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第十一章 パイレーツオブコンチェルト




海賊船――「スター・オーシャン」は皇国軍人と海賊でにぎわっていた。
フェニックステール艦長、メトロ・N・マイヤーズにより、同盟の契りが交わされたのである。
初めは敵同士であったこともあり「なんで敵だった奴と仲良くしなきゃならないんだ」と皆突っぱねていたが、
小さな交流会の後に打ち解け、今は仲良くやってる。こいつら皆ツンデレだ。
先日は海賊のバックアップをしてくれているウェイブマテリアル社の物資のおかげで、
ようやくフェニックステールが修復を終わった。元々は皇国軍が補給させるつもりだったので貸し一つである。
そして今日、改めて同盟を誓った証のパーティーをすることになったのである。
途中、ブラマンシュ商会のデパートシップで物資の調達をした。
生活用品、食料、弾薬など必要なものを全て買い揃えることができた。
パーティの飾りなども売ってるから大助かりである。
今は船員が総出で会場の飾り付けをしていた。調理班は厨房である。
「だからといって、なんで俺がパーティーの料理を作らなきゃいけないんだ」
レオンは悪態をついた。
「いいじゃない。おいしいんだから。レオン君、ご飯作るの好きでしょう?」
レオンのすぐ近くでお茶汲みをしているしぐれ。
彼女は料理はできないし、下手に行動させると会場が崩壊しかねないのでお茶汲みをしてもらっている。
「俺はパイロットなんだが。大体、調理班の仕事を取って悪いだろ」
レオンの二度目の悪態に調理長が「こいつらより腕が立つから構わん」と、調理班の連中に皮肉ってみせる。
大体、人手が足りてないから駆り出されてるわけで、レオンも納得しているはずなのだが、やはり気に入らないようだ。
「えっと、爆発したり、死人が出たりしてもいいなら私が代わってあげるわよ?」
「どういう料理する気だ、それは……」
まあ、しぐれの例えはあながち嘘ではない。材料をこぼしたり、分量を間違えたり、爆発したりは士官学校のとき日常茶飯事だった。
「よし、終わりだ。名雪、運ぶくらいはできるな?」
「うん。いいわよ」
しぐれは頷くと慎重に皿を持って運ぶのを手伝った。
しかし、やっぱり行く途中で転んでしまうのはご愛嬌だろう。



パーティーといっても大したものではない。ちょっとした立食会といった程度である。
それでも、しばらく激戦続きだった二つの艦に安らぎを与えるには十分だった。
そんな中で少女が一人、ため息を付く。
「あ〜あ、何を浮かれてるんだか」
プリュレが機嫌悪そうに言う。言ったセリフの割に、手に持つ皿の上にある料理は多い。
彼女は未だに同盟を結んだことについて不服であった。
もちろん、他の者もそういう思いを持っていなくは無い。
しかし、目的が違うだけで悪い人たちではないということが分かると、
それなりに打ち解けられるのも人間というものである。
そして、それは次第に慣れる。
もっとも、彼女の場合、不満の原因は、元々は敵味方ということではなかった。
「プリュレちゃん、こんなところにいたの?」
不満の原因。名雪しぐれ、である。
「あっちに美味しいお酒があるんだけど、一緒に飲みましょうよ」
「アンタ、未成年でしょ……」
「大丈夫よ。私の星の人は内臓系強いから!」
しぐれの生まれた星の人々は15歳前後で内臓機能がほぼ完成する。
つまり成人したといってもいい。
「私はいい。酒、嫌いだから。じゃあね」
「つれないわねぇ。じゃあ、あっちにケーキがあるから……」
「ああもうっ!!」
プリュレは怒りに任せグラスをテーブルにドンと置いた。
「鬱陶しいわね!かまわないでよ!!」
「あ……う、ごめんなさい……」
しぐれの弱気な態度にプリュレはさらに苛々を溜める。
「いちいち謝らないでよ!ああくそ、なんでこんな奴に……!」
「……まぁまぁ、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか」
たしなめるような声が聞こえた。
そこには明らかに自分達より小さな少女がいた。
耳は尖り、緑色をしたショートヘアが揺れる。
メイプル・パイフィ・オ・ティンカーベル。名前が長いので通称メルだ。
「メル、アンタは黙っててよ」
「いいえ。プリュレちゃん、これから仲間としてやっていく方なんですから、仲良くしないと」
「こんな奴、仲間じゃないわよ」
そういうとさっさと行ってしまう。
「プリュレちゃん!……すみません、あの子意地っ張りで負けず嫌いなんです」
「……うん。そうみたいね」
しぐれは見て分かるくらい落ち込んでいた。
「あー……、気にしない方がいいですよ?」
「うん、ありがとう。私は名雪しぐれ。あなたは?」
「私はメルです。本当はメイプル・パイフィ・オ・ティンカーベルって言うんですけど。長いでしょう?」
「うふふ、そうね。じゃあ、メルちゃんでいいかしら?」
「はい。こっちはしぐれさんと呼ばせてもらいますね」
二人は軽く握手する。
「それにしても、貴女がしぐれさんですか。本当に雪女みたいですね」
「それって悪い意味かしら?」
「いえ、いい意味ですよ。色白で綺麗ですし。それにおもしろい方みたいですし」
「うふふ、そうかしら」
照れくさそうにしぐれが笑った。
メルと話しているうちに向こうから人が寄ってきた。
「やっほー!しぐれ」
「……………」
クレアとスフレである。二人とも食いしん坊であるためたくさんの料理を食べて回っていた。
「あら、貴女達は?」
「しぐれの友達だよ。私はエクレアリル・テトラネス。クレアって呼ばれてる」
「スフレよ……」
「私はメルです。本名は長いですので後でしぐれさんに聞いてください」
「よろしく!ねえ、今からステージで手品やるから見ていってね!」
「あら、そうなの?」
「うん。ウェンがやってこいって」
ウェンの姿は見当たらないが、大方女性でも口説いているんだろう。
クレアは言い終えるとぴょんぴょん跳ねてステージへ向かっていった。

クレアの手品は大成功に終わったといっていい。
拍手喝さい。おひねりまで飛んできた。
だが、余計なものまで飛んできた。
「名雪しぐれぇぇぇッ!クレアちゃんを賭けて勝負よッ!!!」
「なんで、私なの……?」
しぐれは苦笑していった。
挑んでくる相手はプリュレ。
一応、保護者としてはウェンが適当であるがしぐれを目の敵にしてるプリュレには関係なかった。
「ふふふ……前回の恨み、ここで晴らしてくれる!!」
プリュレは鬼気迫る目で拳を鳴らす。
(ああ……目が逝っちゃってるわ……どうしよう?)
しぐれは冷や汗をかいて横を見る。
そこには澄ました顔でワインを飲むスフレ。
「あ、そうだ!じゃあ、飲み比べって言うのはどう?」
ぱんと手を叩いて提案する。
「飲み比べ?……まぁ、いいんじゃない。やってやるわよ」
もっとも、両者とも酒なんてほとんど飲んだことはない。
「それじゃあ決まりね」
しぐれ達の話に周りも盛り上がって酒を用意する。
「それじゃあ、譲ちゃんたち、準備はいいな?始め!」
男の合図で始まる。
しぐれとプリュレはグラスの酒を一気に飲み始めた。



漆黒の宇宙を2集の戦艦が進む。
後ろには黒い強勢。エオニア軍の無人艦隊が迫っていた。
「まさか、シフトダウンした途端に敵と出くわすとはのう……」
白髪の男が言った。老いてはいるが、筋骨隆々とした肉体と知性溢れるような瞳。
その微笑みは穏やかだが、強い意思が見えた。
「ルフト指令、敵との距離20000です!このままでは追いつかれます」
観測オペレーターが叫んだ。敵の数はざっと十数。まず勝てないだろう。
逃げるにしては隠れ場所が少なすぎる。
だが負けるわけには行かない。この船には途中で乗せた多くの避難民がいるのだ。
「分かっておる。2時の方向に進路をとれ。付近の味方と連絡は?」
「だめです。障害が多くて……あっ!?」
レーダーに一つ、青いマーカーが現れる。さらにもう一つ黄色のマーカー。
「どうした!?」
「味方です!!これは……第1方面軍第3艦隊旗艦フェニックステール!?」
「なんじゃと!?すぐに連絡を!!」
「りょ、了解!」
まさか、メトロと出会うとは、なんという幸運。まさに天の助けである。
オペレーターはすぐにフェニックステールとの連絡を繋いだ。
スクリーンに長髪の男が現れる。
「ローム星系中流艦隊を引き継いだルフト・ヴァイツェン准将じゃ。メトロじゃな?」
「なっ!?ルフト先生!!なぜこのようなところへ?」
「話は後じゃ!追われとる。おまけに避難民も乗せ取る。手を貸せい!」
「ふむ、先生の頼みでは仕方あるまい。総員第2戦闘配備だ」
スクリーンの向こうで慌しく駆ける音が聞こえる。
「なにやらバタバタしとるのう」
「すみません。歓迎会の途中だったので。戦闘が終わったら先生もお呼びします」
「ほっほ、そりゃ楽しみじゃが、そう簡単ではないぞ。何しろ敵はエオニア軍じゃ」
「いえ、問題ありません。こちらには蒼い宇宙と天使がついてますから」
メトロは自信たっぷりに言った。



しぐれとプリュレの戦いはすでに13ラウンドに達していた。
「ああもう!なぁぁんでこんなことしてるかなぁぁ!!?ねー!?アンタもそう思うでしょーーー!?」
「いや、酒飲んで絡むのはやめてくれ」
プリュレはついに酔っ払ってレオンに絡みつつある。
一方しぐれは。
「ふえぇぇぇん、レオン君のばかぁぁぁ……人でなしぃ……」
極度にアルコールに弱い上に泣き上戸だったしぐれは1杯目で既に酔っていた。
勝利条件が、「相手が飲めなくなるまで」だったので、勝負は続いており、今に至る。
「う〜…どうせ私のことを役立たずとか思ってるんでしょう?」
「いや、思ってないって」
「嘘ね!!アンタはそうやって簡単に嘘を言える人間なのよ!!こいつのせいでどれだけの女が泣いたことか!!!」
「おいお前、何を勝手に……」
「ひどい!酷いわレオン君!私のことは遊びだったのね……!!ふ、ふぇえぇええぇぇぇ……」
「だぁぁぁぁぁあ!!何とかしてくれ!!!」



「なんとか、しようか?」



不敵な声が空間を支配した。
やや長い黒髪。端整な顔には不釣合いなタバコの匂い。
艦長メトロ、現れる。
「いや、しかし凄いことになってるな。お前らみんなノリ良すぎ」
この人が現れただけで場の空気が変わった。
艦長の威厳か、それとも特有の存在感の強さか。
「そもそも、公務員が法律破るな。酒は二十歳からだ」
ブリッジでタバコを吸う奴には言われたくない。
「艦長、どうしたんですか?」
「ああ、呼んでもこなかったからな。ここにいるみんなも聞いてくれ。
 つい先刻、味方の船が襲われているとの知らせが入った。総員第2戦闘配備に付くように」
その知らせを受け、皆一瞬固まるものの、すぐに配置へと赴く。
「レオン、出撃だ」
「な、こいつらは!?」
「出撃だ。コクピットで吐いたら自分で掃除な」
メトロは近くにあった灰皿にタバコをこすりつけた。
「酔ってるんですよ!?」
「知るか。未成年は飲酒禁止。加えてスクランブル要員は飲酒禁止」
「艦長はタバコ吸ってるじゃん」
「いいんだ。タバコは酔わないから」
クレアのツッコミもものともせず、ブリッジへと戻っていく。
「っ……くそッ!!バカだろお前達!!行くぞ!!」
「ううぅ〜、了解〜……」
「わかっ……てるわよーーー!……おえっ……」
大丈夫じゃないな、とレオンは思った。



「やっぱ代わろうか?無理しないほうがいいよ?」
「ふぇぇ〜……クレアちゃんも私を信用してくれないの〜……?……ぐすん」
「ああ、もういいや。死なないでね」
クレアは呆れてそこで通信を終える。
目の前には敵。漆黒の鋼鉄兵。心無き戦士。
しぐれはぼんやりする頭でなんとか戦闘することを思い出す。
対するプリュレはというと。
「アハハハハハ!!!みんな吹き飛ばしてやるから、覚悟覚悟ーーッ!!」
性質の悪い酔いっぷりだった。
好戦的な性格が前面に押し出されている。
「スフレ、こいつ等アテにならないから速攻で終わらせるぞ」
「了解……」
一人酒を飲んでないレオン。そしてめっぽう酒に強いスフレ。
戦力といえるのはこの二人だけ。
いや、訂正。
蒼き海賊船から次々と現れるカモメの群れ。
ブルーコスモスの量産型戦闘機、コードネーム『アクアバード』である。
さらに、ウェイブマテリアル社の最新鋭機を偽装したモデル、コードネーム『シャーク』が何機か確認された。
「いくぞ野郎共!!全員私についてこーいッ!!!」
半狂乱のプリュレが叫ぶ。野郎どもといっても、パイロットの8割が女性だ。
酔ってる割に、操縦は落ち着いており、テンションが高いためリンク率がかなり高い。
4機のアクアバードと2機のシャークを引きつれ、漆黒の中を駆け抜ける。
パイレーツコメットの弾幕に任せた攻撃。
まるで本当の海鳥のような、海面の獲物を狩るような、ヒットアンドアウェイを繰り返すアクアバード。
そして、機動力に物を言わせ、鋭く重い一撃を喰らわせるシャーク。
時に群れで。まるで一つの魚のように。
時に分かれて。まるで水族館の熱帯魚達のように。
個であり多。多であり個。
そんな戦い方が彼女らの持ち味である。


そんな彼女らの連携をかき乱す存在がいた。
「ふえぇぇっぇぇぇぇええぇえぇぇぇええッ!!」
エネルギーの心配なんぞ関係なく、雪女は暴れまわる。
まるで子供の落書きのように、黒いキャンパスを白のクレヨンで塗りつぶしていく。
「だぁぁぁぁぁ!!危ないでしょーーッ!!アンタ、殺すわよ!!」
「ひ、ひぃぃぃぃ〜……ごめんなさい……」
プリュレがヒステリックに叫ぶ。しぐれは泣きながら謝るも、止まることはない。
ふらふらと飛び、変な方向へと攻撃し、意味も無くエネルギーを使う。
しかし、それで敵を倒せるのだから不思議である。
もっとも、そんなことをしているから敵に目をつけられるのだが。
「きゃぁぁぁああああ!!」
むざむざ敵の懐に飛び込んだしぐれは、敵の反撃に返り討ちに遭っていた。
「世話焼かせないでよッ!」
プリュレが援護に入る。コメットファランクスで攻撃――するも、意識が弱くて真っ直ぐにしか飛ばない。
結果、ヴェールスノーに直撃。
「ふぇぇぇぇええ!?」
「あーもう!何やってんのよーー!!」
「何やってんのはお前らだ」
ゴーストレイヴンが割って入り、敵を一掃した。
「あー私の獲物ー」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
レオンは頭が痛かった。まったく、普段でさえうるさいのにどうしてこうもキャーキャー騒ぐのだろう。
今まで身近だった少女がスフレのみだったからなおさらだ。
……スフレは22なので少女は無理か。
そのとき、ゾッと背筋が冷えた。
ミサイルとレールガンが機体をかすめ、エオニア軍に命中する。
撃ったのはシャドウディスパーだ。
「……レオン、今失礼なこと思ったわね」
「い、いや」
口数が少ないため、紡がれる言葉からは濃い感情が読み取れる。
「……にしても数が多いわね」
「ああ。このままじゃ押し切られるぞ」
20程度の数が、先ほどからどんどん増えている。
今では40機近くの戦艦が迫っていた。
「旗艦を叩くしかないか……スフレ、分かるか?」
「捜すわ……」
ごく自然な動きで操作をする。シャドウディスパーの広範囲レーダーが目標を捕らえた。
「見つけた……」
「よーし、私がいくわよ〜!」
「待て、お前が行っても死ぬだけだ」
「そ、そんなに言わなくてもぉ……ぐすん」
「あー……泣きながらでいいから聞け」
名誉挽回とばかりに突撃しようとするしぐれに静止をかける。
「ここから旗艦までは距離がある。いくら機動力が高くてもこれじゃなかなかたどり着けない。
 そこで、スフレと俺で隠密行動を行い接近、これを撃破する。お前達は陽動を頼む」
「えー、ボスは私が倒すってばーー」
「酔ってる奴は黙ってろ。お前は目立ちすぎる。
 ついでに名雪は火力がない。だから俺が付いてく。ゴーストレイヴンはこの中で一番の火力を持ってもってるからな」
「しかたないわね」
「うん、了解……」
二人の対照的な返事を聞いた後、レオンとスフレは敵の爆発に紛れる。


「宇宙(そら)に闇を、時に静寂を―――――『サイレントタイム』……」


スフレがそう言うと二機の機体は闇へと消えた。



敵の数が多すぎる、と他のパイロットは思っていたはずだ。
現に戦力差は圧倒的。
40対8だった敵をなんとか20対4くらいにしても、敵はまだまだ増えてくる。
「プリュレ、悪いけど補給に戻らせてもらうわ!」
「こっちも被弾した!一旦帰還するよ」
ブルーコスモスのパイロット達が船へと戻っていく。
代わりに1機が戻ってくるが、それでも状況は悪化するばかりだ。
「たぁくッ!きりが無いじゃない!どっから沸いて出てくんのよ!!」
「ふえぇ〜……こんなにいたんじゃあ勝てるわけないわよぅ……」
「うぅるさいよっ!アンタがもう少し役に立てばぁ、勝てるっちゅーのよ!」
酔っ払い同士の会話が進む。
それでも敵は倒しているからすごい。
「さぁ、雪女!殺るわよぉ!!覚悟しなさい!!」
「ふえっ?連携攻撃ね!?」
噛み合ってるようで噛み合ってない会話で連携を取る。
プリュレが放った攻撃に、あまり効果的でないタイミングで撃たれるしぐれのレーザー。
しかし、それさえも見事にクリーンヒットするのだから恐ろしい。
「私達にかかればこんなもんよ!!」
「ふえ!また来るわよ!?」
しぐれの声に反応して機体を旋回させる。
対空砲火が機体をかすめる。
空間に力場が発生し、弾丸がはじける。
「あんたが前に出なさい!攻撃はこっちがやるわ!」
「女の子を盾にするのぉ!?」
「私だって女の子よッ!」
ヴェールスノーが前に出て攻撃を弾く。後ろのパイレーツコメットが敵を蹴散らす。
「とどめぇッ!!!」
光の束が敵を次々と打ち抜いていった。酔ったしぐれはそれをぼんやりと見ていた。



一方レオンとスフレは既に旗艦に取り付いていた。
「ステルス解除……」
「よし、行くぞ!」
いきなり姿をあらわす2機の機体。
敵は思わず驚き慌てる。
「な、戦闘機が2機出現!?」
「バカな、ドライブ反応は無いぞ!?」
「強力なステルスが働いていた模様です!!うわ!」
2機の機体による連携攻撃が戦艦を揺らす。
「どうなっている!!たった2機だぞ!?」
2機は2機でもロストテクノロジーを搭載した兵器である。
通常の戦艦では太刀打ちできないだろう。
シャドウディスパーの支援攻撃の元、敵の迎撃をかいくぐり、レオンは艦首を破壊した。
まずはレーザーキャノンを破壊。次はミサイルか。
そう考えた瞬間、ミサイルの発射管が破壊される。
「スフレか……よくやるな」
結構な距離があるのに、大した腕である。
こちらも負けて入られない。
再び接近して攻撃を行わなくては。
近づけば、敵の無人機は旗艦に近いレイヴンを攻撃できなくなる。
距離3000、射程内だ。
「喰らえ」
ブリッジ付近にミサイルを撃ち込む。
敵のエネルギーフィールドにぶつかり弾かれるもの、敵の精神的に結構な衝撃を与えたはずだ。
これで降伏してくれたら大変ありがたいのだが。

……

「攻撃は止まないか……どうしてもやる気だな、敵は」
ならば遠慮はできない。
戦場で無力なものなどいない。だから撃つ。
向かってくる敵は、倒すまでだ。
(……一撃で終わらせる!)
心の中で思うと、ゴーストレイヴンのブレードが鞘から引き抜かれた。
アームが刀を構え、敵へと突進していく。
「『黒鳥』!!」
名ばかりの突撃攻撃である。
フィールドをブレードへと集中し貫通力を高める。
そして一気に突き抜けた。
敵艦は中心から裂け、砕けた洋菓子のように分断される。
「ふん……降伏すればいいものを……」
次の瞬間には弾けたポップコーンのように爆散した。





「敵の動きが遅くなったぁ……?」
レオン達が旗艦を倒したことで指揮系統がやられたのだろう。
プリュレはまだ酔っている。
「やったわねぇ……」
しぐれはぼうっとしながらスクリーンを見る。
「あったりまえよ。やればなかなかできるじゃないの、アンタ。
 まぁ、本気を出した私には劣るだろうケド。さすがに引き分けただけはあるわね」
「そ、そうかしら?うふふ♪」
先ほどまで対立していたのがウソのように笑いあう。
「ふふふ……あーはっはっはー!私達の勝ちよ!!」
高笑いしながら行動不能の艦を落とす様は恐怖感すら覚えてくる。
そんな彼女の声を聞きながらしぐれは眠りに落ちていた。
「くぅーー……」
「海賊に喧嘩売るから、こーゆーことになんのよぉう!!」
意思の無いはずの無人艦もさすがにプリュレには怯えているようだった。



「終わりましたよ、と」
メトロは満足気にルフトに言った。
ルフトは既にフェニックステールにいた。
メトロは懐からタバコを一本とりだし、一服する。
「まったくたまげたわい」
これには複数の意味が込められている。
一つはこれだけの敵をものの数分で倒したこと。
一つは海賊と手を組んでいたこと。
そして、一つは弟と同じく、天使を率いていたことである。
「それよりも、どうしたんです?こんなところで」
「いや、なに。ロームに行く途中だったんじゃよ」
「ロームへですか?確かに第3方面軍は集まっているかもしれませんが……」
ルフトは不適に笑った。
「確証があるんじゃよ。味方の通信を受信してな。行く途中に襲われてしもうたが」
「なるほど……ロームか。よし、発信準備で着次第、ロームへ向かうぞ。ブルーコスモスにも伝えてくれ」
「了解」
オペレーターが答える。
すぐにブルーコスモスへと伝わった。
「ここからならロームはすぐじゃ。ここに敵がいたということは、拠点が近いのかも知れんな」
「そうですね……」
「近いうちに大規模な作戦があるという。このままいけば、おそらくお前達が拠点攻略に使われるじゃろうな」
ルフトの言った事にまた戦わなければいけないのか、と憂鬱になりながら、メトロはタバコをふかした。
とりあえず、今は忘れよう。
「先生、パーティー会場に行きません?どうせすぐに片付けになっちゃいますし」
「まったく、おぬしもタクトみたいなことを言うのう」
「あいつと一緒にしないでください」
タクト――メトロは弟の呑気な顔を浮かべる。正直、いい印象は持っていない。
意外と狡猾で、良い所を持っていくこともあれば、わざと迂闊なことをして自分の立場を低くすることもある。
本音としては面倒ごとが嫌なのだろう。
たまに良いところを持っていくのはプライドだったり、ただ単に得したいからだ。
次男は有能だが、こういうことに気づいたりはしないし、タクトのような真似はできないだろう。
そういう意味でタクトは侮れない存在であり、問題外の者だった。

――あいつは今何をしているのだろう。

ふうと、煙を吐くとメトロは重い腰を上げ、会場へと赴いた。



「頭痛い……」
とにかく頭が痛い。ハンマーで叩かれたような感じ。
そりゃあ、大量のアルコールを飲めば二日酔いにもなる。
「……まだまだね、しぐれ」
となりを歩いていたスフレが言った。
戦闘から戻った後、しぐれはレオンに叩き起こされた。
水を思いっきりかけられて、少し寒い。
プリュレも同様に蒼奈にしょっぴかれていた。
あの状況では当分は絞られているだろう。
まぁ、とにかく彼女とも仲良くなれたのだ。

しぐれ達は救出した味方艦とそのクルー、避難民の受け入れ作業をしていた。
「はい、次の人ー、こっちですよー」
呼ばれた少女――いや、女性か――は近づくなり顔をしかめた。
しぐれの纏う匂いに気が付いたのだ。
「あら、お酒臭いわね」
「えっと、すみません……」
一応、顔を洗って、歯を磨いた。
香水もつけて、何とかごまかそうとしてみたものの、分かる人にはわかるらしい。
「まあ、いいけど。お酒、嫌いじゃないし。でも、軍も廃れたものね」
「ふぇっ……!すみません……」
痛いところを付いてくる。かといって彼女の表情から悪意は読み取れない。
長い黒髪だが、スフレとは微妙に色が違う。それにスフレは地面に付くくらい伸びているが彼女は腰の辺りまでだ。
しかし、どこか抜けている印象はスフレを相手にしているような錯覚を感じた。
情勢はしぐれとスフレをよくよく見ると、少し思案する様子で言う。
「ねぇ、貴女達って、本当に軍人なの?そうは見えないんだけど……」
「えっと、一応……先週から伍長やってます」
「……同じく、少尉」
「あら、そうなの?だから経験浅そうなのねぇ」
無自覚にこちらの傷付くことを言ってくるのは性格なのだろうか?
不快感を覚えないまでも、どうしようもない無力感がしぐれを襲う。
「でも、さっきは助けてくれてありがとう」
「あ、はい……あら?なんで私が助けたって……?」
「あなたの顔に書いてあるわよ」
「か、顔!?」
しぐれは女性に渡された鏡を取って自分の顔を見た。
いや、書いてあるわけが……



「ふ、ふぇぇぇ!!!?」



……書いてあった。



おでこに、私が助けましたと書いてある。
……いや、おかしい。
よく見ると鏡そのものに字が書いてある。
ご丁寧に逆さまに映るように左右対称に書かれている。
「な、な、騙しましたね!!?」
「うふふ、面白い子ね」
女性は愉快そうに微笑む。
「スフレちゃん、助けてー!」
「……面白いからこのままでいいわ」
「ひ、ひどいわぁ〜……!」
スフレに助けを求めるも失敗。
「も、もう!軍人を侮辱したら犯罪よ!」
「職務怠慢でよくいえるわねぇ?」
「うううっ!?」
しぐれは敗北を悟った。
だめだ。この人には敵わない。
「……部屋に着いたわ」
タイミングよくスフレが言った。
「ほ、ほら着きましたよ!えっと……」
とっさに呼び名が出てこない。
相手はそれを察したのか自ら自己紹介した。
「餡よ。龍之宮、餡。好きなように呼んでいいわ。そっちの人は私よりも年上みたいだし。あとタメ口でもいいから」
餡がスフレを指差して言う。
スフレは自分の年を言った覚えは無い。何故知っていたのか疑問に思ったが、知らばっくれるだろう。
別に気にしたことは無いが、しぐれはスフレをちゃん付けで呼ぶ。
だから、それよりも年下の餡をちゃん付けで呼んでもおかしくは無いはずだ。
「あ、はい。餡ちゃん……でいいのかしら?私は名雪しぐれよ」
「……スフレ・ランディール。よろしくね」
「ええ。しばらくよろしく」
龍乃宮餡は柔和な微笑で別れていった。




後にこの龍乃宮餡もまた、天使として目覚めるのではあるが、
それはまた別の話であり、別の次元の物語である。

続く
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