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第0章
Stage1:馬鹿野郎と巨体




宇宙の海。
飛び交うビーム。
飛び交う戦闘機。

「なんで俺、こうなったんだろ・・・?」


















話は数時間前に遡る。


ここは惑星ヴァイス。
砂漠が星を覆う不毛の惑星。

かつては文明があったらしい。
いくつもの遺跡が砂を隠れ蓑にするかの如く埋まっている。

「うは!ここはいい穴場だぜ。」

砂塵の向うに独りの人影。

「この遺跡の財宝は全部俺のものだもんねっ!」

奴の名はシュート・D・ルヒーラー。
自称「世紀の大盗賊団『NSM-X』の頭領」。
世紀の大盗賊団とはいうが、そんなの名ばかり。
単なるこそ泥集団である。

「これで俺の名もさらに有名になるってこった!」

意気揚々と遺跡へ侵入する勘違い野郎。
このことが後に自分、いや、宇宙の運命すら変えてしまうとは夢にも思うまいだろう。

「やべ、迷ったぽい。」

早速迷う馬鹿野郎。
遺跡の内部は入り組んでいて素人がむやみに入っていけば行き先は間違いなく天国。
もっとも、素人は遺跡に近づこうとすらしないので、天国行きになるのはテレビの冒険ド ラマに影響されたにわか者、そして小さな窃盗ばかりやっていて大物盗賊気取りしている アホばかりである。
無論、奴も例外無く天国への階段を登り始めるはずだった。

「うは、なにこの広い部屋は・・・。」

奴はとても広い、今まで見てきた空よりも広いとすら感じてしまう大きな部屋に『偶然』 入った。
そこには何も無い、何も無いからこそ余計に広く感じる。
・・・いや、何も無いわけではなかったようだ。

「な、なんだこれ・・・。」

目の前に飛び込んできたモノ。
一体の巨体。
自分が人間に食される豆だと思えるほどの巨体。
まるで、戦いに疲れた戦士のように壁にもたれ座っている巨体。
煤で汚れてネズミのような色をした巨体。

しばしの沈潜。
そして我に返った馬鹿野郎。

「うは・・・これはとんでもないものを見つけたもんだ!」

自分の置かれている状況すら忘れて大はしゃぎする馬鹿野郎。
無論、この巨体をどうやって運び出すか、そもそもどうやってこの迷宮を脱出するのか、 考えるはずもなかった。

「動かせるかね?」

コクピットを探す。

「これか?」

ボディの突き出た部分に触れてみる。


ぎゅいいいいいい


相当放置されてたことがわかる、錆付いた音。
そんな音をあげながらほこりだらけのコクピットが姿をあらわす。

「うは、こいつはすげぇ!」

早速搭乗する。
しかし、搭乗したところで操作方法がわからないとどうにもならない。

「これで起動するのかえ?」

とりあえず目の前にあるスロットルをいじってみる。
すると


ガガガガガガガガガガガガガガ


突如として機体が嬌声をあげる。
あたりの地面が躍動する。
天井が崩れ始める。
そしてねずみ色の巨体がゆっくりと動く。

「うは、すっげーや!」

まわりの状況よりも巨体を自分で動かせたことに興奮する馬鹿野郎。
そしてこの馬鹿野郎は考えず、ただ感じたままに機器をいじりはじめる。

「よっしゃー!いくぞぇー!」

ブースターから勢いよく熱風が吹き出す。
そして巨体は天井を突き破り、空へ飛び出す。
しかし、どうにも様子が変。

「あわわわ!コントロールできんぞー!」

やはりと言うべきか。
制御を失った巨体は縦横無尽に飛びまわり、やがて気圏を突き抜けて宇宙へと飛び出し た。






「ここはどこだ?」

宇宙へ飛び出してから幾時間が経ち、周りは上か下かもわからない暗闇に包まれていた。
宇宙の流れに従うように巨体は放浪し続ける。

このときから、すでに異変が始まっていた。



「・・・T-1が再び起動し始めただと?」
「はい・・・フーコー惑星系にT-1の熱源反応があります。」
「まさか、奴を操れる者はとうの昔に滅んだはずだ・・・。」
「いかがしますか?」
「・・・『ミュートラル』を30体、向かわせてT-1を捕縛しろ。」
「了解。」



一つの命令を出して闇に消えた男。
あの巨体の正体を知る男。



「まさか・・・いや、あの超科学文明・・・ガロメアならばあり得る話か・・・。」






未来が今、動き出す。

続く
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