。
「金色め!!これでもくらいなさい!」
レーザーブレードを展開する。レオンもビームソードをアームにセットし、光の剣を形成する。
「はぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
天使と悪魔がぶつかり合っていた。光を放つ剣と剣。
大きな爆発を生み、二機は離れる。
「はぁ…はぁ…コイツ……まるで、悪魔ね…」
「クソ…!なんてパワーだ…!!」
スピードもパワーもある。ゴーストレイヴンにも負けていない。パイロットの腕前も一級だ。
「レオン君…!」
「名雪…?」
しぐれはレオンへ近づき援護する。
「私が、囮になるわ!動きを止めるから、その隙に!!」
「そんなことができるのか?」
しぐれは無言でうなづいた。
「…よし、分かった。行くぞ!!」
ヴェールスノーがパイレーツミーティアへと近づく。
「また、あんたが相手!?返り討ちよ!!」
「やぁぁぁ!」
しぐれのレーザーやビームをかわし、後へとつく。バルカンとミサイルの突風。
「まだよっ!」
一瞬、全ての推力を反転させて、動きを止める。そして敵機の後ろについて攻撃を吐き出す。
追いかけてはかわし、また追いかけ、追いかけられる。
戦闘機のその姿は犬のケンカに似ていることから――ドッグファイトと呼ばれるのだ。
「いい加減に、しなさい!!!」
敵のエネルギーが一点に集中する。おそらく一撃で決めてくる気だ。
しぐれも負けじと、フィールドにエネルギーをまわす。
「フィールドなんか無意味よ!この攻撃の前ではね!」
スラスターをいっぱいに蒸かし、ミーティアが一瞬で近づいた。
「流星槍貫<ミーティアスピアー>!!!!」
「!!!!」
レーザーキャノンから、光の粒子を固定化した槍がしぐれの機体を突き刺した!!!
フィールドはバリバリと音を立てて破られ、藍色の装甲を焼き焦がし、溶解し、吹き飛ばす。
「終わりよ!!」
「そう……かしらねっ!!!」
「!!?」
フィールドの出力を最大まで上げる。敵の動きが鈍くなり始めた。
「ホワイト、ヴェール!!!!」
敵を完全に凍らせる。そして、
(H.O.R.N.……言うことを聞けよ!!)
黒と金の悪魔が巨大な剣を振り下ろす。
「……『薙刃』!!!」
衝撃波がミーティアを襲った。
「きゃぁぁぁぁぁぁあ!!!?]
吹き飛ばされ、装甲に深い傷を作り、吹き飛び、フレームが露になる。
爆発が起こり、装甲の破片が機体を引き裂く。
「くそっ……!!あんた達……もう二度と忘れてやら無い。次に会う時は絶対に討つ……!!」
「……!!」
パイレーツミーティアがスター・オーシャンに向けて脱出する。
「深追いするな!今は船の護衛が優先だ!!」
「……」
しぐれの返事が無い。
「名雪!聞いているのか?」
「……」
やはりしぐれの返事は無かった。
「名雪…?名雪!?」
レオンのコックピット内にヴェールスノーの内部の画像が現れる。
しぐれが、額から血を流して倒れていた―――――!
「レオン少尉、敵が来る!援護を!」
「ダメだ、名雪が!」
「レオン!!命令だ!!」
メトロが強い口調で言う。
「くっ……そんなことできるか!」
命令を無視して、しぐれ機を繋ぎ、ゴーストレイヴンは転進した。



「はい、治療完了」
「速っ!!」
ウェンの治療の早さにレオンは早々にツッコんでいた。
あれから10分後。戦闘は終了した。
「だって、ナノマシンだし」
「いや、もうちょっと情緒ってものをだな」
「早期回復が一番だろ」
ウェンはしれっと言ってみせる。
「これから、しぐれちゃんを怒るんだろ?ヤな奴だよね〜」
「うるさい黙れ」
レオンはウェンを黙らすとうつむいてるしぐれに向かう。
「……ごめんなさい。私のせいで、艦を危険な目に……
 レオン君も、命令無視にしちゃって……私は…自業自得ね……」
しぐれは謝罪するしかなかった。
レオンは先の戦闘で命令無視で注意を受けている。
艦の存亡を賭けた戦いの最中に命令無視をするなんてもってのほかである。
注意で済んだのは奇跡的だ。
「紋章機はお前の玩具じゃない!わかるだろ!」
レオンは気迫ある声で言った。
「謝ったのに、そんな怖い声ださなくても…」
ウェンが耳を抑えて言う。
「……俺が言いたいのはな、もう少し機体を…いや、自分を大事にしろ。そういうことだ」
「自分を大事に…?」
「出来ないことは無理にやらなくていいってことだ。無理すると今日みたいになる」
「……」
「お前のことが心配なんだ。だから、無理はするな。その為に、俺やスフレがいるんだから」
「……うん。ありがとう」
ウェンはやれやれといった表情で二人を見る。
「なんだかんだでレオンはやっぱり甘かったみたいだね?」
「うるさい」
「あ、照れてる?」
「黙れ」
しぐれはそんな二人のやり取りが微笑ましかった。
(私のことが心配……か。レオン君からそんな言葉が聞けるなんてね)
なぜか、うれしくなったような気がした。
それは、まだ小さな熱だった。

続く
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