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第九章 しぐれ救出作戦(後編)




黒い宇宙服を身に纏った華奢な体つきの少女が、くるりと回転して降り立った。
金色のツインテールが宙になびく。
「クレアちゃん!」
「えっへへ♪助けにきたよっ!!」
ビシッとVサインするクレア。
しかし、それを見て朱い髪の少女はわなわなと震えていた。
「元気で…ちっちゃい…ツインテール………ああもうっ!!!」
高ぶった感情を爆発させる。
「か、可愛い…!!可愛すぎる!!!」
「え、ええ!?なになに!?」
クレアに飛びつくプリュレ。
「あ〜……可愛いよう〜……蒼奈姉、この子もって帰っちゃダメ?」
「ダメです」
「そんなぁ〜」
「ダメよぉ。クレアちゃんは私達の仲間だもの」
そう言ってクレアを引き剥がす。
「あぁ、ビックリしたよ…」
「なんなんだ、一体…?」
蒼奈は苦笑して答える。
「えっと、病気みたいなものです。幼い子を見ると、いつもこうで」
「わ、私、幼女じゃないもん!!これでも15だもん!!」
クレアがきたことで一段と騒がしくなってしまった。
レオンはこほんと咳払いして話を切り出す。
「それで、だ。作戦を説明するぞ」

作戦はこうだった。
エネルギータンクと引き換えに引き渡された人質の中に、レオンを入れる。
そして、後からクレアを単身で宇宙を泳がし、潜入、人質を開放するとうものだ。
人質には全員にシリコン素材の発信機をナノマシンで縫合し、皮膚につけてある。よほどの事ではバレない。
レオンを入れた理由は、直接ここの指揮系統を叩くためである。
また、敵の注意をそらす為にスフレが外で暴れる予定である。
クレアをここまで連れてきたのはスフレだった。シャドウディスパーの隠密能力のなせる技である。
隙を突いて脱出。あわよくば、敵の指揮官を討つ。と言うものだった。

「脱出にはヴェールスノーを用意してあるよ」
「ヴェールスノーを?」
「うん、外に隠してあるよ。来る時は私が乗ってきたんだ」
クレアは自慢そうに胸を張った。
「でも、この部屋からどうやって出るの?」
部屋の鍵は通常の鍵穴とIDカード、暗証番号と多重のロックがかけられている。
「簡単だよ。下がってて」
クレアに言われてみんな下がる。クレアは手に意識を集中させてナノマシンを起動させた。
淡い光がその手に宿り、形を成して行く。
「いっくよぉー!」
ナノマシンが鍵を取りか組む。
「えいっ!」
掛け声と共に――爆発。
ナノマシンを内側から弾き出したのだ。扉は見事に開く。
「これでよしっと。さ、いこ!」
「牢番は?」
「眠らせといたよ。あ、レオン達の武器もあるよ」
クレアは速く速くと急かす。
「……小さいのにすごい子ですね」
蒼奈は感心したように言った。
「小さいのに、は余計だよ」
クレアはぷいっとそっぽを向く。
「あらあら、ご機嫌斜めね」
「子ども扱いしないでよ!」
「いいなぁ……クレアちゃん」
わめくクレアをあやすしぐれ。それを羨ましがるプリュレ。
緊迫した状況下で緊張感の無い連中に、レオンはとてつもない疲労感と苛立ちを覚え――
「クレアちゃんを賭けて勝負よ!!」
「え〜…無理よぉ…大体、クレアちゃんは物じゃないし…」
「つべこべ言わない!!やるの?やら無いの?」
「だめだよ〜。私のために争わないで、だよ〜」
なぜかクレアを賭けて勝負を始める二人。何気にクレアは嬉しそうだし。
レオンの苛立ちは頂点に達した。
「はぁ……お前らなぁ……いいかげんしろぉぉぉ!!」
レオンの一括。その場が止まる。

いや。
後から慌しい音が聞こえる。

「侵入者だ!侵入者が来たぞ!!」

しぐれは苦笑してレオンを見る。
「レオン君……」
「……お前等のせいでもあるからな」



宇宙空間。
スフレは既に基地を襲っていた。
出てくる船を片っ端から戦闘不能にさせ、敵を近づけさせないようにしている。
それでも、全部倒すのはもちろん不可能。敵は攻撃を仕掛けてくる。
ミサイルをジャマーで無力化したり、透視化して敵を避けたりする。
「………あの子は無事かしら?」
ふと、しぐれのことを思い出す。
スフレにとってとても良くしてくれる友人の一人だった。
彼女のためなら、自分は戦ってもいいと思った。だから、今回は自ら名乗り出たのだ。
「………大丈夫。レオンがいるもの」
レオンなら、しぐれを無事に助けてこれるはずだ。
彼もまた、しぐれのことを大切に思っているからだ。もっとも、彼は自身のことに気づいていないようだが。
そのとき、レーダーに一つの反応が現れる。
大型戦闘機が一機、こちらに近づいてくるのだ。
「……この識別コードは……?」
珍しく、驚いた表情をする。
識別コード「UGAS-004 Gravity Wizard」
緑色に染められた大型の戦闘機――スフレ達の後に発見された紋章機だった。
「……!!」
大型戦闘機から通信が入る。緑色の髪の少女がウィンドウに現れた。
「――悪いことは言いません。逃げてください……。紋章機にはかないませんよ……」
少女がぽつりぽつりと言葉をつむぐ。
「――何をしている、レイン・キシリトル!早く倒さんか!!」
別の声が聞こえる。敵の司令のようだ。
「――他の仲間がどうなっても良いのか!?」
「――分かりました……」
どうやら、人質をとられ、戦わざる負えない状況のようだ。彼女も被害者なのだろう。
「――すみません……。上手く避けてくださいね……」
敵機に武装らしい武装はあまり見えない。しいて言うなら大型のドライブが……
――スフレにはあのドライブが何かすぐに分かった。
「……っ!!!!」
ドライブが起動し、重力波がスフレを襲う。
あれはマイクロブラックホールの発生装置だ。小規模のブラックホールを生成し、発射する。
近くにあった宇宙ステーションの残骸や、隕石が一瞬にして潰れた。
間一髪避けたが、あんなものを受けたら、ひとたまりも無い。
(……彼女の攻撃を避けつつ、フェニックスを守る……難しいわね)
迫り来るマイクロブラックホールの群を見て、スフレは思った。


しぐれ達は白い廊下を走っていた。
「これで捕まった連中は全員だな」
レオンの指示に従って、捕まった仲間は開放された。
今は待機中のヴェールスノーに仲間を集めて脱出する途中であった。
「艦長、全員解放しました。今から戻ります」
「――そうしてもらえると助かるね。現在ランディール少尉が敵戦闘機と交戦中だ。
 おそらく、紋章機だ。少尉達より後に見つかった機体だろう」
「紋章機!?スフレが交戦中だって!?」
「――ああ。早く戻ってきてくれ……な!?」
通信機の向こうでメトロが驚いた声を出す。
「どうしました?」
「――まずい!敵基地の大型砲台が動き出した!あれは…重力レール砲だ……!」
重力レール砲。マイクロブラックホール弾を射出する大型のレールキャノンである。
直撃すれば大ダメージ。弾が爆発すれば――あたり一体は重力に潰されるだろう。
「そんなものまで!?ロストテクノロジーがこんなにあるなんて…!」
「――とにかく時間が無い。こちらの援護よりも、レール砲の発射の阻止また破壊を優先してくれ」
通信終了前にレール砲に関するデータが送られてくる。
発射まであと…15分程度だ。
「……クレアは救出したメンバーと一緒にヴェールスノーで脱出してくれ」
「え!?じゃあ、レオン達は?」
「俺達は中からレール砲の制御をして止めてみせる。不可能な場合、お前達が破壊してくれ。
 名雪、ロストテクノロジーの制御はお前しか出来ない。制御室まで連れて行くから、頼むぞ」
「わかったわ」
「こっちも了解だよ!」
クレアは救出メンバーに宇宙服を着せてすぐに外へ向かう。
しぐれ達は制御室へと向かう。
廊下を走るとすぐに警備員3人にに出くわした。これで17人目。
「邪魔を、するな!」
「邪魔を、しないの!」
レオンが駆け出すと同時にプリュレが銃を抜く。
剣を抜きつつ斬りつける。
狙いを定めすぐさま撃つ。
敵はあっという間に倒れ、痛みに悶絶した。
「強いのねぇ…この二人」
「そうですね」
せまり来る敵をすぐさま返り討ちにする。なかなか息も合っている。
制御室に来る頃には30人以上倒していた。
「入るぞ…敵が居るかもしれない。名雪、銃は?」
「持ってるけど…」
「セーフティ、解除しておけよ」
「うん、ショックガンモードになってる」
「……よし。いくぞ」
扉が開く。――と同時に銃撃。散開する。
銃撃が止んだと同時に一気に進入、まずは入り口の奴を2人撃破。
騒ぎを聞きつけてきた奥の奴らにプリュレは飛び掛る。
一人を銃で、もう一人をブーツに仕込んである重力波装置で薙ぎ払う。
「これで全員?」
「……いーや、まだだ」
「!?」
不意に誰かの声がした。
通信の映像に出ていた男だった。その腕の銃が伸びる先には人質と思われる少女が居る。
「お前がここの司令官か……敵に寝返るなど……!」
「ふん!生き残るためには手段を選んでられん!それが戦争だ!!」
人質をとられているため手は出せない。機会をうかがうも、時間が無い。
(名雪、チャンスを作る。敵を撃て)
小さくレオンが言った。
(どうやって?人質がいるのよ?)
(わかってる。人質には悪いが、少し強引に行かせてもらうしかない。いいか、ためらうなよ)
(……うん)
小声で会話する。
レオンは少しだけ足を開くと、銃を抜き、放った。
光線銃の光が、一瞬にして目標へと突き進み―――――
―――――人質に当たる。
少女は気を失い大きくよろけた。それに敵は動揺した。
人質に当てるという行為は普通の感覚なら驚いてもおかしくはない。
それがひとつの手だとしても、心構えないまま撃たれては動揺しないのは難しかった。
(今だ……!)
しぐれは一瞬の隙を突いて敵に向かってトリガーを引いた。
次の瞬間には倒れた敵が目の前にいた。少女の方はレオンが倒れる前に支えたようだ。
「へぇ、いい狙いしてるじゃない」
「一応、士官生だもの」
「話してる時間は無いぞ。早くレール砲を止めないと」
「うん」
しぐれが制御装置に触れようとした瞬間、
ガチャと後で音がした。ひやりと冷たい金属の触感。
「はい、そこまで。仲良しごっこはお終いよ」
「……!」
プリュレが銃を突きつけていた。レオンにも同じである。
「私達にとって、あんた達は邪魔なのよね。あの艦、落とさせてもらうわ」
そうだ。彼女たちは敵でもあったのだ。
嫌な汗が背中をつたう。
今度こそ逃げられない。ダメだと思った。
そのとき突然扉が開く。
「侵入者を排除しろ!」
幸運にも警備員が来たのだ。プリュレは銃の狙いを変える。
「チィッ!」
一発目で武器を落とし、二発目で足を撃つ。
レオンはその隙を付いて警備員ごとプリュレを外へ吹き飛ばした。


廊下と反対側のドアから出た。そこは意外に広い。
重力制御があまり効いていない。おそらく外部ブロックに近いのだろう。
「名雪の邪魔はさせない」
「ふぅん。丁度いいわ。あんたと殺りあってみたかったのよね」
プリュレが不適に笑う。より強い者と戦うことを楽しむ、闘士の目だ。
「わかった、受けて立つ」
レオンもまた、――こう言っては不謹慎だが――ワクワクしていた。
少しの静寂の後、二人が駆け出す。
レオンの刀がプリュレの拳銃とぶつかる。
「……斬れない!?」
「残念ね!」
プリュレはレオンを跳ね除けると、すぐさま撃ってきた。
実弾であるため、あたったらもちろん怪我をする。手加減ナシだ。
重力が弱いから体重を乗せた攻撃が出来ない。そうゆう意味では銃のほうが有利だ。
「くそっ!体が軽すぎる!」
「よっ!」
上手く移動できないレオンに対し、プリュレは難なく移動する。
彼女の履いているブーツにはロストテクノロジーの重力制御装置が入っている。
重力下でも十分使えるのだ。ここで有効に利用しない手は無い。
(逃げ場がなさ過ぎる……!隙もつけないな……)
何とか攻撃は避けられるも、それで精一杯だ。反撃は出来ない。
プリュレはスカートを翻しながらガンガン攻めて来る。
「お前っ!女のクセにそんな格好で暴れまわるな!見えるぞ!?」
実際スカートの中が見えている。レオンは耐性が無いため落ち着かない。
「スケベ」
「なっ…!ちがっ……!!」
「隙あり♪」
銃口を向けられた。トリガーを引く。
「っ!くぅ!!」
間一髪、刀で弾いた。しかし、敵の攻撃は一撃ではない。
腕に、足に、一発ずつ受けてしまった。
「強いけど、あっまいわねー。そろそろ終わりにする?」
カートリッジ式の拳銃のマガジンを詰め替えながら距離を詰める。その動作は手馴れている。
レオンは逃げ場が無かった。


「スフレ!」
元気な少女の声が聞こえた。
そして次の瞬間、青白い光線が敵と自分とを遮る。
藍色の機体が割り込んできたのだ。
「クレア……中の皆は?」
「送り届けたよ!こっちも援護するね!!」
クレアは張り切って攻撃しようとする。スフレはそれを止めた。
「待ちなさい。あの機体は本当の敵じゃないわ……人質をとられてる。レオン達が助けるまで、時間を稼いで」
「えー!?せっかく戦えると思ったのにー……」
そうこうしてるうちに重力の閃光が迫る。
「避けて……!」
「よいしょっ!」
さすがにヴェールスノーのフィールドでもこの攻撃は防ぐことはできない。
空間に干渉してるわけではないのだ。
「ヴェールスノーのフィールドでも防げないわ……!何とかして敵の動きを止めて……!」
「了解ッ!」


しぐれは制御装置を操作していた。ロストテクノロジーだが、しぐれには多少操作の仕方がわかった。
しかし、停止の操作までは分からなかった。
「……どうしよう」
止められない。このままでは艦が撃たれてしまう。
しぐれが思いつめていると、ふと澄んだ声がした。
「手伝いましょうか?」
金の瞳がこちらを見ている。星海蒼奈だった。
「でも、これ……」
「ロストテクノロジーですね。大丈夫です。これなら分かります」
彼女は手際よく機器を操作する。
「……どうして助けてくれるの?」
「私達は軍を倒すために戦っているわけではありません。
 ロストテクノロジーが……こんな風に悪用されるのを防ぎたいだけです」
「でも、さっき、あの子が……」
「あれは、ただあの人と戦いたいだけでしょう。強い人を見るといつもなんです」
優しい声。今まで気づかなかったが、甘い匂いがする。
どこか、シャトヤーンのような感じがした。
「終わりましたよ。これで停止したはずです」
「ふぇ…?あ、はい!ありがとうございます!!」
しぐれは見とれて少しまごついた。
「さて、あの子が怪我しないうちに、私達も帰りましょうか」
そう言って蒼奈は手頃な棒を掴むとドアを開けた。


――逃げ場は無い。いや、見つけた。
レオンは上の階へと続く階段などのパイプを切り落とす。
足場がガラガラと音を立て落下し、プリュレの行く手を阻んだ。
「くぅ!!どこっ!?」
周りには居ない。そんなバカな。居なくなるなんてことは―――
「っ!上か!」
レオンは上にいた。重力が弱いからかなり大きくジャンプできる。
プリュレの銃口は上に向けられた。発射。しかし、レオンは上を走る足場を蹴ってかわした。
一気に接近。重力に任せて銃を払い落とし、そのままのしかかる。
「きゃっ!っこの!!」
「くっ!」
重力波で跳ね返される。同時に刀を落としてしまった。しかし、再び地面を蹴って突進する。
タックル。プリュレがかわし、蹴りを入れる。
が、それをレオンがかわし、ストレートを決めようとする。
プリュレはレオンの腕を掴み、背負い投げる。しかし、重力の小さいこの空間では効果は薄かった。
「っ…だから、スカートで暴れるな」
「うっさいわね…この変態スケベ…」
二人ともぼろぼろだった。余り力も残されていない。最後の一撃を決めようとする。
攻撃の読みで勝ったのはレオンだった。フェイントをかけ、相手の隙を作ったのだ。
(勝てる……!)
確信した。しかし。
ジャキン、と金属音がした。
「なっ……!銃!?」
プリュレは勝ち誇った顔。
「他に持ってないなんて言ってないしね」
トリガーに指をかける。その瞬間レオンが動いた。そばに落ちていた刀を取る。
二人はほぼ同時に狙いを定め、攻撃を――――
「はぁぁ!!」
二人の間に何かが割って入った。二人とも吹き飛ばされる。
レオンはとっさに反撃するが――かわされ、いや、流された。
先ほど背負い投げられたように倒れこむ。
上を見ると、棒状のものを持つ蒼奈がいた。
「どうもすみません。こちらは迎えが来たようなので私達は脱出しますね」
「え……」
唖然とするしぐれ。蒼奈は一瞬にして間合いを詰め二人を薙いだのだ。
「プリュレ、行きますよ」
「っ痛……いきなりひどいじゃない」
「話を聞きそうにありませんでしたから。二人とも」
何事もなかったかのように振舞う蒼奈。
「く……なんなんだ、お前は?」
レオンとプリュレは戦闘に関してはかなりの強さだった。
それを横から入ってきたとはいえ、軽々とのしてしまった蒼奈は只者ではない。
「迎えが……きました」
突如上方の外壁が崩れる。そしてそこから一機の戦闘機が降りてきた。
宇宙空間と基地が繋がったため空気が漏れ、風となる。
現れた緑の機体――パイレーツ"フェアリー"
外部用スピーカーから声がする。
「――ハッチ開放。艦長、プリュレ、どうぞ中へ」
「か、艦長!?」
結ばれた髪をなびかせながら、艦長と呼ばれた少女はいたずらっぽい笑みを浮かべて
「あれ?言ってませんでしたっけ?」
とお決まりの台詞を言った。緑の機体の下部ハッチへと歩いていく。そして振り向いて言った。
「私が、蒼き宇宙海賊"ブルーコスモス"が艦長、星海蒼奈です。覚えておいてくださいね。
 雪女さん。そして……………金色の悪魔さん」
金色の瞳が嫌に怪しく光った。『清楚で可憐』なイメージだった彼女が一遍して、『妖艶』に見えた―――――



数分後にしぐれ達は脱出し、人質となったレインの仲間を解放し、グラビティウィザードとの戦闘は終了した。
しかし、基地周辺の混乱は収まらず、宇宙海賊まで現れる始末だった。
「さすがに、今の状況で戦える相手じゃないな……」
もともと率いていた艦隊は基地の中。補給もまともに受けていないフェニックスでは勝ち目がない。
紋章機もまだ整備が終わっていない。また、パイロットも疲労している。
このままでは、まず間違いなくやられるだろう。
「ふむ……可能性は低そうだが、やってみるか」
「艦長……?」
「敵艦に通信回線を開け。話をしてみる」
「なっ!正気ですか!?」
「もちろん」
オペレータは指示に従い海賊船に通信をする。
「艦長、敵艦が通信を受信しました。繋ぎます」
「……ああ。頼む」
メインスクリーンに映像が映し出される。
「はじめまして。皇国軍第1方面軍第3艦隊指令、メトロ・N・マイヤーズだ」
「――はじめまして。ブルーコスモス、スター・オーシャン艦長の星海蒼奈です」
映し出されたのは金の瞳の少女だった。
「ほう……海賊というから、もっといかつい悪人相を考えていたんだが……。こんな美しい女性だとはね」
品定めをするような目でスクリーンを見る。
「――我々に何の用件でしょうか?」
向こうは敢然とした態度で接する。
「……ふむ。私は君達を討つ任務を課せられていたんだが」
「――!?」


「気が変わった。……………我々と手を組む気は無いかい?」



―――――ブリッジに静寂が訪れた。

続く
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