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第1章
Stage1:ホルダ・アヴェスター【日常の中の怪奇】



人間の存在そのものが怪奇である。



人間が存在するから怪奇が存在する。



人間のみが怪奇を怪奇と意識する。




そしてここにも彼にとっての一つの怪奇が。



シュート「マジで・・・。こん背の低さで21歳・・・!?」
ミント「ええ。」

シュートは目の前に怪奇を意識していた。
明らかに130pも越えていない、「少女」。
それが21歳の「女性」であることを彼は怪奇と意識している。

シュート「いや・・・マジでマジでござんすか・・・?」
ミント「まぁ・・・大体、初対面の人にはそう思われるので慣れっこですわ・・・。あの方以外は・・・。」
シュート「あの方?」
ミント「いえ、昔の話ですわ。」
シュート「へぇ・・・。」
朱磨莉「信じられないのはわかるわよ。」
パピー「私も最初は信じられませんでしたもん。」
エリアーデ「でも隊長は5年前、最強のエンジェル隊の一員だったんだよ!」

5年前、忌まわしきエオニアのクーデター、ヴァル・ファスクとの交戦。
世界は揺れていた。人はひたすら平穏を祈ってた。
そんな折、世界を救った「救世主」。

ムーンエンジェル隊。

銀河最強の天使達。


シュート「えええっ!?スッゲ・・・!あの最強の?」
朱磨莉「そう。」
セアラ【あの頃のエンジェル隊は本当に素晴らしかったのです。】
エリアーデ「抜群のチームワーク!屈強な紋章機!そして素晴らしき指揮者!!全部が揃った奇跡の天使達って言われてるんだよ!」
シュート「そうなんか・・・。」

ようやくシュートは理解できたようだ。

ミント「ところで、先ほどこの機体を遺跡から持ち出したと聞きましたが・・・。」
シュート「んあ?そうすけど?」
ミント「その遺跡・・・どこの星にありますの?」
シュート「えーと・・・ヴァイスってとこ。」
ミント「ヴァイス・・・?」

怪訝な表情をする隊長。

パピー「ヴァイス・・・惑星ヴァイスですか!?」
朱磨莉「知ってるのかパピー!?」
パピー「知ってるもなにも超有名ですよ!!」
朱磨莉「あくまで狭い仲間の範囲でだろ?」
パピー「惑星ヴァイス・・・現在は全体の85%以上を砂漠が覆っている不毛の惑星。しかしそこには太古の昔に非常に高度な超古代文明が存在してたと言われており、今まで数々の学者たちが探索に向かったまま行方不明となっている・・・別名「呪いの惑星」!そしてその行方不明者続出の理由としては古代人たちが惑星全体に何らかの秘術をかけたとも、あるいは未知の科学の力で・・・!!」
朱磨莉「わかったわかった・・・もういいっての!」
シュート「・・・なんかすげぇな。」
セアラ【一度語りだすと止まらないんですよ。パピーさん。】
朱磨莉「全く、算数もできないくせにどうしてこんな薀蓄にはやたら詳しいのかなぁ・・・。」
パピー「探求の心があるからです!」

カズミ「・・・で、貴様はどうしてその「呪いの惑星」に入れたんだ?」

今まで沈黙を守っていた少女が口を開いた。

シュート「さぁ?」
朱磨莉「さぁ?って・・・そんなあっけらかんな・・・。」
シュート「そんなこといわれてんなぁ・・・。普通に惑星にも、遺跡にも入れたし・・・。そもそも「呪いの惑星」だなんて初めて聞いたぞぇ。」
ミント「これは、少し調査をする必要がありそうですわね・・・。」
シュート「調査てーと・・・。」
ミント「その惑星ヴァイスに潜入し、遺跡の調査をするのですわ。」
朱磨莉「でも私たちにはミュートラル退治の役割がありますし・・・。」
カズミ「そのようなものは考古学者たちに任せればよいかと・・・。」
あまり乗り気ではない2人に対して・・・

パピー「ぜひ!ぜひともやりましょう!!!」
エリアーデ「なんだか面白そう!!!」

バカの二乗はすっかりハイテンションに。

朱磨莉「そんなこと言っても「呪いの惑星」っていうほどだし・・・。」
パピー「呪いだったら朱磨莉さんが解けるじゃないですか!」
朱磨莉「私の錬骸術は呪いをかけることはできても浄化することは出来ないのよ。」
セアラ【私は反対しません。】
朱磨莉「どうしてよ?」
セアラ【もしかしたらあの機体は我々帝国軍の貴重な戦力になりうることはまずわかりきったこと。】

セアラはせっせと筆を進める。
筆談はなれたものだからか、非常に速筆である。

セアラ【あの機体を修復しているうちにわかったのですが、あの機体には現代の科学力ではなしえない、非常に精密で進歩的な技術が使われています。
もし、シュートさんの言うことが本当であれば、その遺跡には何らかの秘密があるに違いありません。
もしそれをリボルドイビルが嗅ぎ付けていたとすれば奴らは確実にその古代文明の技術を使い兵隊を強化してくるに違いありません。そうなれば私たちの手だけでは防ぎきれないと思います。
逆に奴らよりも先に古代文明の技術をものにすれば奴らはひよっ子同然でしょう。だから、私は遺跡の調査に乗り出すべきだと思います。】
シュート「なるへそ・・・。」
エリアーデ「要はその古代文明の技術があれば私たちの天下ってことね。」

口頭でなく文章での説明のうえ、セアラの書く文面は非常に丁寧であるためにバカなシュートやエリアーデでも十分に理解できたようだ。

ミント「決まりですわね・・・。では、あの機体の修復が終わり次第、惑星ヴァイス調査を開始いたしますわ。よろしいですわね。」
5人「はい!」
シュート「へ、へぇい!」



その後、シュートたちは応接間にやってきた。

カズミ「とりあえず、あの機体の所有者である貴様にも協力してもらう必要がある。わかってるな。」
シュート「へぃへぃ、わかっとりますわい。」

シュートは気だるそうに答える。

パピー「どうしたんですか?顔色が冴えないですけど。」
シュート「いや・・・長い間あの機体ん中座ってたからか、どうも具合悪いんすよ・・・。」
朱磨莉「それってエコノミークラス症候群ってやつじゃない?」
シュート「オコノミーください?」
朱磨莉「はいはいベタなボケ禁止ね。まぁ、長時間座っていた影響で体の血の流れが悪くなったのよ。」
シュート「そうなんすか・・・。」
エリアーデ「本当に大丈夫か?」
朱磨莉「医務室行ったほうがいいんじゃない?」
シュート「うーん・・・そうするす・・・。」
パピー「あ、私が付き添いますよ!」

こうしてシュートとパピーは医務室へ向かった。


しかし、シュートはそこでまたしても怪奇と遭遇する。


シュート「し・・・失礼しまーす・・・。」
「はい・・・いかがしましたか・・・?」
パピー「あ、実はこの人・・・。」

パピーは状況を説明する。
医務員は非常にきれいなエメラルドグリーンの長髪を持ち、その瞳は燃えるような真紅色。

シュート「え・・・と・・・あんたさん・・・誰すか?」
「初めまして、シュート・D・ルヒーラーさん。私はワイバーンエンジェル隊医務担当のヴァニラ・Hと申します。」
シュート「ヴァニラ・・・さんでござんすか。しっかし・・・。」
ヴァニラ「何か?」
シュート「あんさんも随分とちっこいねぇ・・・。いくつ?」
ヴァニラ「18歳・・・ですが。」

ヴァニラも、やはり18歳という割りに背が平均より足りない。
140cmをやっとこさ越えている程度だろう。

パピー「こら!お姉さまに失礼なこと聞かないの!!」
シュート「お、お姉さま!?」
パピー「そう!私とお姉さまは旧知の仲なんですよ!これもきっと運命なんですよ!!」

絶叫しながらヴァニラに思いっきり抱きつくパピー。

シュート「どのような・・・ご関係なんすか、お二人さん。」
ヴァニラ「私たちは孤児でして、同じ教会で育てられたんです。」
シュート「なぁんだ、ただのクラスメートみたいなもんすねぇ。」
パピー「違いますっ!私とお姉さまは友達以上、恋人以上なんです!」
シュート「恋人以上て・・・。」
パピー「私、お姉さまに近づきたくてエンジェル隊に入隊志願したんです!今はこうして毎日ラヴラヴなんです!!」
ヴァニラ「・・・・。」

パピーのハイテンションぶりとは裏腹にヴァニラは明らかにちょっとヒキぎみな顔をしている。

シュート「まぁ・・・とにかく、俺休みたいんすよ・・・。いいっすか?」
ヴァニラ「大丈夫です・・・。こちらへ来てください。」

そう言われると、一台のベッドの前に連れてこられた。

ヴァニラ「上半身の・・・服を・・・脱いでいただけますか?」
シュート「えええええっ!?」
パピー「えええええっ!?」

二人は、互いに違う意味で狼狽した。

パピー「お姉さま!私というものがありながらっ!」
シュート「おおおおおお俺、まだあだだだだだだ心がぁあだだぁsttjdちゅzsぐぁrt!!」
ヴァニラ「いえ・・・ただ治療をするだけですから・・・二人とも落ち着いて。」
パピー「あ、あ、なんだぁ・・・よかった。」
シュート「な、なんだぁ・・・そうだったんかい・・・。」

とりあえず、言われたとおり上半身の服を脱ぐシュート。
その体はなかなか良いガタイをしている。

ヴァニラ「では・・・動かないでください・・・。」

そう言うと、ヴァニラはシュートの心臓近くに手を当てた。

ヴァニラ「・・・・ナノマシン!」

するとどうだろう、手が青白く光りだしたではないか。
シュートはビビりまくったが、動くなと言われたので我慢した。
すると

シュート「あ・・・体が軽くなってくすわな・・・。」

その手からは不思議な波動が出ていた。
それは心臓へ直に響いた。
そのうちに、不思議と体はよくなっていった。

シュート「うはー!復活すー!」
ヴァニラ「もう大丈夫です。」
シュート「あんがとさんですわな!ヴァニラさん!」
ヴァニラ「はい・・・。」
シュート「でも、あの青白いのはなんなんすか?」
パピー「あれはお姉さまが操るナノマシンの治癒の力なんですよ!大概の怪我や病気はこれで治せます!」
シュート「うは・・・スッゲ・・・・!ほんとにスッゲぇぇぇぇ!!!!!!」



シュートの雄たけびは艦内に、非常によく響いた。



続く
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