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第1章
Stage2:ウィーデーウ・ダート【露天の蒼き龍】



かつてそこには、世界があった。



世界に終わりなんてないと思っていた。



でも、おもちゃが壊れるように



あの世界も、あっけなく壊れた。






「惑星ヴァイスねぇ・・・まぁ、ここからなら3日かからないかな。」

モニターを眺めながら話す男。
ミント「そうですか、ありがとうございますガジェットさん。」
ガジェット「ところで、そんな辺鄙な星に何しに行くわけ?」

金髪のいかにも軽そうな男、ガジェット・ディステファーノは問う。
ミント「ええ・・・少々気になることがありまして・・・。」
ガジェット「でもいいの?あんたらへの指令って、「南部海域のミュートラル殲滅」じゃなかったの?」
ミント「でも、もしかしたらこの調査次第で私たちが大いに有利になれるかもわかりませんわ。そうなればミュートラル殲滅もいと容易いことですわよ。」
ガジェット「へぇー・・・。」
ミント「上層部には私から言っておきますわ。あなたは安心してこの空母を動かせばいいだけですわ。」
ガジェット「へへっ、そいつは助かったぜ。艦長って結構荷が重いからよぉ。」

この男、実はこの『ザラスシュトラ』の指揮をとる艦長である。
実は艦長を決める際、「くじびき」で決まった「くじびき艦長」。
というのは建前で、元から実力はあったものの全くやる気が無かったので業を煮やした上層部の計りで「くじびき」の中身を絶対に彼が当たるようにしたのであった。
まぁ、今の状態を見れば未だにやる気を出していないのは見えみえではあるが。

ガジェット「んじゃ、俺風呂に入ってくるわ。」
ミント「はいはい・・・。」


トランスバール皇国軍軍用超弩級機動空母『ザラスシュトラ』。
機動空母と名乗るだけあり、全長は一般の貨物船の100倍以上はある。
この中にはリラクゼーション施設、娯楽施設、訓練施設、防災施設など、いわば一つの大都市がすっぽり戦艦に収まった状態といえる。
入浴施設が無いほうがおかしい。
ザラスシュトラ内には大浴場の他、バルコニー状になった露天風呂などがあり、そこは所謂『スパリゾート』のような豪華絢爛な施設である。



シュート「はぁぁぁぁぁ・・・気持ちええのぅ・・・。」



すっかり観光客気分で露天風呂につかっているシュート。
そんな折に



ガジェット「ちょっと隣、よろしいかな?」
シュート「あ、どうぞどうぞ。」

無責任艦長ガジェットと大馬鹿野郎シュートの初対面。


ガジェット「君は例の『巨体』に乗ってたていう男かな?」
シュート「ええっ!?なんでそれを・・・。」
ガジェット「当たり前だろ。艦長だから乗組員の顔は全員覚えてるさ。君の顔は見たこともない、だからわかったわけ。」
シュート「てか艦長て!てことはこん中で一番偉い人ってことでんすか?」
ガジェット「まぁ・・・そうだねぇ。」



「すいませーん、入らせていただきますよー、艦長。」



誰かがまたやってきたようだ。

その顔を見てシュートは目を疑った。

シュート「うううううはっ!!!大オオ大んxちぇst女の子xtyのんxづjzsryghw!!」
ガジェット「ばーか。あいつはれっきとした『男』だよ。なぁ、レーキ。」
シュート「へ・・・?」
レーキ「まぁ・・・どうせ僕は男らしくないですもん・・・。」


その『男』・・・レーキは女々しくすすり泣きしている。
その姿はどうみても女の子そのものである。

ガジェット「こいつは空母整備クルーのレーキだ。こんな女々しいやつだが『玉』はついてるぜ。」
レーキ「レーキ・スタントンです。よろしく。」
シュート「俺はシュートて言うす。よろしゅうです。」
ガジェット「おう、よろしくな!ちなみに俺の名はガジェットだ。」


3人は互いの自己紹介を済ませ、意気投合した。
そのとき、露天風呂の向こう側から音がした。


「はぁー、やっぱりお風呂に入るときが一番気持ちいいですね。」
「はー、本当だねー!」
「てかエリアーデ、あんたちゃんと体洗ってから入ったんでしょうね?」
「あはははは!知らない!」
「くぉらー!マナーはちゃんと守れー!」
「朱磨莉さんは風呂のときだけやたらに礼儀とかそういうの気にするねぇ。」
「それは私が風呂に入ることが大好きだからよ!愛ゆえのことよ!」
「バカバカしい・・・。」


どうやら向こう側、女湯にワイバーンエンジェル隊の面々が入ってきたらしい。

同時に、男陣営の言葉が止まった。


シュート「みんなが入ってきたみたいすよ。」
ガジェット「静かに・・・。なるべく声を出すなよ・・・。」


なぜかシュートに静かにするよう命令したガジェット。
まもなく、なぜ彼がそんな命令を出したかがわかった。


パピー「カズミさん、なんでそんなに胸隠してるんですか?」
カズミ「こちらの勝手だ。悪いか。」
エリアーデ「恥ずかしがらないで、そぉーれ!」
(ばっ)
カズミ「――――――!!」
パピー「わっ!すごいおっきぃですね!」
カズミ「う・・・うるさい!」
エリアーデ「いつも一人で入ってるのは、てっきり胸に自信が無いからだと思ったのに・・・!」
パピー「ほら、セアラさんも『素晴らしい豊乳ですね』だって!」
朱磨莉「なんつーか、素直にうらやましい!キー!」
カズミ「だからこいつらとは入りたくなかったのに・・・。」



そんなものすごい会話を息を殺し、ただ集中して聞いている男陣営。
よくみるとガジェットとシュートの目は完全にエロ妄想をしている目である。
おそらく、有り余る想像力で向こう側で起こっている出来事を想像してるのだろう。
嗚呼、男はエロのことについては3倍の力を発揮するということは本当だったようで。


ガジェット「ふふふ・・・ついにアレを使うときが来たか・・・。」
シュート「アレって?」
ガジェット「ちょっと俺について来い。」


ガジェットは風呂からあがると、壁の一部に向かった。
その壁は合金で作られた男湯と女湯を仕切る壁。

ガジェット「こいつをみろ・・・。」
シュート「こ・・・こりは・・・っ!」

シュートが見たもの。
それはなぜか固い合金の壁にあけられた直径10センチ程度の穴であった。


ガジェット「ふふふ・・・こいつは俺が女湯をのぞくために3ヶ月もの時間をかけてあけたものだ。」
シュート「3ヶ月て・・・。でもよくバレなかったもんで。」
ガジェット「当たり前だ。この角度からなら女湯のほうからは死角となり、男湯からはほど確実に女湯を見回せる・・・ある意味での『絶対領域』だからな・・・。」
シュート「スッゲ・・・。」


本当に、何ゆえ男はエロのためならばここまで天才的になれるのだろうか・・・。


ガジェット「レーキ、お前も見るか?」
レーキ「ええっ・・・!?」
ガジェット「なんだよ、シケてんなぁ。そういうところも含めてお前は女っぽいんだよなぁ。」
レーキ「・・・べ、別に嫌とは言ってませんし・・・ですからぁ・・・。」
ガジェット「そうか・・・ならば・・・。」
シュート「自分に素直になろうや・・・。」
レーキ「・・・はい・・・。」


レーキも加えて、女湯という桃源郷を覗き込むことになったエロス共。
しかし、女湯のほうではとんでもない事態になりかけていた。


朱磨莉「なーんでカズミ如きにこんな・・・!宝の持ち腐れよっ!!」
カズミ「わしかて、好きでこのようになったわけではないわ。貴様の体が羨ましい。」
朱磨莉「なんですってー!!」


朱磨莉がやたらにカズミの胸にジェラシーを抱く理由はただひとつ。

自分の胸が貧困だから。

とても最年長(20歳)には思えない、所謂「ごぼう体型」な朱磨莉。


エリアーデ「でも、朱磨莉のそれはそれでニーズあるんじゃないの?」
朱磨莉「ピンポイントすぎるわっ!」
エリアーデ「怒らないでよー。私も仲間なんだからー。」
朱磨莉「あんたとは事情が違うのよこのおチビ!!」

エリアーデは、歳に不相応な体型・・・いわば「幼児体型」。
背が低いことはもちろん、胸もほとんど突き出ていない。
このような体型と一緒くたにされることは、朱磨莉にとっては屈辱以外の何物でもない。


朱磨莉「むかつく〜!もう、あんたなんか今ここでぶっ倒してやる〜っ!」
カズミ「ほう・・・やるか・・・?」
パピー「こんなところで喧嘩しないでくださいよー!もう。」

オーディエンスに回っているのはパピーとセアラ。
二人は、いたって標準的な体型である。
しかし、パピーはまだ成長期なため、今後が楽しみな有望株でもある。


朱磨莉「パピーは黙ってて・・・これは、あたしのプライドと意地を賭けた『斗(たたか)い』なんだから!」

朱磨莉は、髪の毛の飾り代わりに結っていた符を構える。

カズミ「ふん・・・胸のことなぞどうでもいいが・・・ここは少し灸を据えてやる必要があるな・・・。」

カズミも扉に立てかけてあった自慢のエモノ『備前長船』を手に取る。

パピー「ああもう・・・どうしよう・・・。」
エリアーデ「もう知らなーい・・・。」

一気に空気が凍てつく。
温泉の湯気が、今にも凍りつきそうだ。
二人はにらみ合う。
互いのわずかな隙を狙うために。
そして、カズミは朱磨莉の右腕に髪の毛ほどの隙を見つけた・・・。


カズミ「はぁぁぁぁぁっ!!」

一気に切りかかる。
寸でのところで朱磨莉はかわす。
常人ならばここですでにこときれていた。
しかし、彼女たちは違った。

朱磨莉「くっ・・・。」
カズミ「どうした、先ほどまでの勢いは!」

朱磨莉の符は詠唱の時間を必要とする。
そのため、カズミのハヤテのような攻撃の連続には相性が悪い。
しかし、彼女は負けられなかった。
すべては、胸の恨みのため・・・。


カズミ「これで最後だぁぁ!」

カズミが『決め』るために攻撃を止めた。
朱磨莉は、その一瞬を逃さなかった。

朱磨莉「今だっ!」

「普賢菩薩 金光大明神 十二天 西方広目 水天夜叉明王」

朱磨莉の周りに大気が渦巻く。
そして足元には普賢菩薩が映る曼荼羅が浮かぶ。
朱磨莉の体には青白い光が包み、詠唱の邪魔をするものを妨げる。

カズミ「しまった・・・うかつだった!」

朱磨莉「オン アハン ハタエイ ソワカ!出でよ、大魔空蒼龍・『阿耨(あく)』!!」

すると温泉が突然わななき始め、龍が飛び出してきた。
正確には、『温泉の水が龍に変わった』のだが。

パピー「やぁぁぁぁ何これ!?すごいすごいすんごーい!!」
エリアーデ「温泉が龍になっちゃったよー!!」
セアラ「・・・・・!?」

温泉につかっていて、もろに龍に飲み込まれたパピー・セアラ・エリアーデ。
しかし、今の朱磨莉にはそんなことお構いなしだった。

朱磨莉「行け!阿耨!!その凶悪殺人鬼女を飲み込んじゃえー!」
カズミ「ぐっ・・・!何をっ・・・!」

カズミは刀を構えなおした。
目の前には迫り来る蒼い龍。

カズミ「精神を統一しろ・・・無我の境地へ・・・。」

カズミは目を閉じて、今ここにある全ての事象を『忘れた』。
そして今倒すべく蒼い龍にのみ意識を集中し・・・。

カズミ「てぇぇぇやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

目を見開いた瞬間、カズミは蒼い龍に斬りかかった。
その刀筋は蒼い龍を口から真っ二つに引き裂いた。

朱磨莉「うそっ!水が刀で斬れるはずなんてないのに・・・!」

朱磨莉は目の前の光景に狼狽した。
絶対に倒されないと思っていた水の龍が、まるで肉体を切り裂かれたように真っ二つになったからだ。

カズミ「精神を一点に集中し、そこに全ての力を注ぎ込めば、水を斬ることなぞ容易いこと・・・。」


しかし、本当の惨劇はここから始まった・・・。
水の龍は力を失い、『元の水に戻った』のだ。

朱磨莉「やばい・・・。」
カズミ「なぜだ?」
朱磨莉「温泉の水、全部使って召喚したから・・・。それにね、空気中の水分もだいぶ使っちゃったし・・・ほら、空気が乾燥してるでしょ?」

確かに、本来水が張ってある穴には、何も入っていない。

パピー「そうだよー!このままだとー!」
エリアーデ「みんな全員ー!」
セアラ「・・・・・・!!」

3人が言を言い終える前に、水は2人を襲った。

朱磨莉「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
カズミ「ぐぅぅっ・・・!」




その頃、エロス3人組はというと・・・

ガジェット「あいつらなんでこんなとこでドンパチ騒ぎしてんだよっ・・・。」
シュート「確かにあぶねーすわな。」
レーキ「そうですねー。」
ガジェット「あいつら動き回るせいでおっぱいがじっくり見れねーじゃねーかっ!」
レーキ「そこが問題なんですか・・・。」
シュート「ん?てゆかー・・・なにあれ?」

目の前に水が迫ってくる。

10センチほどの穴からでもはっきりわかる量の水が。


どっばぁっしゃぁぁぁぁぁぁぁんんっ!!


3人「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

水の威力は恐ろしい。
合金でできた壁をいとも簡単に打ち破ってしまった。

洪水は男湯の面々も巻き込み、ごちゃごちゃなミキサー状態になった。






「ここは・・・どこすか?」





「うーん・・・まだ意識がはっきりしねーす・・・。」





「あー・・・多分ここ天国だわな・・・。」






「天国のじゅうたん・・・柔らけー・・・。」




「あー・・・あったけーなぁ・・・。まるで・・・まるで・・・ん・・・?こ、こりは・・・・?」



手に握ると確かなぬくもりと、マシュマロのような感触。
この感触を、シュートは覚えていた。
そう、はるか昔、自分の母親に抱かれていた頃に・・・。
安らぎを感じれた、あのぬくもり・・・。


シュートははっきりしない意識を無理やり起こして、顔をあげる。


シュート「あり?なんでカズミがここにいるん?」
カズミ「さぁ・・・なぜだろうかなぁ・・・。」

なにか物言いたげなカズミの顔。
顔が紅潮しているのは、風呂の湯気のせいか・・・いや違った。
シュートはすぐにその顔が、何を言いたいかを理解した。


シュート「!!!!????」

シュートは天国に行ったわけではない。
カズミの胸に飛び込んでいたのだ。

シュートが天国のじゅうたんだと思っていたものは無論カズミの・・・。

シュート「ここここここりはぁぁぁぁ!!!!」

カズミからものすごい速さで離れるシュート。
その目に映るは。

ワイバーンエンジェル隊、5人の一糸まとわぬ姿であった。


シュート「!!!!!!!??????」


完全に混乱状態になったシュート。

ガジェット「ひゃー!カズミちゃん、いいおっぱいしてんなー!!」

エロ艦長は、むしろ自分は世界一の幸運の持ち主だと思っているようだ。

レーキ「あ、あ・・・あの・・・その・・・。」

レーキは手を顔に当てて必死に見ないように努めていた・・・ように見えたが指の隙間からちゃっかり眼福をご馳走になっていた。
レーキも、やはり男である。

シュート「ひぃぃぃぃ!お、俺らは決して覗いてなどはぁ・・・!」
ガジェット「バカ!何言ってるんだ!」
シュート「ああああっ!」
カズミ「ほほぅ・・・。そうか・・・。」
朱磨莉「あたしたちの素晴らしいお体がそんなに見たかったの・・・。」
エリアーデ「どうでした?感想は?」
シュート「あの・・・その・・・天国ですた・・・・・・。」

カズミたちの周りには禍々しいオーラが漂う。


カズミ「そうかそうか・・・。」
朱磨莉「それじゃぁ・・・。」
エリアーデ「天国の次は・・・。」


シュートは、死を覚悟した。


カズミ「たっぷり地獄を味わってもらおうか!!!」

シュート「ぎゃぴぃぅrdy:xdyr亜ウェくぁsrfg所ぽk『lkcfhjcghd@・@ー¥p!!!!」












高い天井に、悲鳴が響く。
露天の空に、悲鳴が響く・・・・。



続く
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