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「姉ちゃんなかなか嵐止まないね。」
「そうね。ラジオでもやっていたけど観測史上最悪らしいわよ。」
「兄貴も無事だといいんだけど。」
「ほら、そんなに気にしてると嵐も止まないわよ。」
「嵐は関係ないよ〜」
「ふふ、そうね。」


「あれ、急に明るくなった?嵐が止んだのかな?」
「ここは地下よ。ベルギーったら…」

光が全てを飲み込んでゆく。
そこにあるイノチの全てを…
破滅の光だけを残して…



月の導き


第7話 「覚醒」


「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

コックピット内にキュアンの叫び声が響きわたる。

「お前ら!!!ッ絶対に許さねぇぇぞ!!!」

キュアンは全力で操縦桿を握り締める。
しかし、彼意思に反して紋章機はピクリとも動かなかった。

「どうなってんだ!!アニス!!」

思わずアニスに怒鳴りつけるキュアン。

「イヤ…」

いつもと様子が違うアニスであったが今のキュアンは…

「ヤツらを倒すんだ!!パイナ達の仇をとるんだよ!!」

再び怒鳴りつける。

「どうしてなの…」


…ドクン

心臓の鼓動がアニスの全身を襲う。



「…あっ」


…ドクン

再び鼓動が襲う。
それとほぼ同時に紋章機内のモニターが次々と消えていく。

「なにがどうなってるんだ!!」

今起きている現象に動揺するしかないキュアンにB.K.から通信が入る。

『くっ、この感覚!!まさかアニス!!お前さんにはまだ早すぎる!!』
「B.K.なにか知っているのか!?」
『はやく脱出せい!』
「訳がわからねえよ!」
『殺されたいのか!!』
「だから…うっ!」

暗闇に満ちたムーンライトミラージュのコックピット内に異様空気が流れだす。
それは明らかに人のものとは言いがたい気配。
キュアンにとっては今まで感じたことの無いような気配。
感じているだけでその身が砕けてしまいそうな気だった。

「…なんだ。」

意識が除々に奪われていく。

「どう…なって…」

キュアンはその場で気を失った。





一方敵の巨大戦艦の…

「ん?あの紋章機急に動きが止まった?ふん、丁度いい、止めをさしてやろう。
ガーン・デーヴァ標準を停止した紋章機に合わせろ!
白騎士と他の艦隊はB.K.を抑えろ!」
『了解。』

白騎士はクロノスファントムをB.K.の方へと向けた。







ただ普通の日を送りたかった…
ベルギーくんとなわとびして。
パイナさんからお料理を習って。
街の人たちとたくさんお話して。
お父様から抱きしめられて。
ご主人様になでてもらう。
そんな日々が嬉しかった。
たとえ私が戦う為の存在だったとしても。
ご主人様に見せてもらった海
山…
空…
街…

そして皆…
誰も守れなかった…

私は…

私は…




再びコックピット内のモニターに光が宿る。
そして自然と口が動き出す。

「アナザーライブラリ接続…
情報区画W889より検索…
Eユニットに関する情報検索…
クロノ・クロス・システム直結…
エタニティフォトナユニットの使用許可…

承認確認…
転送ポイント指定…」


かつて無いほどの情報量がモニタに表示される。
それをH.A.L.O.を活用し処理していくアニス。



「アニス!今行くぞい!」

B.K.はアニスの元へ急ぐ、しかし白騎士の乗るクロノスファントムと数百隻の艦隊があった。

「撃破せよ…」

白騎士の一言で一斉に攻撃を開始する。

「くっ、これでは…!」

ルナティックドラグーンの高機動性を生かし何とか回避を繰り返すが先には進む事は出来なかった。





「充電完了だな。撃て!」

再びサティの戦艦より狂気の光が放たれる。


「其の名深き異界の力と知れ…

我は闇の魔の者なり…

我は光の魔の者なり…

全ては我に集い、また放たれる。

故に我は魔を統べるものの落とし子なり…」


アニスは小さく呟く。
その瞬間に彼女の瞳は深き闇の色へと変わりその背には薄紫の光の翼が…


彼女は覚醒する。





狂気の光がムーンライトミラージュを包み込む。

「ふふふ!B.K.今度はお前の番だな!」
「…まだ終わってはおらんよ。サティ」
「何!?」

なんとあの攻撃の中ムーンライトミラージュは傷一つ付いていない状態だったのだ。
そして何よりムーンライトミラージュに薄紫の光の翼が光輝いていた。

「バカな!!」


「損傷率0%…
エネルギー値問題無し…
H.A.L.O.同調率99.89%…


各部正常…


Eユニット・召喚。」

ムーンライトミラージュの周囲が捻じ曲がりそこに何かが現れる。

「何だアレは!!こっちの情報にはそんなものない!」

それは300mを越える2門の巨大な二又の砲身。左右に巨大に展開しているレーザーファランクスの翼、
その大きさでも自由に宇宙を駆ける巨大なブースター

「ロックオン。」

瞬時に200隻もの戦艦を標準に収める。

「滅びの蜃気楼。」

そして戦場に幾多もの閃光が走る。
美しくも破壊に満ちた光は次々と敵艦を貫いていく。
そのことごとくを…

「そんな…。」

サティは自分の目を疑った。
一瞬にして自分の艦隊の半数を失ったのである。

「ふふ、面白い!ならば私が相手をしよう!」

サティは戦艦を自動制御に切り替えた後、格納庫へ向かった。
そこには一機の小さな戦闘機があった。

「ふん、ジャッジメントアールマティ出撃だ。」

宇宙へと飛び立つ。

「αからθの兵装を展開。」

サティのその一言で宇宙空間に歪みが発生しそこより武器が発生する。
ジャッジメントアールマティはそれを身にまとい宇宙を駆ける。



残った敵艦は次々と搭載している戦闘機を繰り出してくる。

「消えて。」

巨大な砲門から放たれる超高出力のビームにより一気になぎ払われる。
残った敵はレーザーファランクスにより寸分の隙さえみせなかった。
あっと言う間に敵艦は100を切っていた。

「そこまでだな!」

サティの紋章機ジャッジメントアールマティが攻撃を始める。

「無駄よ。」

その攻撃はことごとくムーンライトミラージュに接触する前に拡散していく。

「この位相数値…ポジティブ・クロノ・フィールドか!!ならば!」

サティは目を閉じる。

「魔天使覚醒…」

今度はサティの乗るジャッジメントアールマティに翼が発生する。

「ιよりφまで開放!!」

さらに空間が捻じ曲がり新たな兵装が現れる。
もとのサイズの3倍近くの武装の数々。
今のムーンライトミラージュより巨大な姿。

「行け!死者の翼『デイベル』!!」

ジャッジメントアールマティより多数の遠隔ユニットが放たれる。

「レーダーから消えた…ステルス!?。」

遠隔ユニット『デイベル』は放たれたとほぼ同時にそのレーダーから消えたのであった。

「でも。同じこと。」

今のムーンライトミラージュには正位相のクロノ・フィールドで守られている。
まずこれを打ち消さないと紋章機には傷一つ付けることは出来ないのである。

「そのくらいのステルスで。」

瞬時に別のレーダーが多数表示される。

「見つけた。」

いかに精度の高いステルスでもその周囲にわずかに空間変動が起きる。
アニスは多数のデイベルを瞬時に読取ったのであった。
そしてほぼ同時に迎撃。

「この程度では無駄よ。」
「ああ、わかっている。だからそれは囮。」
「えっ。」

アニスがデイベルの迎撃に入っている間に一気に至近距離にまで接近していた。

「この距離でこれを使えばどうなるかな?ジ・エンドタイム!!」

「!」

空間は歪曲し周囲のものを飲み込んでいく。
破壊された戦艦に小惑星…


「ふふ、チリ一つ無くなったか。」


サティの乗るジャッジメントアールマティの周囲数百キロの空間あった全ての物質が消滅していた。


「それはどうかしら?」
「なに!!」

ジャジメントアールマティのコックピットに衝撃が走る。

「どこだ!!」

ムーンライトミラージュの二又の砲身はジャッジメントアールマティの両翼を掴むような形になっていた。

「アストゥラッツィオーネ…」

零距離から放たれる閃光は瞬時に装甲を消滅させる。

「くっ、ここまでやるとは…脱出する。」

サティは溶けきった武装を切り離し、その場より立ち去る。

「逃がさない!」

逃げようとするサティをロックオンする。

「やめるんじゃアニス!」

逃げるサティを庇うかのようにB.K.の紋章機が正面に立つ。

「お父様どうして!?」
「…これ以上はよいじゃろう…」
「でも!…!!」


…ドクン。


アニスは心臓が締め付けられるような強い感覚に襲われた。
そしてその場に倒れこんだ。


「すまない…アニス…
すまない…パイナ、ベルギー…
すまない…あの街に住む人々よ…」

B.K.は無限に広がる宇宙を見つめ呟いた…





次回予告
俺はどこまであいつらの事を知っていたのであろうか。
3ヶ月…
長く短い時の流れ。
俺は意識と無意識の狭間にてそれを見る。
月の導き

第8話「キヲク」
大いなる月の加護があらんことを…


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